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おすすめノンフィクション

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毎月掲載「気になる来月のノンフィクション」をはじめ、本を紹介した記事をこちらにまとめています。
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ピケティ、潜入取材の手法、エリート過剰生産…9月の気になるノンフィクション

古幡 瑞穂 ノンフィクションレビューサイト『HONZ』で連載していた「これから出る本」がお引っ越ししました。本の中でも“ノンフィクション”は非常に範囲が広く、書店店頭で探すのも難しいジャンルになります。しかし、発売されている本を眺めているだけでも、今の世の中やこれからの世の中が見えてきます。9月はどんな本が発売されてくるのでしょうか。 今年はバーツラフ・シュミルの当たり年のようです。3月には『Invention and Innovation』、6月には『SIZE(サイズ

総力戦研究所を描いた『虎に翼』を見て思い浮かべた、「敗戦の理由」を正面から問う本

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 『虎に翼』岡田将生さん演じる航一モデル・三淵乾太郎が所属<ある機関>総力戦研究所とは?若きエリートたちは「日本必敗」を開戦前に予測したが…話題の朝ドラ『虎に翼』、8月2日の展開には驚きました。 岡田将生さんが演じる星航一が打ち明けた秘密、それは彼が「総力

「内部告発は組織への裏切りではなく、公益のため必要なこと」今の時代にこそ読みたい、組織と告発者を取材したルポルタージュ

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 「ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか」広島県警、鹿児島県警、そして兵庫県など。いま、組織の不正を「内部告発」する動きが相次いでいます。 しかしスローニュースでも何度もお伝えしているように、「公益通報制度」がその趣旨の通りに理解されているのかと、首をかし

天安門事件から35年、歴史の分水嶺で日本外交は何を決断し、何を誤ったのか、外交機密文書から読み解く

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょう6月4日のおすすめはこちら。 天安門ファイル 極秘記録から読み解く日本外交の「失敗」35年前の6月4日に起きたのが、今の強権的な中国のルーツにもなったと言われる「天安門事件」です。 民主化要求運動に対し、人民解放軍を投入した武力による流血の鎮圧が行われた天安門事件。現場で何が

パーティー券を利用した裏金作りが6年前の本で指摘されていた!特捜検事と国会議員、両方を経験した著者だから書けたこと

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめは少し前の本ですが、いまこそぜひ紹介したいと取り上げました。 若狭は見た! 議事堂内の「清濁政治」驚きました。自民党を揺るがしているパーティー券の裏金化問題、それが6年前、2018年の本で指摘されていたのです。 その本、『若狭は見た! 議事堂内の「清濁政治」』を書い

『虎に翼』で話題の冤罪事件!無実で逮捕されたとき「黙秘すべき」なのはなぜかを説いたマニュアル

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 取調べを受けることになったら ― 取調べを受ける心がまえについて ーNHKの朝ドラ『虎に翼』、私も毎回楽しみに見ています。その中で主人公の父親が逮捕された事件は「共亜事件」は、戦前の「帝人事件」がモデルだといわれています。 ドラマの主人公の父親も無罪を勝

どこでも見かける「ネパール人が経営するインド料理店」の謎から移民社会の課題に迫っていく

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」日本のいたるところでよく見かける格安のインド料理店。実は、そのほとんどがネパール人の経営なのだそうです。 なぜ日本にネパール人が経営するインド料理店、通称「インネパ」は日本で5000店以上ともいわれています。なぜ

大阪社会部から傑作ノンフィクションを連続して生み出した敏腕デスクの記事に最後でひっくり返った

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 バズり記事の裏側は? ダメ出し続けたデスクの真意すごいデスクがいるものです。 ここ数年、共同通信の記者が書いた本が立て続けに話題になっています。 『母という呪縛 娘という牢獄』(講談社) 『ある行旅死亡人の物語』(毎日新聞出版) が、それです。

朝ドラ『虎に翼』は調査報道がベース!『家庭裁判所物語』に描かれたまるでスタートアップばりの理想とその後

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 『家庭裁判所物語』あす4月1日から放送が始まるNHKの連続テレビ小説『虎に翼』には、ベースになった本があることをご存じでしょうか。 それがNHKの記者で解説委員の清永聡さんが著した『家庭裁判所物語』です。「物語」とありますが小説ではなく、あくまで史実に基

『親ガチャ』をどうやって乗り越えるのか?遺伝子がいかに社会的不平等を生み出すかを学ぶ

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 『遺伝と平等 人生の成り行きは変えられる』「今日の必読」は今年最後ということで、この1年出会ったノンフィクションの中からおすすめの一冊を紹介します。 『遺伝と平等 人生の成り行きは変えられる』(キャスリン・ペイジ・ハーデン著、青木薫訳、新潮社刊)が、その

「世界最強の男」井上尚弥と闘い、敗れた者たちを描くノンフィクション

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。きょうのおすすめはこちら。 怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ世界最強の男と闘うということは、どういうことなのか。 世界のボクシング界を席巻する井上尚弥と戦い、負けた男たちにリングで体感した「怪物」の強さを語ってもらう。拳を交えた者にしかわからないことを聞き、最強ボクサーの姿を

原爆を落とした後、アメリカ軍が隠したかったものとは何か 膨大な資料からその実態を読み解く

膨大なニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、長い時間をかけて国内外の資料を調べ、証言者に当たった調査報道などをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 原爆初動調査 隠された真実広島・長崎に投下された原爆。未だに解明されていない謎がいくつもあります。 「残留放射線は、どう影響したのか」 「低線量被ばくの人体への影響は」 「被爆2世への影響はあったのか」 「行方不明となっている、原爆投下2日

イラクに残された「謎の巨大湿地帯」とそこに住む人々に挑んだ「傑作」ノンフィクション

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 『イラク水滸伝』(高野 秀行著) クルマはもちろん、馬もラクダも、そして戦車も使えない。 イラク南部の巨大な湿地帯「アフワール」は、権力に抗うアウトローや迫害されたマイノリティが逃げ込むカオスそのものの土地です。 その謎の地に、冒険ノンフィクション作家

「押せるボタンをすべて押せ」 漁船沈没の謎をつきつめる調査報道『黒い海』をなぜ書くことができたのか

ノンフィクション作家 伊澤理江 「その漁船の事故、ほとんど誰も知りませんよね? そんな事故の本をいったい誰が読むんですか?」 今から2年前,2021年5月、講談社の編集者と会ったときに言われた言葉です。「誰も知らない事故」「無名の書き手」では、書籍化に難色を示すのも無理はありません。それでも私は諦めることができませんでした。 千葉県沖での漁船沈没事故の謎を追った『黒い海 船は突然、深海へ消えた』(講談社)が話題になっています。第54回大宅壮一ノンフィクション賞、第71回