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【重大証言】岡山での飲み水汚染の原因と指摘された企業、「推奨温度より低温で焼却」で大気汚染も拡散のおそれ

岡山県吉備中央町で発生しているPFOA(国際機関が発がん性を指摘する有機フッ素化合物の一種)による深刻な飲み水の汚染。それを引き起こした企業が、実はPFOAを含んだ活性炭を再生する際に、環境省の推奨する温度より低い温度で焼却し、PFOAが分解されないまま大気中に放出されていたおそれがあることが、元従業員など関係者の証言で明らかになった。

フリーランス 諸永裕司


飲み水の汚染源は「使用済み活性炭」

9月5日、吉備中央町が委嘱した飲み水汚染の「原因究明委員会」は、汚染源について、地元で使用済み活性炭の再生を手がける「満栄工業」の「資材置場に置かれていた使用済み活性炭と考えることが妥当である」と結論づけた。

活性炭は、メーカーの工場で製造過程で出る有機化合物を吸着させ、取り除くためなどに使われる。吸着した物質の中に、PFOAも含まれていた。

工場などから持ち込まれたまま野積みにされていた使用済炭のフレコンバックは約580袋。吸着していたPFOAは最大で4,500,000ナノグラム。土壌から地下水、地下水から沢へと流れ込み、水道水源となっていたダムの水を汚染したのだった。

使用済炭入りのフレコンバッグが放置されていた資材置き場

だが、汚染はそれだけにとどまらない可能性があることが、取材で浮かび上がってきた。満栄工業は再生処理に回した使用済炭を焼却する過程で、PFOAを分解しないまま工場外へ拡散していたとみられるからだ。

PFOAを分解するには「1100度」で焼却する必要があったが……

活性炭を再生して利用するには、ロータリーキルンと呼ばれる専用炉で焼却し、その後、熱処理を施し、スクラバーと呼ばれる水処理をすることで活性炭に吸着しているPFOAなどを取り除く。

環境省が設けた「PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」では、分解して無害化するための燃焼温度はPFOSで850度、PFOAは1100度が推奨されている。

元従業員のひとりは、同社には炉が2基あり、燃焼温度は「850度」で、「24時間2交替制でフル稼働させてきた」と証言する。つまり、持ち込まれた使用済炭にPFOAが含まれていれば分解されないまま放出され、工場周辺に大気汚染が拡散していたと考えられる。

満栄工業の処理工場

ただし、この「技術的留意事項」にPFOAが盛り込まれたのは2022年で、法的拘束力はない。

懸念されるのは、満栄工業の再生炉で作業に従事していた作業員の健康だ。元従業員によると、防塵マスクの装着が推奨されていたというものの、PFOAが含まれた空気を吸い込んでいた可能性もある。

周辺からは、「現場作業をして2年あまりでがんで亡くなった女性がいる」といった情報も聞こえてくる。ただ、周辺に大気拡散による影響があったかどうかは調査されていない。

満栄工業取締役の前田健吾氏は「持ち込まれた使用済炭にPFOAが含まれていたとは認識していなかった」と答えた。

「有害な物質と知っていたら引き受けない」

満栄工業は汚染発覚後の昨年11月、吉備中央町による調査に対して、「(使用済み活性炭は)メーカーから預かったものなので、内容の確認もメーカーで行ったのち、引き受けている」と答えている。

つまり、仲介する活性炭メーカーが排出元の工場などにPFOA含有の有無を確認しており、汚染物質を引き受けたとの認識はない、というのだ。別の関係者も「そもそもPFOAという有害な物質については知らされていなかった。知っていたら引き受けないのではないか」と話す。

吉備中央町が作成した「協議録」(2023年11月9日)には、満栄工業側の説明が記録されている

活性炭事業者による業界団体「日本無機薬品協会」の活性炭部会が作成した「活性炭の再生ガイドライン」は、

<再生用原料を引き取った活性炭メーカーが再生業務をするにあたって注意すべき重要なことは、安全かつ2次汚染の原因にしない事です>

と強調している。

このため、活性炭を使用する企業に対して、有害な物質を含んでいないかを事前に調査する。ただし、受け入れ基準は活性炭メーカーによって異なる。

満栄工業と取引している活性炭メーカーはどう答えるのか。

では汚染された活性炭はどこから持ち込まれたのか

業界団体の活性炭部会で部会長を務める大阪ガスケミカルは、満栄工業とは古くから取引があり、活性炭の加工製造や再生を委託している。PFOAについては「2011年に(排出企業からの)受け入れ可否を判断するための基準を設定し、過去にPFOAを含有していると確認された実績はない」と答えた。

