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『スクープ』が厚労省を動かした!品川美容外科の「エクソソームがん治療」に臨床研究法違反で行政指導

大手美容医療クリニックの品川美容外科(医療法人翔友会、綿引一理事長)が院内関係者のがん患者を対象に幹細胞上清液(エクソソーム)点滴を投与する治療のモニタリングを秘密裏に行なっていた問題で、厚生労働省が動いた。

同院に対して厚生労働省が調査に入り、モニタリングの中止を指示していたことが、今回、複数の関係者への取材でわかった。

同省は、品川美容外科が必要な特定臨床研究の届け出を怠り、臨床研究法に違反したとして行政指導の対象とした。年度内にも事案を公表する方針だ。

伊藤喜之(ノンフィクション作家)

一連の問題はスローニュースが、昨年11月21日、28日に「話題の「エクソソーム」投与で肺がんが急速肥大 中止勧告後も継続された有名美容クリニックの『極秘治療』」「『国のお墨付き』を偽装し「がん患者」に説明した品川美容外科のエクソソーム点滴の「大ウソ」」という2本の記事でスクープした。

被験者のがん細胞は異常なスピードで肥大化した

複数の同院関係者によると、綿引理事長の号令のもとで昨年からがん患者への幹細胞上清液投与のモニタリングが始まった。被験者となったのは病院関係者の親族らで肺がんなどを抱え、すでに進行したステージ4の患者たちだった。

少なくとも4人がモニタリング対象になり、品川美容外科の本拠である品川本院 (東京都港区)で点滴投与を受けるようになった。 

ところが、そのうちの複数人に異変が起きた。

スローニュースのスクープに厚労省が動いた

点滴投与を繰り返し受けた肺がん患者の70代女性では、投与前と投与後のCTスキャンを比較したところ、わずか1か月でがん細胞が通常では考えられないほどの速さで肥大化していた。投与前には確認できなかった部位にもがん細胞が増殖している様子が確認された。

同じく肺がんを患う70代男性もCT上でがんの肥大が見られた。外部の医師がモニタリングの中止を勧めたが、その後も投与を継続した。

スローニュースの「スクープ」が厚労省を動かした

また、モニタリングにあたって同院が患者に示し、サインさせた説明・同意書にも問題があった。

文書には「本治療は(中略)臨床研究計画書を厚生労働省へ提出した上で行われています」と記載されていたが、実際には同省に計画書を提出しておらず、虚偽記載をしていたことがわかったのである。

事情を知る院内関係者は「『国の臨床研究』のお墨付きがあると信じ込ませて、患者から同意を容易に得ていた」と明かした。

一美容クリニックのがんモニタリングが国の臨床研究として認められるためには、実務的には大学病院との連携なども含めて煩雑な対応が必要になる可能性が高い。

一方で、被験者となるモニターを集めるにはモニタリングの信用性を高める必要がある。そのため虚偽記載に手を染めた可能性がある。

スローニュースの報道を受けて、臨床研究を所管する厚労省は動いた。

「即時中止」を指示した厚労省

複数の関係者によると、調査に入ったのは、厚労省で臨床研究法を担当する医政局研究開発政策課だ。

品川美容外科の職員らにヒアリングを実施し、がん患者に対するモニタリングが継続されていることを確認した。そのため、同省はモニタリングの即時中止を指示したという。

エクソソーム点滴は未承認の医薬品に当たるため、臨床研究法に基づいて特定臨床研究の届出が必要なケースだったと認定。必要な届出を怠っていたとして、行政指導をした。年度内にも事案を公表する方針という。

さらに今回、品川美容外科側がヒアリングに対し、「過失だった」との趣旨の弁明をしていることもわかった。

厚労省への説明はウソ

関係者によると、「臨床研究計画書を提出している」と患者への説明・同意書に『虚偽記載』にしていたことについて品川美容外科は、2022年2月に「ヒト臍帯由来間葉系肝細胞培養上清の静脈投与による慢性疼痛治療に及ぼす効果の探索的研究」という名目で院内で倫理審査委員会を開き、その後、厚労省の研究倫理審査委員会報告システムに登録していたこと(画像参照)をあげたという。


「この報告システムに登録をしていたので、臨床研究法に基づく届出は別途必要ないと誤解した」という趣旨の弁明をしたという。

しかし、取材したところ、この弁明についても虚偽説明だと断じざるを得ない。

問題の同意書の記載について、「厚労省に臨床研究の届出を実際にしていないのであれば、虚偽記載に当たる」と同院のモニタリング担当職員に対して院内から指摘する声があったことを確認している。

指摘を経ても院側は厚労省に届出をしないままモニタリングを継続させていたことになる。

がん患者への投与を想定した記載も一切ない

さらには、患者への説明・同意書の記載を注意深く読むだけでも、品川美容外科側の主張に無理があることがわかる。

患者への説明・同意書にある「臨床研究計画書を厚生労働省へ提出した」との文言だ。

品川側が主張する研究倫理審査委員会報告システムに登録されている文書の方には、あくまでも「ヒト臍帯由来間葉系肝細胞培養上清の静脈投与による慢性疼痛治療に及ぼす効果の探索的研究」について院内で倫理審査委員会を開いたとの事実報告だけが記されている。

どこにも臨床研究の計画内容などは記載されておらず、つまり、これが「臨床研究計画書」に当たらないことは明らかだ。加えて、慢性疼痛治療というだけで、がん患者への投与を想定した記載も一切ない。

この倫理審査委員会報告だけで、「臨床研究の届出」は不要だと誤解したという主張には明らかな無理がある。

「エクソソーム」規制に厚労省は動き出した

一方、品川美容外科のがんモニタリングで、複数の患者にがん細胞の肥大化が確認されたことについては厚労省は対応を見送る方針であることも新たに判明した。

幹細胞自体であれば、再生医療等安全性確保法(安確法)で取り締まることができるが、幹細胞を培養した過程で出る上澄み液である幹細胞上清液、そして、それに含まれるエクソソームには、現時点で対応できる法律がないためだ。

日本再生医療学会は昨年11月に声明を発し、エクソソーム点滴治療について

「再生医療という名目で、多くのクリニック等で自由診療として行われている現状や、感染症のリスク等を鑑み、製造過程等を含めて、 将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」

「EVs(筆者注:エクソソームを指す)の定義、効能、品質管理に基づいた安心、安全なEVsの治療応用のガイドライン作成は急務であり、その為に、何らかの班研究あるいはワーキング・グループ等を構築し、問題点の精査が必要」

と提言している。

関係者によると、厚労省内では、安確法ではなく、医薬品医療機器等法の枠内でエクソソームについて規制する方向で議論が進んでいるという。

品川美容外科はなぜ危険なエクソソームによるがん治療に前のめりだったのか。内部資料が明かす、その裏側は「【内部資料入手】院内関係者が証言する品川美容外科が「危険なエクソソームがん治療」にのめり込んだ理由」で描きます。

伊藤喜之(いとう・よしゆき)
1984年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、2008年に朝日新聞社に入社。松山総局(愛媛)を振り出しに、大阪社会部、ドバイ支局長などを経て、22年8月末に退職。ドバイ在住で作家活動を始め、今年3月、初の単著『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』(講談社+α新書)を出版。講談社ノンフィクション賞最終候補作に。