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「災害前線報道ハンドブック」と災害関連リポート

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大災害は突然にやってきます。その時、何を取材するべきでしょうか。記者たちに的確な指示が出せるでしょうか。ありそうで存在していなかった「災害時の取材マニュアル」ジャーナリストのプレ…
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#東日本大震災

災害前線報道ハンドブック【第4章】復興フェイズ⑤復旧・復興工事に携わる業者の調べ方

スローニュース 熊田安伸 前回は復旧・復興事業をめぐって談合が起きていないか、公共工事の入札をどう調べるかといった手法をご紹介しました。今回は復旧・復興のための工事に携わる業者をより具体的に詳しく調べる方法をご紹介します。 入札調書では分からない、関係業者を引きずり出す方法公共工事については前回説明した通り、自治体のホームページなどに入札情報などが掲載されます。しかし、受注した企業が下請けに出した場合、その先をたどることはできません。 そんな時に非常に役に立つツールがあ

災害前線報道ハンドブック【第4章】復興フェイズ②復興予算問題に気づくまで

スローニュース 熊田安伸 前回も紹介した通り、復興事業では「タテ割り」が必ずといっていいほど弊害として浮かび上がります。中でも大きな話題を呼んだ東日本大震災の復興予算問題は記憶に新しいところではないでしょうか。今回はその問題に気づくまでの取材の経緯をご紹介します。 当時の政権を揺るがせた復興予算問題東日本大震災が発生した翌年、2012年に放送された「NHKスペシャル シリーズ東日本大震災『追跡 復興予算19兆円』」は、増税によって賄われた復興予算が被災地とは直接的には関係

災害前線報道ハンドブック【第4章】復興フェイズ①復興の「空白地帯」を見つける

スローニュース 熊田安伸 今回から第4章「復興フェイズ」です。復興計画・復興事業のチェックは、まさに「調査報道」そのもの。拙著『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』とかぶるテクニックやツールも多いですが、災害報道に特化した形でご紹介していこうと思います。 復興の現場を何度も歩くと…新潟県中越地震の発生から1年が経過した2005年の小千谷市。復興予算の規模は350億円で、本来なら既にかなりの復旧工事が進んでいるはずでした。 しかし小千谷市を担当しているNHK新潟放

災害前線報道ハンドブック【第3章】検証フェイズ⑧避難行動を検証する

スローニュース 熊田安伸 第3章「検証フェイズ」の最後は、発災時の「避難行動」の検証です。証言を集める方法と、テクノロジーを使う方法。それぞれ報道の実例とともに紹介します。 避難行動は適切におこなわれていたのか大災害での避難行動の検証は、非常に重要です。東日本大震災で特に大きな被害が出た宮城県石巻市の大川小学校や、岩手県釜石市の鵜住居地区防災センターについては、当時のいきさつを自治体や各メディアが詳しく検証してきました。 そもそもの避難計画や防災計画が適切だったかどうか

災害前線報道ハンドブック【第3章】検証フェイズ⑦施設の損壊の「本当の原因」を検証する

スローニュース 熊田安伸 前回、第4章の復興フェイズに移るとお伝えしましたが、検証フェイズでまだやるべき話が残っていました。地震や津波で被災した施設や建造物がなぜ壊れたのか、その「本当の原因」を調べることも重要です。今回も実例をもとに解説します。 なぜ地震のたびに天井は落下するのか災害で被災した施設は、なぜ壊れたのか。いやいや、あれだけ大きな揺れや津波に襲われたら被害を受けて当然、などと思っていないでしょうか。しかしそこで思考停止に陥ってしまうと、本当に検証すべき大切なこ

【東日本大震災13年】メディアはどのように伝えているか、注目のコンテンツを紹介・後編

東日本大震災の発生から13年目。メディア各社はどのように報じているのか。後編は「定番」の発信方法によるものを中心に取り上げます。 スローニュース 熊田安伸 「定点観測」コンテンツ震災直後と現在の被災地を比較できる「定点観測」の記事、これは各社ともそれぞれ映像・画像を蓄積し、重要なコンテンツとして節目ごとに発信しています。 朝日新聞の発信はシンプルなフォトスライダー(写真の中央部にあるバーを左右に動かすことで変化がみられる)です。きれいに復興したように見えるところでも、当

【東日本大震災13年】メディアはどのように伝えているか、注目のコンテンツを紹介・前編

あの日から13年、ことしも3月11日がやってきました。 年月の経過とともに伝えるべきことは変化し、メディアも何をどう発信すべきかを模索しています。一方で、「伝えることができない類の悲しみ」(ルポライター・三浦英之氏)にも、変わらず向き合っていかなければなりません。 13年目の報道で、注目したものをまとめました。 スローニュース 熊田安伸 被災者の実情を伝える調査報道など被災した中小企業を救うために創設されたのが「グループ補助金」です。その名の通り、企業がグループで再建

災害前線報道ハンドブック【第3章】検証フェイズ⑤危険な場所での住宅再建をどう調べる?

