【スクープ】話題の「エクソソーム」投与で肺がんが急速肥大 中止勧告後も継続された有名美容クリニックの『極秘治療』
伊藤喜之(ノンフィクション作家)
もしあなたががん患者になったとしたら、どこで治療を望むだろうか。普通なら、がんの専門医がいる医療機関に向かうだろう。では、もし美容クリニックでがん治療を受けられると聞いたらどう思うだろうか。そんなプロジェクトを極秘で進めていた美容クリニックがある。
品川美容外科。1989年に東京港区のJR品川駅の港南口近くに品川本院を開いて以来、現在(2022年6月時点)では全国に39院を展開している有名美容医療グループだ。
しかし、実はこのプロジェクトの過程で不測の事態が発生していたのである。いったい何が起きたのか。
「最先端の再生医療」と謳う『エクソソーム点滴』
品川美容外科の院内関係者が事情を明かす。
「品川美容外科は業界の老舗として、テレビCMなど派手な広告戦略で有名です。しかし近年、美容医療業界の競争が激しくなる中で、客をひきつける売りになる施術が不足していました。
そこで、同グループを率いる綿引一理事長が、ベンチャー企業のバイオミメティックスシンパシーズ(東京都江東区)との取引で導入したのが幹細胞上清液を投与する治療でした」
いったいどんな治療なのか。
「上清液とは幹細胞を培養する過程で出る上澄み液のことです。その上清液に含まれる『エクソソーム』と呼ばれるカプセル状の物質が、アンチエイジングや傷の治療などに効果があると言われています。
いま美容医療業界では『最先端の再生医療』という謳い文句で、幹細胞上清液を投与する『エクソソーム点滴』を扱うクリニックが急激に増えています。品川美容外科もその一つです。
今回驚いたのは、そのエクソソーム点滴をがん治療にも応用しようという話だったのです。バイオミメティックスシンパシーズの漆畑直樹会長に勧められたと聞いています」(同院内関係者)
集められたステージ4のがん患者たち
複数の同院関係者によると、綿引理事長の号令のもとで昨年からがん患者への幹細胞上清液投与のモニタリングが始まった。被験者となったのは病院関係者の親族らで肺がんなどを抱え、すでに進行したステージ4の患者たちだった。
少なくとも4人がモニタリング対象になり、品川美容外科の本拠である品川本院(東京都港区)で点滴投与を受けたという。中には、品川美容外科で働く医療スタッフの母親もいたという。
治療の流れは大きく次のようなものだった。
医師が患者を診察して治療内容の説明、診察、治療適応の可否をカウンセリング
血液検査
点滴投与
検診(外部のがん専門医が担当)
静脈点滴で60ccの場合、必要な時間は30~50分程度とされた。治療期間は、原則として1週間ごとの来院とし、トータル3か月程度だった。適宜、医師の判断で、施術期間や頻度、投与量などは変更可能とし、検診は施術後、2週間おきに受けてもらう決まりとした。治療費はモニタリングであるため無料だった。
70代の肺がん患者に起きた異変
ところが、点滴投与を繰り返し受けた肺がん患者の70代女性に異変が起きた。
投与前と投与後のCTスキャンを比較したところ、わずか1か月でがん細胞が通常では考えられないほどの速さで膨れ上がり、投与前には確認できなかった部位にもがん細胞が増殖している様子が見られたのである。
また、同じく肺がんを患う70代男性もCT上でがんの肥大が確認されたという。
複数の院内関係者によると、今年5月、品川美容外科ががんのモニタリングのため招聘した外部のがん専門医はこの2人のがんの状況について、「増悪」と評価をくだし、品川美容外科側に伝えた。
増悪とは、点滴投与前と後のCT画像や血液検査の結果、明らかにがんの肥大が確認でき、状況が悪化していることを意味している。
無視された「中止すべき」という進言
症状の悪化は外見にも現れた。複数の患者は顔面蒼白や顔のむくみなどの症状が出ており、そのうち1人は「人相が別人のようになるほどパンパンに腫れていた」(院内関係者)という。
品川美容外科の担当者に対し、外部のがん専門医は点滴とがん増悪の因果関係が否定できないなら点滴は中止すべきだとして、投与中の4人すべてのモニタリングについて中止を進言した。その意見は綿引理事長以下、モニタリングに関わる医師やスタッフに共有された。
しかし、品川美容外科側はただちにはそれを聞き入れなかった。