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天安門事件から35年、歴史の分水嶺で日本外交は何を決断し、何を誤ったのか、外交機密文書から読み解く

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

きょう6月4日のおすすめはこちら。

天安門ファイル 極秘記録から読み解く日本外交の「失敗」

35年前の6月4日に起きたのが、今の強権的な中国のルーツにもなったと言われる「天安門事件」です。

民主化要求運動に対し、人民解放軍を投入した武力による流血の鎮圧が行われた天安門事件。現場で何が起き、「チャイナスクール」と呼ばれる日本の外交官たちがどのように中国と向き合っていったのか。なぜ、現在のような中国が誕生することになったのか。それを膨大な資料やインタビューで読み解いたのが、2年前に出版された本書『天安門ファイル』です。

執筆したのは、時事通信の記者として10年にわたり北京特派員を務めた城山英巳さんです(現在は北海道大学教授)。作成から30年以上たつと秘密指定が解除され、公開される外交文書と、情報公開請求で入手した資料、それに日中それぞれの関連文献を収集・分析して本書をまとめました。特に「天安門事件外交ファイル」は、それだけでファイル12冊、4150枚に及ぶものだったとか。

「中国の改革開放を支援する」目的で1979年から2022年の終了までに3兆6000億円以上がつぎ込まれたODA(政府開発援助)。しかしチャイナスクールの外交官たちは、結局、描いていた「望ましい中国」に導けなかったのではないか。何がそうさせてしまったのか。資料からその時々の「決断」を紐解いていくのが本書の大きな目的です。

秘密扱いだった文書から見えてくるのは、「独裁政治の陰湿さ」「今後、保守的思想傾向が強まる」などと厳しい分析をしたり、公開された「栗山ペーパー」(事務方ナンバー2の栗山尚一外務審議官が個人名で書いた文書)では「統治能力が問われるような政府に対し、円借款等のODA供与を行うことは適当ではない」という考えがまとめられたりしながら、その後の政策では必ずしも反映されず、「人権無視外交」と酷評されてしまう事態になったこと。そして、「中国を孤立化させて闘争的な政権にさせてはいけない」と、「中国政府の声明」まで日本側で作成するような配慮をしながら、結局は排外的な国家への道をどうすることもできなかった、局面局面での決断です。

本書は政治評論ではありません。また、外交ドキュメントではないので物語的なダイナミズムがあるものではありませんが、日本の対中政策を考える上で、重要な資料分析になっています。

関心のある方はこの機会に一読されてはいかがでしょうか。(熊)

(中央公論新社 2022/7/10)