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【スクープ】学校で汚染水が飲まれていた!一橋大、東京学芸大、桐朋学園…PFASに有名校はどう向き合うのか

フリーランス 諸永裕司

東京・多摩地区にある一部の学校や大学で、PFAS(有機フッ素化合物)に汚染された地下水が飲み水や給食の調理などに使われていることがわかった。

学校が独自に所有する専用水道(大型井戸)では、国が定める水質の目標値を超えていても設置者の判断で使うことができるためだ。健康への影響を受けやすいこどもや若者の命は守られるのか。

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東京学芸大学「保健所が『問題ない』と」 目標値超えても利用 

教員養成系大学として知られる東京学芸大学(小金井市)、日本でもっとも深刻なPFASのホットスポット(汚染地帯)である国分寺市との境に位置している。

新宿から電車で30分ほどの緑豊かなキャンパスには、大学の講義・研究棟や食堂だけでなく、保育園や付属の幼稚園、小・中学校もあり、二つの大型井戸から汲み上げた水を使っている。小学校の給食や小中学校のプールなども含めると1日に約7200トンを利用するという。

昨年夏、構内に二つある大型井戸のうち、東井戸の水質検査の結果が保健所から送られてきた。

<66ナノグラム>

国が定めた水質管理の目標値である、水1リットル中でPFOSとPFOAの合計50ナノグラムを上回っていた。

大学キャンパスの一角には、昔ながらの井戸が残されている

しかし、検査結果に添えられた説明文には、こう書かれていた。

保健所を管轄する東京都福祉保健局によると、専用水道の設置者は水道法に基づいて水質管理を求められるものの、守らなければならないのは「水質基準」に定められた51項目に限られる。

PFOSとPFOAは水質基準より下の「水質管理目標設定項目」に位置づけられているため、目標値を超えていても、飲むかどうかの判断は設置者に委ねられるという。

保健所からの文書には、長期的には飲用を控えるのが望ましいとして、活性炭による除去、水道水の併用、水道水への切り替えなどの対策も示されていた。大学の施設課担当者は、水道水に切り替えた場合、補助は出るのかと保健所に尋ねたが、「ない」という。そこで、活性炭を入れてPFASを除去している例はあるか、と尋ねた。

「大学でやっているところはありません」

結局、汚染対策には経済的な負担が大きいことや「ただちに健康への影響はない」と説明されたこともあり、いまも利用を続けている。

「保健所からは、飲み続けても問題があるわけではない、と言われています」(担当者)

しかし、同じ東京都の水道局は目標値を下回るように管理しているため「水道水は安心」と説明している。現在、多摩地区にある12ヶ所の浄水所・配水所では、水源となる地下水からの取水を停止しているのも、飲み水が目標値を上回らないようにするためだ。

施設課の担当者は「そうした情報は知らなかった」と打ち明ける。

取水停止した12ヶ所のうち、上水南浄水所(小平市)は東京学芸大学から北に約500メートル、東恋ヶ窪配水所(国分寺市)は西に約1.5キロに位置している。地下水の専門家は「地下水の動きは年に1メートル動くかどうかなので、一帯の汚染がすぐに消えることは考えにくい」と指摘する。

また、PFOSとPFOAに続く第3の物質PFHxSは昨年、国連ストックホルム条約会議で製造・使用が禁止され、国内でも規制対象になると見込まれる。東井戸からはPFHxSも54ナノグラムが検出されている。

さらに、こどもたちへの影響を懸念する専門家もいる。国の目標値は体重50キロの人が1日2リットル飲み続けても健康に影響がないとして算出されたものであるため、こどもや妊娠可能な年代の女性は目標値の半分に抑えるのが望ましい、という。

構内にある幼稚園、小学校、中学校の責任者はいずれも「こどもと教職員の健康が優先されるべき」「水については大学に任せている」としている。

構内の農場では、地域の小学生などに田んぼを開放し、稲作体験を提供している。収穫した米は参加者だけでなく、市内のこども食堂や老人ホームなどにも配っているという。梅やバナナは保育園のおやつに出され、中学生はサツマイモの栽培・収穫などもしている。農作物を通じて体内に摂取される懸念があるが、食品や土壌についての国の基準は現在、設けられていない。

大学はこの8月、農場わきにある西井戸についても水質を調べるという。

一橋大は「目標値の7倍」2020年から水道水に切り替えたものの、年1700万円の負担に

2010年に233ナノグラム、2012年には349ナノグラム……。

古くから専用水道を利用する一橋大学(国立市)では以前から、きわめて高い濃度のPFASが検出されながら、飲み水だけでなく、大学生協の食堂でも使われてきた。

2019年9月に大学が独自に調べたところ、370ナノグラムだった。

すでに厚労省が翌年春に目標値を設けるとしていたため、大学は浄化設備の導入を検討した。しかし2億円近くかかることから見送り、水道水に切り替えることを選んだ。年間の水道代は1700万円にのぼる。その結果、2020年4月以降は、目標値を下回っているという。

それまできわめて濃度の高い地下水を使い続けいたことについては、担当者は「国は水質管理の目安を設けておらず、保健所からも『飲むべきはない』との助言はなかった。目標値ができてからは下回っている」としている。

小平キャンパスの専用水道の濃度は今年3月、27ナノグラムだった。

桐朋学園も2021年に水道水に切り替え。高額な水質検査の費用も悩み

一橋大学のすぐ南にある桐朋学園(男子部・小中高)でも、PFAS汚染の対策に頭を悩ませている。

鈴木正義理事によると、2年前の夏にポンプが故障して以来、専用水道からの取水を止めているという。昨年末に修理は終わったものの、地下水の濃度が高いことが想定されるため、水道水に切り替えたままだ。

東京都の資料によると、2020年7月、保健所による水質検査で国立市の地下水から562ナノグラムが検出されている。

「水道水に切り替えたので目標値は下回っていますが、濃度については公表していません。検出下限値の5ナノグラム未満なら『安心』と言えるでしょうが、そうでないと評価が分かれて、飲ませていいかどうか判断できないですから」

定期的な検査にも二の足を踏む。鈴木理事は経済的な負担が大きいからだ、と打ち明ける。

「1回10万円以上、隔月でやったら年間60万円。それだけで生徒1人分の年間の授業料が消えてしまいます。それでなくても水道代が年間600万円ほどかかる。飲み水を汚染された私どもが引き受けるほかないのです」

なお、同学園の女子部(調布市)が独自に専用水道を調べたところ、15ナノグラムだった。

ここからは有料購読者限定です。多摩地区で「専用水道」を使っている合わせて17校(20キャンパス)を取材しました。その結果は。

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