スローニュースのスクープ『無呼吸症の医療器具で「健康被害のおそれ」』(萩一晶さん)が第1回国際文化会館ジャーナリズム大賞のファイナリストに
公益財団法人国際文化会館が、優れた報道を顕彰する「国際文化会館ジャーナリズム大賞」。スローニュースで連載された萩一晶さんの『無呼吸症の医療器具で「健康被害のおそれ」』が特別賞のファイナリスト2作品のうち一つに選出されました。
この賞は、「綿密な取材やデータを元に調査を行い、日本と多様な世界との関わりの中で生じる新たな可能性と課題に光を当てた報道」を表彰するもので、今回が第1回になります。
日本では「睡眠時無呼吸症候群」の患者は推定900万人、その医療器具に問題が
選出された記事は、スローニュースに2023年6月20日から11月7日にかけて計5回掲載したものです。
米フィリップス製の医療器具に「健康被害のおそれ」があることが2021年に発覚。しかし日本では十分な周知もないまま、「回収中」であることを明らかにした調査報道で、その背景にある日本の制度上の問題点と、健康被害の実態を明らかにしています。
今回、ファイナリスト選出を記念して、スローニュースでの連載を無料公開いたします。
取材をした萩一晶さんに聞きました
この記事の取材・執筆をしたのは、フリーランス記者の萩一晶さんです。萩さんは1986年から全国紙記者として徳島、神戸、大阪社会部、東京外報部、オピニオン編集部などで働き、サンパウロとロサンゼルスにも駐在。2021年からフリーで活動しています。
受賞にあたって、改めてお話を聞きました。
なぜ取材をしようと考えたのでしょうか
米国で製造された医療器具で「重篤な健康被害や死亡を引き起こす可能性」が発覚し、規制当局が最も危険度の高い「クラス1」に分類して厳しい対応を取っているのに、その器具を輸入した日本では、なぜか重篤な健康被害の恐れが「ない」ことになっていることを知り、その落差に大きな疑問を感じたからです。
妙なことが起きているとき、その背景には問題に対処できる制度が整っていないか、制度があっても機能不全に陥っているか、おかしな力学が働いたか、いずれかである場合が多いことを記者生活のなかで学びました。きちんと調べれば、きっと何かがわかるはずだと思い、取材をすることにしました。
公開後、記事に対してどのような反響がありましたか。
「うちの家族ががんになったのは、フィリップスの医療器具のせいではないか」と疑う連絡を、知人を介していただきました。
元社員からは「なにかお役に立てることがあるかもしれない」というメールも届きました。お目にかかると、やはり会社の対応に疑問を抱いて離職したかたでした。
「名前は出せないが、取材に協力したい」という医師も現れました。
記事の公開後、どのようなことを感じていますか
米国では、私が記事を公開した3カ月後に、調査報道専門のニュースサイト「プロパブリカ」がこの問題の深掘り報道を始めました。
フィリップス本社の地元にある新聞社や、親会社があるオランダのメディアとも手を組み、圧倒的な人員と物量をかけて長文記事を連発しています。そこでは患者も医師もフィリップス関係者も、多くが素顔と実名を出してモノ申しています。
内職のように細々と続けている私の力不足は元から明らかですが、この国はどうして、これほどモノを言いにくい世の中になってしまったんだろう、とも感じるこの頃です。
萩さんは現在も取材を続行していて、以下のアドレス(cpap2023j@gmail.com)への情報提供を呼び掛けています。