承認された東大医科研のG47Δ その治験は有効性を証明してなかった!
「画期的ながん治療」とメディアで持ち上げられる東大医科学研究所のG47Δ(デルタ)は、実はその治験で有効性を証明していないと規制当局に判断されていた。6月17日に発売になった『がん征服』は、その衝撃の事実のみならず、なぜそれではそうした薬剤が承認されたか、という疑問から、法改正の裏側まで詳らかにしている。ノンフィクション作家の下山進が書く『がん征服』執筆の作法、その最終回。
ノンフィクション作家 下山進
審査報告書の記載に衝撃
<GD01試験の試験デザイン、閾値の設定等には問題点があることから、事前に設定された有効性の主要及び副次評価項目の結果のみに基づき本品の有効性が認められたと結論することは困難であると判断した>
そう書かれてある審査報告を読んだとき目を疑いました。
薬の承認審査は、厚生労働省が所管する独立行政法人のPMDA(医薬品医療機器総合機構)が行います。PMDAは、製薬会社が提出した治験の資料を吟味し、まず内部の職員が審査報告1を書き、それに基づいて外部の専門委員が審査報告の2を書きます。
GD01試験とは、東大医科学研究所の藤堂具紀教授が医師主導治験で行った治験第2相のことです。
実は、私はその前の作品が『アルツハイマー征服』であったため、薬の承認というのがいかに厳しく審査をされるかを身に染みて知っていました。承認されたエーザイの「レカネマブ」にしても、1795人の被験者を実薬群と偽薬群に1対1でわけ、医者にも患者にもわからない形にして18カ月後の結果をみました。ここで27パーセント進行を抑制したという統計学的に有為な結果を出したことで承認をされたのです。
これは二重盲検ランダム化比較試験といい、現在の治験のゴールドスタンダードです。患者は治験に組み入れ後に、くじ引きで、実薬群と偽薬群にわける。そして治験をしている間はどちらを与えられているかは、患者も医師もわからない。
つまり、これは徹底して人間のバイアスをさけるために考えられた治験の方法でした。
比較対照群なし 治験患者がたった19人
ところが、G47Δの審査報告を読むと、まったく違う様相の治験になっていることがわかりました。
まず、これは開発した藤堂具紀教授の属する東大の医科学研究所1施設のみで行い、比較対照群をもうけないシングルアームと呼ばれる治験でした。しかも、治験に入った患者はたった19人です。
これがなぜ問題なのかと言えば、患者選定を行うのは、治験を主導する医師だからです。つまりこの場合はG47Δを開発した藤堂具紀教授です。予後のいいと思われる患者ばかり集めれば、結果はよくなります。
実際、審査報告には、予後のいいIDH1の変異を持つ患者が6例(31.6パーセント)含まれていたことが指摘されていました。実臨床下ではこの変異を持つ患者は5パーセント程度しかいません。IDH1の変異を持つ患者は統計学的な調査によれば、持っていない患者よりも平均余命は5年強長いのです。
治験を実施した藤堂具紀教授は、1年後の生存率を主要評価項目におき、中間解析というものを行っています。これは治験の途中でその結果を見るものです。その結果、92・3パーセントの一年生存割合だったので、早期有効中止にしたと主張していました。しかし、審査報告には、データカットオフ時点で14例目の患者が死亡していたにもかかわらず、中間解析では除外されていたことが指摘されています。
また副次的評価項目に腫瘍の縮小をみる奏効率をおいていましたが、これはPMDAの判定では0パーセントでした。腫瘍が縮小した例はない、ということです。