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【東日本大震災13年】メディアはどのように伝えているか、注目のコンテンツを紹介・後編

東日本大震災の発生から13年目。メディア各社はどのように報じているのか。後編は「定番」の発信方法によるものを中心に取り上げます。

スローニュース 熊田安伸

「定点観測」コンテンツ

震災直後と現在の被災地を比較できる「定点観測」の記事、これは各社ともそれぞれ映像・画像を蓄積し、重要なコンテンツとして節目ごとに発信しています。

朝日新聞の発信はシンプルなフォトスライダー(写真の中央部にあるバーを左右に動かすことで変化がみられる)です。きれいに復興したように見えるところでも、当初から懸念していた「沿岸被災地の復興にずば抜けたアイデアなどなく、結局、公園にしかできなかったのか」という場所が多いことも見えてきます。

読売新聞の新たなコンテンツ「59か所の定点空撮で見る東日本大震災」は、得意とするArcGIS(地図や情報を検索、作成、共有できるプラットフォーム)で作られています。動画でも見られますし、後半に朝日と同じフォトスライダーも登場。激しくリッチです。

ただ、あまりにも盛りだくさんすぎて、読者は使いきれないかもしれません。(かくいう私も途中で息切れし、地図で目が回りました)他社の定点観測コンテンツと違い、被災地でどういう変化があったのかという解説コメントが丁寧につけられているところは非常にいいのですが……。「とにかくできることを全部やりたい」という制作者の熱い思いはビンビン伝わってきますが、「料理は引き算」でもっと美味しくなるかもしれません。

地図と定点観測を結びつけたコンテンツとしては、テレビ朝日が以前から取り組んでいる「●REC from 311~復興の現在地」がシンプルで使いやすいサイトになっています。テレビ局らしく動画での発信ですが、定点観測のポジション取りがバチッと決まっていて、見ていて気持ちがいいです。場所の選定や画角もさすが。最新の2024年の映像までついている場所はまだ一部にとどまっています。

変化についての解説コメントはついていないのですが、代わりに「ニュース企画」への切り替えボタンがあり、その場所が舞台になったニュースを見ることができます。

NHKにも以前から「定点、あの日から 東日本大震災 定点映像マップ」があります。こちらは30秒に編集した「定点動画」と、被災地の「映像ストーリー」などが混在している作り。マップの動作が「もっさり」しているのが残念な点です。

毎日新聞も、動画を前面に押し出しています。新聞社も動画の時代ですね。

報道各社の皆さんに提案したいことがあります。せっかくこうした定点観測の映像があるのですから、ぜひ「当初の復興計画と比べてどうなのか」「議論されていた施設は結局作られたのか、諦めたのか」「企業はどれほど復興しているのか」など、データと結びつけた検証報道に利用してはどうでしょうか。例えば「防潮堤を作らない」という異例の復興を遂げた女川町の変化の意味なども盛り込めるのではないかと。

復興事業の検証

というわけで、復興事業そのものを検証した報道はないかと見渡したところ、日本経済新聞がこちらの記事を発信していました。

岩手、宮城、福島の3県で、住民が高台などに集団移転した跡地の約3割が、活用の見通しが立っていないことが分かったということです。跡地は「災害危険区域」に指定され、住宅の建設は制限されています。商業施設や工場などは設置できるので企業の誘致を目指していましたが、仙台市を除くと未活用のままの土地が多いのだとか。

確かに補助を受けても、再び大きな災害が来れば被災するおそれがあり、改めての利活用は難しいという事情はあります。

発災直後は、巨額の予算をかけて津波が来ても大丈夫な特殊な建築物を建てる実現可能性に疑問符が付くアイデアも飛び出しましたが、現実にはなかなか難しい状態です。結局、「公園」にするぐらいが関の山だった場所もありました。ちなみに活用されているとした約7割のうちに、「公園」はどれだけ含まれているのでしょうか。

記事で紹介されている中では、宮城県岩沼市の羊を放牧した農園はいいアイデアですね。

一方、地元民放の仙台放送は、東日本大震災を契機に宮城県が整備することを決めた「広域防災拠点」の完成時期が12年遅れ、事業費も127億円も増加する事態に陥っていることを詳しく伝えています。

事業の妥当性が問われているとか。こうした状況、他の被災地でも起きているのではないでしょうか。

防災の検証

防災への取り組みがどうなっているのか、3月11日を機会に検証した読売新聞の記事が出ていました。自治体が災害に備えて作成する「地域防災計画」とは別に、住民らが主体となって作る「地区防災計画」というものがあります。制度化されて10年となるこの計画、全国で2363地区で作成されたものの、都道府県間でばらつきがあって、普及には課題があるということです。

岩手県大槌町の安渡地区では震災の教訓から避難時のルールを重点的に盛り込んだ計画を作られ、能登半島地震では計画に沿って迅速な避難が行われた地区もあったことも伝えています。

計画の作成を通じて住民自身の防災意識が高まり、実際に避難の時にも役立つ取り組みとされていますが、きっかけがないとなかなか作成にまで至らないのが課題なようです。

上記の記事の中でも、地区防災計画がわずか3地区でしか作成されていないと指摘されている沖縄県。琉球新報によると、消防官として東北などの被災地に派遣され、震災を目の当たりにした兄弟が、「同じ災害が起きたら県外からすぐに応援は来られない」と、防災のコンサルティング会社を立ち上げたとか。防災意識を高めようという取り組みで、3月11日に合わせて報じています。

災害の際、支援が必要な高齢者や障害者のために用意されるのが「福祉避難所」です。日本経済新聞は、全国の市区町村の74%で福祉避難所が足りず、538万人分不足していると報じています。

そもそも一般的な避難所さえ不足していて、中央防災会議は首都直下地震が起きれば、広域避難を実施したとしても東京都区内だけで49万人分不足すると想定しています。福祉避難所であればなおさらでしょう。

福祉避難所については、西日本新聞が2021年に九州7県での不足状況について報じています。

データで見る震災

去年の関東大震災100年のタイミングでは、この100年に起きたマグニチュード5以上の地震を可視化したコンテンツを発信した日本経済新聞。今回、そのコンテンツに能登半島地震のデータも入れて『「地震列島」日本 地図とデータで見る』としてリニューアルしました。相変わらずサクサクと動いて、見た目にもわかりやすいですね。

東日本大震災についての基本情報をとにかく入手して利用したい。そんなニーズに応じてか、NHKがとりまとめサイトを発信していました。こういう資料性が高いものも大事です。

アンケートでの発信

読売新聞が岩手、宮城、福島3県の沿岸と東京電力福島第一原発周辺の42市町村長にアンケートを行っています。復興の進捗度合いに狙いを絞ったものになっています。

このほかにもアンケートを使った報道はありましたが、残念ながら中には数字の意味が判然としない、悪い意味でのカレンダージャーナリズムになってしまっているものもありました。

今後、発信されるコンテンツもチェックしていきます。