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「災害前線報道ハンドブック」と災害関連リポート

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大災害は突然にやってきます。その時、何を取材するべきでしょうか。記者たちに的確な指示が出せるでしょうか。ありそうで存在していなかった「災害時の取材マニュアル」ジャーナリストのプレ…
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#災害報道

「半数以上の市民が自宅に戻れず」「猛暑の中で汗だくの車中泊」能登半島の被災者の過酷な現状を伝える

今年の元日に発生した能登半島地震。現地の状況を伝える報道によって、半年以上が経過しているというのに、被災地の過酷な実情が見えてきています。今回はそうした報道をまとめてみました。 能登半島地震から半年 ビッグデータからみる能登半島地震の避難状況7月24日に発表されるや、すぐにいくつかのメディアが取り上げたのでご覧になった方もいるでしょう。LINEヤフーによる位置情報のビッグデータ分析レポートです。 一番に目を引いたのはやはり「輪島市・珠洲市居住推定者の自宅復帰率」でしょう。

【フォトルポ】そこには今も言葉を失う景色があった…何も知らない自分が情けなくて、何度も立ち尽くした

「現地で食事をとれないと思うので、今日明日の食糧を調達しましょう」 その言葉に、はっとさせられた。 そうだ、半年たったとはいえ、被災地に向かうのだ。輪島や珠洲では、まだ水もままならない場所もあり、コンビニだって、食堂だって、ほとんど営業再開できていない。自分たちの食糧ぐらい調達していかないと。現地で迷惑をかけてしまうことにだってなりかねない。 そこまで思いがいたらなかった。自分の想像力のなさを恥じた――。 たったの1泊2日で撮った写真は数百枚にのぼった。なぜ撮ったのか、

ようやくできた仮設住宅が大雨が降ったら最大3メートル浸水する危険があると指摘するショッキングなNHKの調査

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 仮設住宅の42%に浸水や土砂災害のリスク 能登半島地震 被災地能登半島地震の被災地からは、半年たった今も「仮設住宅に入れない」「抽選から外れた」「避難所での生活は辛い」という声が聞こえてきます。みなし仮設住宅を含めても、まだ十分に供給できていない状態です。

災害前線報道ハンドブック【第4章】復興フェイズ⑤復旧・復興工事に携わる業者の調べ方

スローニュース 熊田安伸 前回は復旧・復興事業をめぐって談合が起きていないか、公共工事の入札をどう調べるかといった手法をご紹介しました。今回は復旧・復興のための工事に携わる業者をより具体的に詳しく調べる方法をご紹介します。 入札調書では分からない、関係業者を引きずり出す方法公共工事については前回説明した通り、自治体のホームページなどに入札情報などが掲載されます。しかし、受注した企業が下請けに出した場合、その先をたどることはできません。 そんな時に非常に役に立つツールがあ

災害前線報道ハンドブック【第4章】復興フェイズ④必ず起きてしまう談合の調べ方

スローニュース 熊田安伸 巨額の予算が投入される復興事業では、必ずといっていいほど談合事件が起きてしまいます。どのように取材すればいいのか、当局の情報に頼ることなく報じることはできるのか。そしてどんな視点で報じるといいのかなどについて解説します。 なぜ復興事業では不正が起きやすいのか大きな災害の後には、巨額の復興特別予算が組まれます。多くが壊れた公共施設の復旧や、地域の暮らしの復興おために使われますが、過去の大災害では必ずといっていいほど、復興事業・復旧工事をめぐる不正が

災害前線報道ハンドブック【第4章】復興フェイズ③復興予算の調べ方

スローニュース 熊田安伸 前回は東日本大震災の復興予算問題に気づくまでの取材経緯をご紹介しました。今回はいよいよ具体的な調べ方とその結果について解説します。 役に立ったのは「事業仕分け」のための道具復興予算の分析は、以前ならかなり難しかったかもしれません。それが可能になったのは、当時の民主党政権が「事業仕分け」を始めたからでした。 「事業仕分け」こと行政事業レビューは、国の約5000の事業すべてについて各府省が点検・見直しを行うもので、予算を無駄遣いしていないか、事業が

災害前線報道ハンドブック【第4章】復興フェイズ②復興予算問題に気づくまで

スローニュース 熊田安伸 前回も紹介した通り、復興事業では「タテ割り」が必ずといっていいほど弊害として浮かび上がります。中でも大きな話題を呼んだ東日本大震災の復興予算問題は記憶に新しいところではないでしょうか。今回はその問題に気づくまでの取材の経緯をご紹介します。 当時の政権を揺るがせた復興予算問題東日本大震災が発生した翌年、2012年に放送された「NHKスペシャル シリーズ東日本大震災『追跡 復興予算19兆円』」は、増税によって賄われた復興予算が被災地とは直接的には関係

