ピケティ、潜入取材の手法、エリート過剰生産…9月の気になるノンフィクション
古幡 瑞穂
ノンフィクションレビューサイト『HONZ』で連載していた「これから出る本」がお引っ越ししました。本の中でも“ノンフィクション”は非常に範囲が広く、書店店頭で探すのも難しいジャンルになります。しかし、発売されている本を眺めているだけでも、今の世の中やこれからの世の中が見えてきます。9月はどんな本が発売されてくるのでしょうか。
今年はバーツラフ・シュミルの当たり年のようです。3月には『Invention and Innovation』、6月には『SIZE(サイズ): 世界の真実は「大きさ」でわかる』と、刊行が続いていましたが、9月にもまたもや新刊が登場します。
『世界の本当の仕組み: エネルギー、食料、材料、 グローバル化 、リスク、環境、そして未来』
バーツラフ・シュミル (著), 柴田 裕之 (翻訳)
原著は『How the World Really Works』。シュミルの本の熱心な読者であるビル・ゲイツも“人間の生活をつくっている要因について学ぶには絶好の入門書“と絶賛しており、2022年の夏に読むべき5冊にも選ばれた名著です。
このほか9月発売予定の新刊から、いくつか紹介していきます。
『平等についての小さな歴史』
トマ・ピケティ (原著), 広野和美 (翻訳)
『21世紀の資本』の刊行により日本でピケティブームが起こってからもう10年。この他にも何点かの本が出ていますが、どれもが1000ページを超える大作となっており、内容は気になるもののちょっと手を出しづらいという方も多かったのではないでしょうか。それら、格差や平等について書かれた本を著者自らがぎゅっと凝縮させたのがこちら。初心者おすすめの1冊。
『潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで』
横田 増生 (著)
ユニクロ、アマゾン、ヤマト運輸、そしてなんとトランプ信者の団体にまで潜入してきた著者が、その手法を一挙に公開してしまうという衝撃のノンフィクション。「誰でもできる、誰でも書ける」とはありますが、さすがに潜入取材はそうそうできるものではありません。が、この調査、そして執筆の手法は日常生活や何かあったときの対策にも使えそうです。メディア人だけでなく、企業側の担当者も知っておいて損はないはず!
『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』
ピーター・ターチン (著), 濱野 大道 (翻訳)
ちょっと気になるタイトルです。多くの人が学歴を求め、そこからのエリート人生を求め…という世の中、もしかしたら今の状況も「エリート過剰生産」の状態なのかもしれません。著者は数理モデルから歴史にアプローチしてきた研究者。
学歴に見合うポスト・報酬が得られず不満を抱いたエリートが反エリート担ったとき、社会は崩壊に向かうそう。AIがホワイトカラーの仕事を奪う未来もまさにそんな感じになるのでしょうか?今後の社会を占う1冊。
『Taylor Swift:The Whole Story(原題)』
チャス・ニューキー=バーデン (著), 梅澤乃奈 (翻訳)
資産10億ドル超えの富豪になり、世界的にも大きな影響を与えるようになったテイラー・スウィフト。田舎町の少女だったテイラーがどのようにそこまで上り詰めたのかを描いた評伝です。
音楽の話だけでなく、ビジネスウーマンとしての地位確立も、世界制覇までの道のりが描かれた注目の作品がいよいよ邦訳されます
『アウシュヴィッツの父と息子に』
ジェレミー・ドロンフィールド (著), 越前 敏弥 (翻訳)
著者、ジェレミー・ドロンフィールドは『飛蝗の農場』で「このミス」1位など当時のミステリ業界を騒がせたミステリ作家です。
今回はなんとノンフィクション。父を救うために自らアウシュヴィッツへ向かった息子、彼らが死地でどう生き延びてそこからどう逃げ出したのかが描かれます。
『解剖学者全史 学者とその書物でたどる5千年の歴史』
コリン・ソールター (著), 布施英利 (監修), 小林もり子 (翻訳)
出版社がグラフィック社ということもあり、美術書としても読まれそうな作品です。解剖学には5千年もの歴史があるそうですが、その歴史を紀元前からひもとき、各時代でどんな事が行われていたのか、そして人体の神秘に見せられた解剖学者たちの様子とともに描いていきます。人の姿を描くという事と、身体のつくりに興味を持つことがいかに密接に絡んでいたかも読み解けそうです。パラパラとめくって見るだけでも面白そう。
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そろそろ夏も終盤ですが、猛暑や強大な台風の襲来など、気候変動について考えさせられるような天候が続いています。これからの世の中がどうなるのか、各国でどんなことが起こっているのか、ヒントを本の中に探してみませんか?素晴らしい本との出会いがありますように!