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被災地で求められている支援は何かを把握し、ミスマッチを起こさない方法はあるか【能登半島地震コンテンツ⑤】

スローニュース 熊田安伸

元日に発生した「令和6年能登半島地震」に関するコンテンツ。「サービス・ジャーナリズム」「公共性」「可視化」などの観点から、メディアなどの発信で注目したものを、これまで4回にわたって取り上げました。

今回は「初期の被災地支援」に関わるものを中心に、注目したコンテンツをまとめ、課題を探りました。

飲料水はいらなかった!?やはり起きてしまった「被災地とのミスマッチ」

神戸市の公式noteに、興味深い記事がありました。「『神戸の経験は役立たない』の真意」という非常に刺激的なタイトルが付けられていますが、これは能登半島の被災地に応援に第一陣として派遣された神戸市の職員が、地元に戻って活動の報告をした内容をまとめたものです。

タイトルは、要するに大都市の神戸と集落が点在する能登とでは、地域の特性から効率的な避難所運営の在り方が全く違っていたという報告のことを表現しています。

それは「さもありなん」とは思ったのですが、それ以上に印象的だったのが、支援物資のミスマッチについての報告でした。

珠洲市に飲料水が不足している孤立地域があると報道されたのですが、実はすでに中心部の体育館に大量のペットボトルの飲料水が用意されていたというのです。

そこに大量の飲料水が救援物資として届けられることになり、その重さで体育館の床が陥没したのだとか。記事にはその写真も載っていますが、衝撃的なシーンです。

本当に必要な支援の手が届かない一方、ミスマッチも起きてしまうというのは過去の災害でも常に起きていることですが、またしても、という感じです。(過去のケースは『災害前線報道ハンドブック』に書いております)

「検索クエリ」分析でミスマッチ解消の可能性が

神戸市公式noteの記事では、珠洲市の場合、広報できる態勢も十分ではなかったことがミスマッチにつながったことが指摘されています。

では自治体が十分な情報発信ができない時に、メディア自身がニーズに気づけないか。そんなことを実現できないかと、NHKとLINEヤフー研究所が行っているのが、検索クエリ=ネットで検索するときに入力された言葉を分析する取り組みです。

個人が識別できない形で集計した検索ワードのビッグデータを使って、輪島市、珠洲市、能登町、穴水町の被災地2市2町の人たちが何を検索しているのかを調べていました。

「断水」「ガソリン」など、最初期の時点から何に困っているのかが浮かび上がってきます。この記事の時点までで20日間の分析をしていますが、6日目からは「トイレ」、1週間で「入浴」、2週間を過ぎると「コインランドリー」が浮上しました。

NHK NEWS WEBの記事より

関係者によると、よりデータが多く取れれば、より精度の高いピンポイントでのニーズの把握にもつながることが期待できるとしています。

こうしたテクノロジーで「見えない被災地の実像」を把握するのも、重要な取材活動だと思います。

大災害ほど「何が起きているかが分からない」ではどう動けばいいのか

今回の震災について、初期対応にあたった複数の報道機関のデスククラスから話を聞いたところ、共通して言っていたのが、「どこで何が起きて、どれくらいの規模の被害が出ているかが全く分からない状況が続いた」ということでした。大きな被害が出た珠洲市も輪島市も現場が混乱し、行政さえも状況が把握できなかったためです。

ただ、これは半島で極端に交通の便が悪い能登だから、ということではありません。今回の震災の前に起きた5回の「震度7」の際も、政府も自治体もメディアも、初期の段階での被害の把握はうまくいっていないのです。災害が大きければ大きいほど、最大被災地も被害の規模も見えにくくなるのは、過去の経験からも明らかです。

それを踏まえたうえで、「今回、救助のための初動の対応が遅かったのではないか」という批判が出ています。これに対し、「状況も分からない中で闇雲に動くべきではない」という声も。

しかし、東日本大震災にはこんな教訓があります。震災発生後、岩手県の花巻空港に全国の自治体から防災ヘリコプターが応援で集結しました。しかし、どこにどう救助に行けばいいか指示がなく、発災後3日ほどは十分な救助活動をできていなかったのです。ヘリ隊長の一人にNHKの記者が当時のことを尋ねると、一刻を争う状況だったにも関わらず、「手持無沙汰だった」とさえ話していました。結局、痺れを切らして一部のヘリが自主的に発進し、被災地を探索して救助活動を行っていたのです。

指示がなかった原因はやはり、「岩手県が被災地の状況が分からなかったので指示が出せなかった」ことでした。こうした状況は後の検証で報告書にまとめられ、それを受けて「被災地の状況が分からなくてもヘリには救助に向かってもらう」よう、運用のルールが改定されました。

今回の自衛隊の初動に対して問題点を指摘している上智大学の奥山俊宏教授は、今後、「首都直下地震」が発生した際に自衛隊がどのように投入されるのか、過去の机上訓練の取材をもとにした論考を発信しています。「防衛大臣もしくは総理大臣の命令に基づいて自衛隊の全国各地の部隊を迅速に被災地に集中できる枠組み」が設定され、実現できるようになっているのかを問うものです。

大災害の初動は必ず「混乱」します。それを踏まえた上での行動の最適解を常日頃から考え、準備していくことが必要です。テクノロジーで解決できることも生まれてくるだろうと思います。

自治体の発信そのものが変化しつつある

それにしても冒頭に挙げた「神戸市公式note」、こうした発信を見るにつけ、noteのようなデジタル発信の方法が発達するにつれ、自治体自身の発信が今後は増えていくのだろうと予感しました。場合によっては従来型メディアを超えていくのかもしれません。

そもそも自治体が担うべき情報発信を、拡散力のあるメディアが代替してきた側面がありますし。しかし自治体そのものが拡散力を手に入れると、その関係性も変わっていく可能性があります。

自治体自身の発信がどうだったかについては、また別の機会にまとめてみたいと思います。

スローニュースでは、被災地で取材するジャーナリストに役立つ『災害前線報道ハンドブック』を連載しています。発災時にまず何を取材するべきか、記者の配置はどうするのか、避難所や仮設住宅での着目点は、防災計画などの検証は。こうしたテクニックを実例をもとに連載しています。