災害前線報道ハンドブック【第4章】復興フェイズ①復興の「空白地帯」を見つける

スローニュース 熊田安伸 今回から第4章「復興フェイズ」です。復興計画・復興事業のチェックは、まさに「調査報道」そのもの。拙著『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』とかぶるテクニックやツールも多いですが、災害報道に特化した形でご紹介していこうと思います。 復興の現場を何度も歩くと…新潟県中越地震の発生から1年が経過した2005年の小千谷市。復興予算の規模は350億円で、本来なら既にかなりの復旧工事が進んでいるはずでした。 しかし小千谷市を担当しているNHK新潟放

災害前線報道ハンドブック【第3章】検証フェイズ⑧避難行動を検証する

スローニュース 熊田安伸 第3章「検証フェイズ」の最後は、発災時の「避難行動」の検証です。証言を集める方法と、テクノロジーを使う方法。それぞれ報道の実例とともに紹介します。 避難行動は適切におこなわれていたのか大災害での避難行動の検証は、非常に重要です。東日本大震災で特に大きな被害が出た宮城県石巻市の大川小学校や、岩手県釜石市の鵜住居地区防災センターについては、当時のいきさつを自治体や各メディアが詳しく検証してきました。 そもそもの避難計画や防災計画が適切だったかどうか

災害前線報道ハンドブック【第3章】検証フェイズ⑦施設の損壊の「本当の原因」を検証する

スローニュース 熊田安伸 前回、第4章の復興フェイズに移るとお伝えしましたが、検証フェイズでまだやるべき話が残っていました。地震や津波で被災した施設や建造物がなぜ壊れたのか、その「本当の原因」を調べることも重要です。今回も実例をもとに解説します。 なぜ地震のたびに天井は落下するのか災害で被災した施設は、なぜ壊れたのか。いやいや、あれだけ大きな揺れや津波に襲われたら被害を受けて当然、などと思っていないでしょうか。しかしそこで思考停止に陥ってしまうと、本当に検証すべき大切なこ

【東日本大震災13年】メディアはどのように伝えているか、注目のコンテンツを紹介・後編

東日本大震災の発生から13年目。メディア各社はどのように報じているのか。後編は「定番」の発信方法によるものを中心に取り上げます。 スローニュース 熊田安伸 「定点観測」コンテンツ震災直後と現在の被災地を比較できる「定点観測」の記事、これは各社ともそれぞれ映像・画像を蓄積し、重要なコンテンツとして節目ごとに発信しています。 朝日新聞の発信はシンプルなフォトスライダー(写真の中央部にあるバーを左右に動かすことで変化がみられる)です。きれいに復興したように見えるところでも、当

災害前線報道ハンドブック【第3章】検証フェイズ⑥クロノロジーと「報告書」の重要性

スローニュース 熊田安伸 今回は、発災直後から作っておくべき「クロノロジー」の重要性と、のちの検証に大きな役割を果たす「報告書」について、実例を交えて解説します。 必ず作っておくべき「クロノロ」災害が発生したその瞬間から作っておくべきものが「クロノロジー」です。略して「クロノロ」と呼ばれています。時系列でその災害についてのすべての事象を記録していくもので、例えば、 いつどこでどこでどんな被害が確認されたか 国や自治体は被災地の住民にいつどんな警告を発したか 災害対応

【ルポ能登半島地震】「ボランティアには本当に助かった」復旧進まぬ新潟「忘れられた被災地」からの報告

スローニュース 熊田安伸 その地区に足を踏み入れた瞬間、ぐらっと景色全体が歪んでいるように見えた。 道路には、いまも液状化で噴き出した土砂のあとが残っている。滑っている場所も残ってはいるが、歩くと乾いた土埃が舞い上がる。地震の発生から1カ月以上たったというのに、大きく傾いた電柱もそこかしこに見られる。 写真でも一見わかりにくいのだが、家々の塀はことごとく大きく傾いている。いまにも塀が内側に倒れ込みそうなこの家は、玄関に板が打ち付けられている。 まるで遠近法の描画を間違

【能登半島地震 忘れられた被災地】「自宅には住めない」「水道もまだ」…新潟被災者が苦しむ『支援格差』

スローニュース 熊田安伸 頭上を覆う一面の雲。いまの季節に限らない、いつも通りの新潟の曇天だ。 時折、霰(あられ)がパラパラと舞い落ちる。寒い。思わずジャンパーの襟を合わせ直す。 新潟市の中心街から西に10キロほどの場所に、西区の「寺尾東」地区はある。そのあたりが「能登半島地震」で大きな被害を受けたと聞いた。 最寄りのJR寺尾駅からは下り坂だ。被害を受けている様子は……見当たらない。それほどでもないのか。住民の姿もほとんど見かけない。 気づくと、目の前の道路におかし