スローニュース 熊田安伸 前回はハザードマップなどのオープンデータで、「避難弱者」のはずの高齢者や子どものための施設が危険に晒されている実態などを伝える手段を紹介しましたが、今回はこうした津波の浸水想定区域に住宅が再建されてしまったケースなどを検証する方法について解説します。 基本ツールは「建築計画概要書」津波の浸水などが予想される危険な場所に住宅が再建されてしまっていないか。それを調べることができるツールが「建築計画概要書」です。 建物を建てるとき、建築主は「建築確認

地震への初動や復旧の対応は「遅れた」のか、検証した報道【能登半島地震コンテンツまとめ⑦】

スローニュース 熊田安伸 元日に発生した「令和6年能登半島地震」に関するコンテンツ。「サービス・ジャーナリズム」「公共性」「可視化」などの観点から、メディアなどの発信で注目したものを、これまで6回にわたって取り上げました。 発災から1カ月が経過し、各メディアとも初期の対応や、復旧の進捗について検証する報道が見られました。今回はそうしたコンテンツを取り上げてまとめます。 復旧の遅れを可視化した朝日新聞の報道水道や道路などの復旧が伝えられる今回の能登半島地震。では過去の災害

災害前線報道ハンドブック【第3章】検証フェイズ③大川小の悲劇はなぜ「人災」といえるのか

スローニュース 熊田安伸 いざという時にどう逃げるのか、事前に避難の手順を決めておく「避難マニュアル」は様々なレベルで存在しています。前々回、「防災計画」を調べることについて述べましたが、その一部になっているケースも。「避難計画」も検証すべきもので、調査報道によって問題を明らかにした事例をご紹介します。 大川小学校は、そもそも「避難マニュアル」に問題があった児童74人、教職員10人が津波の犠牲となった宮城県石巻市の大川小学校。東日本大震災で「悲劇の小学校」と言われた場所で

災害前線報道ハンドブック【第3章】検証フェイズ②命を守る情報がなぜ伝わらないのか

スローニュース 熊田安伸 検証フェイズの第2回は、情報伝達についてです。災害の発生時、命綱となるのがまさに情報。でも、被災者に伝わらないこともよく起きています。何が問題で、取材のポイントはどこでしょうか。 防災行政無線は本当に役に立つのか自治体が住民にいちはやく避難を呼びかけるためなどに使っている重要ツールの一つが、「防災行政無線」です。屋外にあるメガホン型のスピーカーを見たことがある人も多いと思います。 ところが、いざ災害が発生した際に、「聞こえない」というケースが多

災害前線報道ハンドブック【第2章】避難フェイズ⑥被災者や遺族への取材

スローニュース 熊田安伸 災害報道で最もハードルが高いものの一つが、被災された方や、亡くなった方の遺族などへの取材です。相手への十分な配慮が必要なことはもちろん、場合によっては取材する側のメンタルにも強く影響することがあります。どのようにするのが一番いいのか。 結論から言ってしまえば、他のあらゆる取材と同じでケースによって判断するしかないので、「答えはない」のです。とはいえ、参考になる実例はいくつもあります。今回は、そうした例を紹介したいと思います。 それまでは取材がで

災害前線報道ハンドブック【第2章】避難フェイズ⑤自治体が陥る仮設住宅での「神話の妄信」とは何か

スローニュース 熊田安伸 仮設住宅への入居をめぐる問題点については、前回詳しく説明しました。ではいざ入居した後には、どんなことが取材のポイントになるのでしょうか。最も警戒すべき事態が、「仮設住宅での孤独死」の発生です。それをよく検証していくと、先進的な取り組みをしていたはずの自治体で、実は過去の「神話」にとらわれて、おざなりな対策がとられていたことが見えてきます。 わずか4カ月で起きてしまった孤独死仮設住宅の取材を担当する記者たちに、いつもデスクとしてお願いしていたことが

災害前線報道ハンドブック【第2章】避難フェイズ④仮設住宅に「入居したくない」理由こそ取材を

スローニュース 熊田安伸 発災のあと、生活再建に向けての基盤として“最重要”の扱いで多額の費用をかけて整備される仮設住宅。厳しい避難所暮らしが続くなか、メディアも「行政は早く造れ」と連呼しますが、単に造ればいいというものでもありません。なんと「入居したくない」という被災者が相次ぐ“想定外”の事態が起きていました。決してわがままなどではありません。被災地でどんなことが起きていたのか、2回に分けて実例と取材のポイントを紹介していきます。 仮設住宅への入居辞退が相次ぐ現実東日本