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「災害前線報道ハンドブック」と災害関連リポート

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大災害は突然にやってきます。その時、何を取材するべきでしょうか。記者たちに的確な指示が出せるでしょうか。ありそうで存在していなかった「災害時の取材マニュアル」ジャーナリストのプレ…
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#災害

【東日本大震災13年】メディアはどのように伝えているか、注目のコンテンツを紹介・後編

東日本大震災の発生から13年目。メディア各社はどのように報じているのか。後編は「定番」の発信方法によるものを中心に取り上げます。 スローニュース 熊田安伸 「定点観測」コンテンツ震災直後と現在の被災地を比較できる「定点観測」の記事、これは各社ともそれぞれ映像・画像を蓄積し、重要なコンテンツとして節目ごとに発信しています。 朝日新聞の発信はシンプルなフォトスライダー(写真の中央部にあるバーを左右に動かすことで変化がみられる)です。きれいに復興したように見えるところでも、当

災害前線報道ハンドブック【第3章】検証フェイズ⑥クロノロジーと「報告書」の重要性

スローニュース 熊田安伸 今回は、発災直後から作っておくべき「クロノロジー」の重要性と、のちの検証に大きな役割を果たす「報告書」について、実例を交えて解説します。 必ず作っておくべき「クロノロ」災害が発生したその瞬間から作っておくべきものが「クロノロジー」です。略して「クロノロ」と呼ばれています。時系列でその災害についてのすべての事象を記録していくもので、例えば、 いつどこでどこでどんな被害が確認されたか 国や自治体は被災地の住民にいつどんな警告を発したか 災害対応

被災地で求められている支援は何かを把握し、ミスマッチを起こさない方法はあるか【能登半島地震コンテンツ⑤】

スローニュース 熊田安伸 元日に発生した「令和6年能登半島地震」に関するコンテンツ。「サービス・ジャーナリズム」「公共性」「可視化」などの観点から、メディアなどの発信で注目したものを、これまで4回にわたって取り上げました。 今回は「初期の被災地支援」に関わるものを中心に、注目したコンテンツをまとめ、課題を探りました。 飲料水はいらなかった!?やはり起きてしまった「被災地とのミスマッチ」神戸市の公式noteに、興味深い記事がありました。「『神戸の経験は役立たない』の真意」

道路復旧からネット接続、酒蔵の被災まで、能登半島地震の可視化コンテンツ最新事情まとめ

スローニュース 熊田安伸 元日に発生した「令和6年能登半島地震」に関するコンテンツ。発災1週間ほどのタイミングで、「サービス・ジャーナリズム」「公共性」「可視化」などの観点から、メディアなどの発信で注目したものを3回にわたって取り上げました。 その後、新たなコンテンツや取り組みも増えてきたので、今回も注目したものをまとめて紹介し、発信の課題を考えてみようと思います。 道路の復旧はどこまで進んだか、ようやく本家が「見える化」前の記事では、自治体や企業、NPOの取り組みで、

能登半島地震で進化したYahoo!「災害マップ」と存在感ないNHK「電子地図」はなぜこんなに差がついたか

スローニュース 熊田安伸 元日に発生した「令和6年能登半島地震」に関するコンテンツ。「サービス・ジャーナリズム」「公共性」「可視化」などの観点から、メディアなどの発信で注目したものを前回取り上げました。 その後、各社に取材したり、メッセージをもらったりしたところ、非常に興味深い現象が起きていることが分かったので、今回、続編として取り上げます。 Yahoo!「災害マップ」は当初こんな使い方を想定していなかった!地図上に避難所の位置や、給水所の場所などが表示され、被災者にと

Yahoo!の「災害マップ」は「命を救う公共メディア」に育つ可能性を示したか~能登半島地震でのコンテンツ表現は

スローニュース 熊田安伸 元日に発生した「令和6年能登半島地震」。いまだ被害の全容がわからず、安否が不明な方が大勢います。一刻も早い救助と、避難している人たちへの支援が必要です。 そこで今回は、メディア各社をはじめとしたこの地震に関するコンテンツの中から、「サービス・ジャーナリズム」「公共性」「可視化」などの観点から、特に目を引いたものを取り上げてみたいと思います。 「みんなで作る防災情報 災害マップ」がもたらすかもしれない新たな「公共」Yahoo!が発信した「災害マッ

災害前線報道ハンドブック【第3章】検証フェイズ②命を守る情報がなぜ伝わらないのか

スローニュース 熊田安伸 検証フェイズの第2回は、情報伝達についてです。災害の発生時、命綱となるのがまさに情報。でも、被災者に伝わらないこともよく起きています。何が問題で、取材のポイントはどこでしょうか。 防災行政無線は本当に役に立つのか自治体が住民にいちはやく避難を呼びかけるためなどに使っている重要ツールの一つが、「防災行政無線」です。屋外にあるメガホン型のスピーカーを見たことがある人も多いと思います。 ところが、いざ災害が発生した際に、「聞こえない」というケースが多

