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【諸永裕司のPFASウオッチ】東京・多摩地区の住民が血液検査や米軍基地への立ち入りを要請、小池知事はどう答える?

「永遠の化学物質」として問題になっているPFAS(有機フッ素化合物)の最新情報を、フリージャーナリストの諸永裕司さんが伝える「PFASウオッチ」第2回を発信します。

体内汚染が確認された多摩地区の住民がついに東京都に要請

きっかけは、2020年1月6日付朝日新聞の1面に載った記事だったという。

東京都が横田基地からの有害物質の漏出を調べるために設けたモニタリング井戸から、PFOSとPFOAの合計で最大1340ナノグラムが検出された、と伝えていた。このPFAS報道の第一報は当時、特別報道部に所属していた私が書いたものだった。

それから3年9か月。

あの記事を読んでPFAS汚染問題に取り組み始めたという市民たちは、東京・多摩地区で791人の血液検査を行い、高濃度の体内汚染が広がっていることを明らかにした。

そしてついに31日、小池百合子・都知事あての要請文を手渡すことになった。

<有機フッ素化合物(PFAS)による地下水・水道水汚染から住民の命と健康を守る要請>

東京都の責任で住民の血液検査をすることや、汚染源と疑われる米軍・横田基地への立ち入りを国に求めることなど5項目を挙げていた。

「国の責任で」「国に求めています」それだけでいいのか

都庁議会棟の会議室で、東京都の担当者たちが受け取った。都市整備局・基地対策担当課長、環境局・化学物質対策課長、保険医療局・環境保健事業担当課長、水道局多摩水道改革本部・水質管理課長の4人は質疑にも応じた。

市民による東京都への要請(10月31日 撮影:諸永裕司)

「横田基地内の汚染については国の責任で調査・分析しており、日米間で協議しています」

「血液検査は、血中濃度と健康影響との関係について定まった知見がないため、科学的根拠にもとづいた知見を出すよう国に求めています

「地下水の調査はほかに例のないほど大規模かつ前倒しでやっています」

「水質は国の目標値を下回っており、安定的な供給を続けます」

国に下駄を預けるか、現状の施策を肯定するか。日本でもっとも汚染が深刻とみられる多摩地区の住民たちの切実さは届かなかった。もどかしい内容に、参加者からは批判の声があがった。

問われるべきは小池都知事の姿勢

だが、問われるべきはPFAS汚染問題に後ろ向きに見える小池都知事だろう。

冒頭で紹介した横田基地モニタリング井戸ではあれ以来、PFASの計測は行われていないという。
「もともと燃料漏れ事故の監視のために設けられたもので、PFASを調べるためのものではないですから」

横田基地では泡消火剤の原液3千リットルを漏出する事故が起きただけでなく、泡消火剤を使った消火訓練を30年以上続けてきた。地下水の成分を調べれば、泡消火剤に使われていたものかどうかがわかるが、取り組む予定はないという。
「(汚染)発生源は基地だけとは限りませんから」

これまでの取材で耳にした東京都の回答もまた、知事の意向と無縁とは思えない。

本来、基地内への立ち入りを求める立場にあるはずの小池都知事は6月、3千リットルの漏出事故について報告を受けた後、記者たちに囲まれてこう口にしている。
「(基地内への)立ち入り検査は難しい」

はじめから要求を放棄するかのような口ぶりは、のちに「国の責任で解明を」へと変わった。

環境相と防衛相をいずれも短期間ながら歴任した東京都のトップ。まるですべての対応は国が負うべきであり、当事者ではないかのようなその姿勢は、住民に向き合えているといえるのだろうか。

多摩地区では一部の学校や大学で、PFASに汚染された地下水が飲み水や給食の調理などに使われていることがわかった。現在配信中のスローニュースでは、その実態を明らかにしている。


諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄の密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com)