【スクープ】広島県警に送られた「カラ出張」の告発メール、その内容とは
取材・執筆 フロントラインプレス
広島県福山市内にある警察署の警備課でカラ出張が繰り返されていた疑いが浮上している。2019〜2020年にかけてのことだ。調査報道グループ「フロントラインプレス」はこの疑惑について計4本の記事でその経緯や不正の手口などを報じてきた。
上席の指示で「カラ」を続けた警察官の1人(巡査部長)はその後、2022年3月になって広島県警本部に公益通報(内部告発)した。ところが、県警本部は法令に定められた受理の通知も出さず、“告発”はごく最近まで放置されたままだった。
「組織の指示があったとはいえ、私自身は不正に手を染めた人間。決して褒められたものではない」という巡査部長。彼が発出した公益通報とは、どんな内容だったのか。
広島県警の監察官に送られた告発メールの内容とは
巡査部長は繰り返されるカラ出張の指示に疑問を感じ、最初は警備課内で意見していた。ところが、上席らは全く取り合わない。広島県警本部に匿名の投書があった際も、「監察はどうにでもなる」「誰にも話さなければ絶対にバレない」などと言い募り、箝口令を敷いていた。
そうした日々が積み重なった末の2022年3月、巡査部長は直接、県警本部に一連の出来事を伝えることにした。当時の心境を巡査部長はこう振り返る。
「最初は署内での自浄作用に期待しておったんですが、それは無理だと悟りました。警察は間違ったことをしたら、いけん(ダメだ)。警察官は不正をしたら、いけん。そんなの、子どもでも分かることでしょ? なのに、いけんことをしよる、いけんことして露見しそうになったら全力で隠蔽しようとしよる。一方で、私自身は悪いことをやってしまった人間です。上からの指示だったとはいえ、犯罪に手を染めた。その狭間で私は苦しみ、気持ちも限界でした」
巡査部長はまず、3月中旬に辞表を提出し、自ら退路を経った。その後、県警本部の人事部門から退職理由を尋ねる電話があり、おおまかに「自分はやってはいけないことをやった」などと説明。さらに3月30日には自ら監察官に電話し、上席の指示により警備課内でカラ出張を繰り返されていた事実を明かした。その際、巡査部長は「多くの捜査員は懲戒を恐れて口を開かないだろう」と伝えたという。
そのうえで、巡査部長は退職当日の3月31日、監察官の要求に応じて一連の経過を書類にまとめて提出した。同時に県警本部に以下のようなメールを送った(丸かっこ内は筆者)。
警察の協力者と接触する警備課員の捜査において、カラ出張を強いられたのは、接触を確認する役割を負った捜査員たちである。それらの“確認役”だけでなく、“接触役”の捜査員もカラ出張だったのではないか、と巡査部長は内部告発しているのだ。
広島県警はどのように答えたのか
告発文はさらに続く。
巡査部長はこのメールの末尾に、本件については公益通報として扱ってほしいと明記し、厳正な措置を待った。警察の監察は、警察官の不正や非行を把握し、関係法令に抵触する事実があれば、厳正に対処する責務を負っている。しかし、監察はなかなか動かず、公益通報のメールを受領したという巡査部長への連絡も、“失念していた”として今年2月まで1年近くも行わなかった。
巡査部長はフロントラインプレスの取材に対し、「内部通報を行なってから相当時間が過ぎた。大きく報じられる前に監察には適切な対応をしていただきたかった。県警は今後、内部告発が適切に扱われる環境をつくってほしい」と話している。
フロントラインプレスはこの公益通報に関し、広島県警に以下の2点を尋ねた。
福山市内の警察署の警備課に勤務していた巡査部長が、広島県警監察官室に「公益通報」を行ったとされています。公益通報は事実ですか。
公益通報があったとしたら、どれはどのように扱われましたか。
これに対し、県警は文書で「個別の通報事実の有無については、関係者のプライバシー保護の観点や、捜査等、警察業務に支障が生じる虞が認められるため、お答えできない」(広報課)と回答した。
監察官室に公益通報(内部告発)した巡査部長。カラ出張の当事者であり、県警に事実を伝える行為は犯罪の申告「自首」に等しい。ところが、監察の調査や犯罪の捜査は遅々として進まず、事実上、放置状態だった。その後、県警の監察官と元巡査部長との間でどのようなやりとりがあったのか。現在スローニュースで公開中の『広島県警に無視された外部からの「通報」 放置された「自首」』では、その詳しい内容を伝えている。