災害前線報道ハンドブック【第3章】検証フェイズ①防災計画を検証~震度7の町が大混乱に陥った理由とは

スローニュース 熊田安伸 今回から第3章です。災害時には「いま、目の前で危機に瀕している命を守る取材」が最優先ですが、落ち着いて来たら、「次の災害で命を守るための取材」が必要になってきます。発生した災害から、反省すべき防災や避難の課題が見えてくるはずです。ここからは、より一層、調査報道のテクニックが重要になってきます。 震度7の町に地震への備えがなかった!2004年の新潟県中越地震で、最大の震度7を観測した川口町(当時。現在は長岡市に合併)。町全体が孤立して大混乱に陥りま

災害前線報道ハンドブック【第2章】避難フェイズ③なぜ支援の手が届かないのか…進化するボランティアにも注目

スローニュース 熊田安伸 避難所で取材していると、支援の手が届いていないことをつくづく感じると思います。災害が起きるたびに問題になっているのに、どうして毎回のように「ニーズのミスマッチ」が起きてしまうのか。今回はその実例と、取材する際の注目ポイントについて述べます。 支援が届かない3つの原因これまでの取材の実感でいうと、支援が届かない理由はおおよそ、この3つが原因になっています。 ① 当初の計画どおりに支援ができなくなる状況の発生 ② 本当に支援が必要な相手を見つけられ

災害前線報道ハンドブック【第2章】避難フェイズ②避難所で何をどう取材するか

スローニュース 熊田安伸 今回も避難所での取材についてです。大災害であればあるほど、思わぬところが避難所になることは前回、説明しましたが、そこでどんな取材をどのように進めたのか。実例をもとに紹介します。 「原発」そのものが避難所になっていた!東日本大震災で最も「想定外」で驚くべき避難所のケースがありました。それが「原発」です。 中心市街地が津波で壊滅的な被害を受けた宮城県女川町。その高台には、東北電力の女川原子力発電所があります。津波から逃れて高台に向かった住民約360

災害前線報道ハンドブック【第2章】避難フェイズ①“隠れ避難所”こそ重要

スローニュース 熊田安伸 揺れが収まったり、雨が止んだりしても、災害は終わったわけではありません。発災後、被災者は長く苦しい避難生活を強いられることになります。1人でも避難生活を続けている人がいる限り、災害は続いているのです。ここからは、避難フェイズの取材では何に注目すべきかについて述べていきます。 「指定避難所」そのものが被災する避難フェイズでの取材に入ったら、まず意識しなければならないことがあります。それは「本当に困っている被災者はどこにいるのか」ということです。災害

災害前線報道ハンドブック【第1章】発災フェイズ⑥テレビ局の現場リポート、それでいいの?

スローニュース 熊田安伸 今回はテレビ関係者に向けての提言的なコラムです。なので、読み飛ばしていただいて結構、ただ教訓になる話だと思ったので、書いてみました。 災害が起きると現場から記者が中継リポートをやりますよね。本当にそれ、いいんでしょうか。演出上の問題というより、もっと根本的な「記者は何をするべきか」というエピソードから考えます。 まずは私の大失敗を告白しますここで私がやらかした大失敗を一つご披露します。先にも書いた新潟県中越地震の際に、デスクとして初めて取材指揮

災害前線報道ハンドブック【第1章】発災フェイズ⑤災害の「顔」に気づけるか

歴史に残る事件・事故・災害は、必ず「新しい顔」を持って現れます。逆にいえば、従来とは違う新たな課題を社会に突き付けるからこそ、歴史に残るのかもしれません。早い段階にそれに気づけるかどうかで、その後の取材が大きく変わってきます。今回はその実例と、気づくための手法について述べます。 誰も何が起きているか分かっていない2004年の新潟県中越地震は、10月23日の本震の後も、マグニチュード6を超える余震が長く続いたのが特徴でした。それが従来の災害とは違う、思わぬ事態をもたらすことに

災害前線報道ハンドブック【第1章】発災フェイズ④犠牲者の情報特定と避難指示が出ている場所での取材

スローニュース 熊田安伸 災害の犠牲者についての情報をいち早く特定するためにはどこから情報を入手したらいいでしょうか。また、避難指示などが出た場所での取材の可否はどう判断したらいいでしょうか、今回はそれらについて説明します。 死者数の確定では「病院→警察」が重要いよいよ警察の情報が役に立つタイミングがやってきました。それは「死者の数を確定する取材」です。 以下の図は、内閣府防災情報のホームページにある資料で、災害の際の死者数報告の流れを示しています。