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朝ドラ『虎に翼』は調査報道がベース!『家庭裁判所物語』に描かれたまるでスタートアップばりの理想とその後

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

きょうのおすすめはこちら。

『家庭裁判所物語』

あす4月1日から放送が始まるNHKの連続テレビ小説『虎に翼』には、ベースになった本があることをご存じでしょうか。

それがNHKの記者で解説委員の清永聡さんが著した『家庭裁判所物語』です。「物語」とありますが小説ではなく、あくまで史実に基づいたノンフィクション。大量の公文書や裁判関係の記録、それに関係者の証言取材を積み重ねて知られざる内幕を描いた、調査報道といっていいものです。

先日、知り合いのドキュメンタリー作家と話をしていた際、「それにしても清永さんはよく家庭裁判所なんて地味なところを調べようと思ったよね」と語っていました。

ところが本書を読んでいただければわかりますが、戦後の混乱期に立ち上がった家庭裁判所の構想が、どのような「理想」に基づいて現実となったか、それこそ「事実は小説より奇なり」のドラマが繰り返されて今に至っているのです。

連続ドラマの方では、女性として初めて弁護士・判事・裁判所所長となった三淵嘉子さんが主人公のモデルになっていますが、本書は彼女のほかに裁判所の父ともいえる人々の群像劇になっています。破天荒な宇田川潤四郎、「殿様判事」こと内藤頼博らの思いが結実していく。裁判所の建物はもちろん、ルールも手続きも本当に何もない中で、自主的な「ケース研究」を重ねることでボトムアップしていく。その様は、さながら今でいうスタートアップ企業の草創期を見る思いで痛快です。

しかし古き良き時代の回顧をするのが本書の趣旨ではありません。時代の趨勢に従って巻き起こる少年法改正論議、そこに巻き込まれていく「第二世代」の苦労。そして組織というものが成熟していくと避けられないのか、次第に「内向的」「全体主義的」に変質していく裁判所そのものの在り方。後半のクライマックスになっている「法務省VS最高裁」の法制審議会での議論は、まさに現代を照射しています。

260ページ以上ある本書ですが、最後の30ページは、「震災と家裁」で締めくくられています。そこにも知られざるいくつものエピソードがありました。震災発生の直後に、がれきをかきわけてまだ片付いていない仙台家庭裁判所を訪れた母と子。なぜ2人はそんな状況なのに家裁を訪れたのか。私はここで目頭が熱くなるのを止められませんでした。知りたい方はぜひ本書をお読みください。

さて、本書をはじめ、清永さんが取材で利用しているのは、国立公文書館の大量の未公開記録。あまり知られていませんが、公文書館は「独自文書の宝庫」だそうです。どのように取材をしたのか、4月27日~29日にかけて早稲田大学で行われるイベント、「報道実務家フォーラム」で清永さん自身が解説されるそうなので(清永さんの登壇は28日)、ご興味のある方はそちらも聞いてみてはいかがでしょうか。(熊)