もう1社、活性炭大手のクラレによると、満栄工業への再生委託は2004年ごろにはじまり、2010年ごろから拡大した。ただし、再生を前提としているため、使用済炭を野積みにして放置しておくような「長期在庫は発生しません」という。

満栄工業の再生炉の燃焼温度については、大阪ガスケミカルが「把握していないため回答致しかねる」。クラレは「運転管理は満栄工業が行っている」とし、同社は環境省が2年前に示した技術的留意事項も考慮に入れ、安全なPFAS処理方法について研究開発を推進している、と答えた。

使用済炭は、2社を通じてさまざまな工場や浄水場などから満栄工業に持ち込まれてきた。野積みされたフレコンバックの多くからPFOAだけがきわめて高濃度で検出されたことから考えると、持ち込んだのは、PFOAを製造・使用していた工場の可能性が高い。

ある関係者は企業名を口にした。「ダイキンと聞いています」と。
空調メーカーとして知られるダイキン工業の淀川製作所(大阪府摂津市)では、1960年代後半からPFOAを製造・使用してきた。満栄工業との取り引きはあるのか。同社の回答は次のようなものだった。

「活性炭によるPFOA除去には2004年から取り組み、PFOAの使用をやめた2012年以降も続けているが、使用済み活性炭は専門の処理業者を通じてすべて焼却処理されていると認識している。2年前からはPFOAが分解される方法で焼却処理されていることを確認している」

専門の処理業者とはどこなのか、ダイキン工業は明かさなかったが、「分解される方法ですべて焼却処理」ならば、満栄工業による汚染とは関係ない、ということになる。

吉備中央町に汚染をもたらした使用済炭の排出元について、満栄工業は「取引先については守秘義務があるので、現時点での回答を控えさせてください」と答えた。

工場裏の地下水からも高濃度を検出

ところで、同社が、活性炭再生炉のある工場から約3キロ離れた山中に資材置き場を借りたのは2007年9月のことだ。

関係者によると、それ以前は、工場わきの空き地に、使用済炭を詰めたフレコンバックを置いていた。現在は舗装されているが、当時は砕石を敷いただけだったという。今年8月の町の調査では、このすぐ裏の地下水から410ナノグラムのPFOAが検出されている。

満栄工業の工場敷地わきの旧置き場は舗装され、いまもフレコンバッグが置かれている
満栄工業の工場裏の地下水から高濃度のPFOAが検出されている

山中の資材置き場だけでなく、工場わきの旧置き場からも水質汚染を引き起こした可能性がある。

町は現在、水道水汚染をめぐる対策費用など2億円とも言われる賠償を満栄工業に求めているが、今後、土壌浄化や町が実施する血液検査などの費用も加えると、数億円にのぼると見られる。

PFOS・PFOAについては2000年代初めに有害性が指摘され、大手化学メーカー8社が協定を結んで「2015年までの全廃」に合意したのは2006年。にもかかわらず、国内の規制は遅れ、PFOAの製造・使用が禁止されたのは2021年になってからだった。いまだに排出基準もない。

汚染源の特定についての責任をもつとされる岡山県が環境省との間でかわした「廃棄物処理法等に係る疑義照会フォーマット」は開示されたものの、大半が黒塗りされており、協議の中身はわからない。飲み水に限らず土壌、大気、地下水まで、PFASを吸着した使用済み活性炭が招いた多重汚染の実態は解明されていない。

岡山県と環境省がかわした記録

とくに、焦点となるのは、そもそもの原因となった使用済炭がどこから持ち込まれたのかだ。吉備中央町の設けた原因究明委員会には、環境省中国四国地方環境事務所の横山貴志子・環境対策課長も加わっているが、汚染の根本原因の解明に迫ろうとする議論は行われなかった。委員会は報告書で「汚染された土壌の除去およびコンクリート等による被覆」を提言し、役割を終えている。

「円城浄水場PFAS問題有志の会」代表の小倉博司さんはこう話す。

「満栄工業がずさんな管理の責任から逃れることはできないが、原因となる使用済炭はどこからもたらされたのか、“汚染の輸出ルート”を明らかにしてほしい。廃棄物処理の川下にあたる満栄工業だけに責任を押し付けるのではなく、川上にある企業や活性炭業界も責任を分担すべきではないか。資金を出し合って基金を設け、住民や従業員の長期にわたる健康調査に充てるなど、規制の空白をつくった国がイニシアチブをとって、汚染対策のモデルケースをつくってほしい」

岡山・吉備中央町での水質汚染の異常値は、当初、公表されてきませんでした。それは「隠蔽」されたのか、 スローニュースでは疑惑の関係者を直撃する記事も配信しています。


諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。スローニュースで『諸永裕司のPFASウオッチ』を毎週連載中。(https://slownews.com/m/mf238c15a2f9e
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com