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諸永裕司のPFASウオッチ

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「永遠の化学物質」として問題になっているPFAS(有機フッ素化合物)。調査報道スクープや最新の自治体や企業の動き、取材の経過などをこちらで発信していきます。(取材:諸永裕司)
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2023年12月の記事一覧

【諸永裕司のPFASウオッチ】「規制は被害のあとにくる」汚染地域の住民と環境省の埋まらない溝 

彼女は2002年、米大手化学メーカー「3M」の工場がある米ミネソタ州に生まれた。3Mがその危険性から突然、PFOSの製造停止を宣言した2年後のことだ。そして、21歳になる2日前に生涯を閉じた。 肝細胞がんと診断されたのは15歳のときだった。彼女が通っていた高校の近くには、3Mが廃棄物を捨てたとされる場所があり、地域の14万人あまりが飲んでいた水からのちにPFASが検出された。 この高校では、2015年までの10年間で少なくとも5人の生徒ががんで亡くなった、という教師の証言

水質汚染の異常値は「隠蔽」されたのか、 岡山・吉備中央町で疑惑の関係者を直撃した

フリーランス 諸永裕司 異例の補正予算案が12月20日、岡山県吉備中央町の議会で可決された。 <特別損失 115,710(千円)> 同町では少なくとも3年あまりにわたり、きわめて高い濃度のPFOAを含んだ飲み水を522世帯(約1千人)に送っていた。発がん性のある化学物質が入った水を飲ませていたことから、町は支払われた水道代(合計1億1571万円)を住民に返すというのだ。 なぜ、前代未聞の事態は起きたのか。 元水道課長が証言した「PFOA見落とし」の経緯「PFOAとか

【スクープ】発がん性あるPFOA汚染水で健康不安が広がる岡山・吉備中央町、血中濃度の衝撃データを明らかにする

フリーランス 諸永裕司 国際機関で発がん性が認められた化学物質PFOA。岡山県吉備中央町で少なくとも3年間、PFOAに汚染された飲み水が供給されていた。その濃度は、国の暫定目標値の16~28倍だった。しかも、目標値が設けられた2020年より前は測定していないため、飲み水の汚染がいつから続いていたのかはわからない。 いったい、どれだけのPFOAを体の中に取り込んでしまったのか。 円城浄水場管内の約1000人の住民のうち27人が、11月末、京大の小泉昭夫・名誉教授と原田浩二

「ここの水は飲めません」突然の知らせが、私を不安に突き落とした……流産との関係はあるのだろうかと

祈るような思いでうつむいていると、医者が言った。 「心音が聞こえませんね」 恐れていたセリフがまた耳に響いた。3度目の流産を告げられたのだ。 東京で産んだ長男は元気なのに、自然豊かなこの町に移り住んだ後、流産を繰り返した。 3度とも妊娠初期だった。「不育症」ではとも考えたが、「理由はわからない」と医者は言った。 一家3人で東京を離れたのは、2011年の東日本大震災の直後だった。憧れていた自然の中で暮らそうと、知人のいる岡山の吉備中央町に引っ越した。人の優しさに触れ、ここ

【諸永裕司のPFASウオッチ】「悪夢」と呼ばれたかつての数値より厳しいか?注目される米当局の水質新基準

「永遠の化学物質」として問題になっているPFAS(有機フッ素化合物)の最新情報を伝えているジャーナリスト、諸永裕司さんの「PFASウオッチ」。第7回は、関係者が固唾をのんで見守っている、飲み水に含まれるPFASの新基準についてです。 どうなる米当局の打ち出す新基準このところ、毎日のようにアメリカ環境保護庁(EPA)のホームページをのぞいている。 EPAは、飲み水に含まれるPFASについての新たな基準を「2023年秋」に設けるとしているからだ。 注目度は比べようもないが、

【諸永裕司のPFASウオッチ】国際がん研究機関がPFOAの「発がん性」を認めた

「永遠の化学物質」として問題になっているPFAS(有機フッ素化合物)の最新情報を伝えているジャーナリスト、諸永裕司さんの「PFASウオッチ」。第6回は、岐阜県各務原市での住民の血液検査の結果と、国際機関による新たな発表についてです。 岐阜・各務原市の汚染エリア 血中濃度が米指針の3倍超またひとつ、汚染地域での血液検査の結果が出た。やはり、住民たちの血中濃度は高かった。 水質管理の目標値を超える濃度のPFASを検出しながら2年半にわたって公表していなかった岐阜県各務原市。こ