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おすすめノンフィクション

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毎月掲載「気になる来月のノンフィクション」をはじめ、本を紹介した記事をこちらにまとめています。
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記事一覧

国境の島でおきた「JA職員の溺死」を追いかけた執念の取材が浮かび上がらせる「人間の業」

2019年2月のある朝、国境の島、対馬の小さな港で軽自動車が海に転落し、運転していた当時44歳のJA職員が亡くなりました。 この職員は共済金の営業で、歩合給も含めて4000万円を超える年収を手にしていたJAでは「神様」ともいわれた人物。JA共済連が開催する表彰式で「総合優績表彰」を毎年のように受賞していました模範的な営業マンだったのです。 しかし、死の直前に横領の疑惑が持ち上がっていました。その被害金額は少なくとも22億円にのぼるといいます。 なぜわずか人口3万人ほどの

プーチンに勝った主婦、マネーの世界史、金融ディストピア…12月の気になるノンフィクション

7月に発表され書籍としての刊行が待たれていた、本年度の開高健ノンフィクション賞受賞作品『対馬の海に沈む』がいよいよ発売されます。 タイトルを聞いただけだと、どこかの沈没船をめぐる話のように聞こえますが、テーマとなっているのはJA対馬で起こった共済金の不正流用問題です。対馬という人口の少ない島にもかかわらず、全国でも並ぶ者がないほどの成績を収めていた農協職員。その男性が不正流用の疑いをかけられたまま運転中に海に転落、溺死したのです。その軌跡を追い、JAの構造を明らかにしたとい

新疆ウイグル自治区の強制不妊疑惑をスクープした調査報道記者が中国「三国志の聖地」を徹底的に取材した

『三国志を歩く 中国を知る』という旅行ガイドのようなタイトルを見て旅行モノを思って気楽に読み始めたら、圧倒的な知識と取材をもとに現代中国の実情を描き切るルポルタージュでした。 執筆者は西日本新聞の前中国総局長、坂本信博さん。 外国人労働者との共生を考えるキャンペーン報道「新 移民時代」をリードし、出入国管理及び難民認定法の改正につなげたり、読者とのやりとりを起点する調査報道「あなたの特命取材班」を展開しジャーナリズム・オン・デマンドを提唱したりするなど、調査報道の第一人者

サイコパスな上司、恋愛社会学、フェイクドキュメンタリー…10月の気になるノンフィクション

古幡 瑞穂 いつまでたっても夏が終わらない、と言っているうちに日本列島を覆ったのは強烈な雨雲。各地で大きな被害が起こり、気候変動への取組みが待ったなしなのを感じます。最新技術が、歴史がそれらを防ぐヒントを持っているのか、本に答えがあるかもしれません。 一方、日本もアメリカも選挙シーズンまっただ中。関係する気になる本が目立っています。10月にはどんなノンフィクションが発売されてくるのでしょう。 『カルトのことば:なぜ人は魅了され、狂信してしまうのか』 アマンダ・モンテル

「口をすべらせた」「指揮官にされただけ」ーー朝鮮人虐殺を煽った首謀者とネットいじめの空疎な地続き

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 地震と虐殺 1923-2024関東大震災から101年の9月1日、東京都墨田区の横網町公園で行われた、関東大震災で虐殺された朝鮮人犠牲者を追悼する式典に、小池百合子都知事は追悼文を送付しませんでした。 歴代東京都知事が出してきた追悼文を送らないのは、小池知

ピケティ、潜入取材の手法、エリート過剰生産…9月の気になるノンフィクション

古幡 瑞穂 ノンフィクションレビューサイト『HONZ』で連載していた「これから出る本」がお引っ越ししました。本の中でも“ノンフィクション”は非常に範囲が広く、書店店頭で探すのも難しいジャンルになります。しかし、発売されている本を眺めているだけでも、今の世の中やこれからの世の中が見えてきます。9月はどんな本が発売されてくるのでしょうか。   今年はバーツラフ・シュミルの当たり年のようです。3月には『Invention and Innovation』、6月には『SIZE(サイズ

総力戦研究所を描いた『虎に翼』を見て思い浮かべた、「敗戦の理由」を正面から問う本

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 『虎に翼』岡田将生さん演じる航一モデル・三淵乾太郎が所属<ある機関>総力戦研究所とは?若きエリートたちは「日本必敗」を開戦前に予測したが…話題の朝ドラ『虎に翼』、8月2日の展開には驚きました。 岡田将生さんが演じる星航一が打ち明けた秘密、それは彼が「総力

「内部告発は組織への裏切りではなく、公益のため必要なこと」今の時代にこそ読みたい、組織と告発者を取材したルポルタージュ

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 「ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか」広島県警、鹿児島県警、そして兵庫県など。いま、組織の不正を「内部告発」する動きが相次いでいます。 しかしスローニュースでも何度もお伝えしているように、「公益通報制度」がその趣旨の通りに理解されているのかと、首をかし

天安門事件から35年、歴史の分水嶺で日本外交は何を決断し、何を誤ったのか、外交機密文書から読み解く

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょう6月4日のおすすめはこちら。 天安門ファイル 極秘記録から読み解く日本外交の「失敗」35年前の6月4日に起きたのが、今の強権的な中国のルーツにもなったと言われる「天安門事件」です。 民主化要求運動に対し、人民解放軍を投入した武力による流血の鎮圧が行われた天安門事件。現場で何が

パーティー券を利用した裏金作りが6年前の本で指摘されていた!特捜検事と国会議員、両方を経験した著者だから書けたこと

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめは少し前の本ですが、いまこそぜひ紹介したいと取り上げました。 若狭は見た! 議事堂内の「清濁政治」驚きました。自民党を揺るがしているパーティー券の裏金化問題、それが6年前、2018年の本で指摘されていたのです。 その本、『若狭は見た! 議事堂内の「清濁政治」』を書い

『虎に翼』で話題の冤罪事件!無実で逮捕されたとき「黙秘すべき」なのはなぜかを説いたマニュアル

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 取調べを受けることになったら ― 取調べを受ける心がまえについて ーNHKの朝ドラ『虎に翼』、私も毎回楽しみに見ています。その中で主人公の父親が逮捕された事件は「共亜事件」は、戦前の「帝人事件」がモデルだといわれています。 ドラマの主人公の父親も無罪を勝

どこでも見かける「ネパール人が経営するインド料理店」の謎から移民社会の課題に迫っていく

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」日本のいたるところでよく見かける格安のインド料理店。実は、そのほとんどがネパール人の経営なのだそうです。 なぜ日本にネパール人が経営するインド料理店、通称「インネパ」は日本で5000店以上ともいわれています。なぜ

大阪社会部から傑作ノンフィクションを連続して生み出した敏腕デスクの記事に最後でひっくり返った

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 バズり記事の裏側は? ダメ出し続けたデスクの真意すごいデスクがいるものです。 ここ数年、共同通信の記者が書いた本が立て続けに話題になっています。 『母という呪縛 娘という牢獄』(講談社) 『ある行旅死亡人の物語』(毎日新聞出版) が、それです。

朝ドラ『虎に翼』は調査報道がベース!『家庭裁判所物語』に描かれたまるでスタートアップばりの理想とその後

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 『家庭裁判所物語』あす4月1日から放送が始まるNHKの連続テレビ小説『虎に翼』には、ベースになった本があることをご存じでしょうか。 それがNHKの記者で解説委員の清永聡さんが著した『家庭裁判所物語』です。「物語」とありますが小説ではなく、あくまで史実に基