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医療や健康をめぐる問題

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美容外科による極秘のがん治療の問題など、独自の取材による記事をはじめ、医療や健康をめぐる報道をまとめています。(睡眠時無呼吸症候群の医療器具CPAPをめぐる問題は別のマガジンにま…
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#調査報道

「動物の檻のような何もない隔離室での2年が、息子を死に至らしめたのではないか」両親が明石市の精神科病院を提訴

フリーライター 中部剛士 兵庫県明石市の精神科病院「明石土山病院」で約2年にわたり、わずか3畳ほどの「隔離室」での生活を強いられた初田竹重さん(当時50歳)。朝食のパンをのどに詰まらせて窒息死したが、病院は朝食の後片付けをしたのに気づかず、約2時間半後に死亡しているのを発見した。 竹重さんの死亡の責任を病院側に問い、両親が26日午後、神戸地方裁判所に訴えを起こした。代理人の弁護士とともに神戸市内で記者会見を開いた両親は、竹重さんへの思いを語り、精神科病院の患者隔離の在り方

「まるで動物園の檻」精神科病院の隔離室の映像を入手。のどを詰まらせた男性が気づかれることなく亡くなった経緯が明らかに

日本の精神科病院では隔離・身体拘束の措置が頻繁に取られている。患者が亡くなる事例は後を絶たず、兵庫県明石市の精神科病院「明石土山病院」でも悲劇が起きてしまった。 約2年にわたって隔離室生活を強いられてきた初田竹重さん(当時50歳)は、朝食のパンをのどに詰まらせて死亡。その5日前、両親に電話をかけ「このままでは足が立たなくなる」と漏らし、50歳の若さで嚥下機能が低下していた可能性が浮上している。 今回、関係者から隔離室の映像を独自に入手した。わずか3畳ほどの部屋には寝具と洋

わずか3畳の部屋に2年も隔離された男性は、パンを詰まらせて亡くなっているのを発見された…両親が明石市の病院を提訴へ。改めて問われる精神医療

フリーライター 中部剛士 患者への「虐待」とされるケースも相次ぎ、いま改めて精神科「医療」の在り方が問われている。そんな中、新たな問題が浮上した。 兵庫県明石市の精神科病院「明石土山病院」で、約2年にわたって「隔離室」での生活を強いられた男性が、朝食のパンをのどに詰まらせて窒息死した。病院は朝食の後片付けをしたのに、男性がパンを詰まらせて苦しんでいることに気づかず、約2時間半後に死亡しているのを発見した。 男性の両親は、「長期間の隔離や向精神薬物療法で咀嚼・嚥下機能が低

紅麹で注目「機能性表示食品」問題の背景にあった「根拠論文を掲載した医療専門誌」の危うさを表面化させたデータ報道

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 機能性表示食品、「根拠」に社員の論文のケース 「紅麴」サプリも小林製薬の「紅麹」製品、問題になっていますよね。 こうした「機能性表示食品」は、国の審査は必要なく、企業側が効果の根拠を示して届け出ることで販売されます。 今回の事態を受けて、日経ビジネスは

承認された東大医科研のG47Δ     その治験は有効性を証明してなかった!

「画期的ながん治療」とメディアで持ち上げられる東大医科学研究所のG47Δ(デルタ)は、実はその治験で有効性を証明していないと規制当局に判断されていた。6月17日に発売になった『がん征服』は、その衝撃の事実のみならず、なぜそれではそうした薬剤が承認されたか、という疑問から、法改正の裏側まで詳らかにしている。ノンフィクション作家の下山進が書く『がん征服』執筆の作法、その最終回。 ノンフィクション作家 下山進 審査報告書の記載に衝撃<GD01試験の試験デザイン、閾値の設定等には

大阪の医療を支える大病院を襲った攻撃、目の前の患者が誰なのかもわからなくなり…48時間の物語

横溢するニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、実験的な発信を試みたコンテンツをおすすめしています。 きょうのおすすめはこちら。 記憶喪失になった病院ある日、突然のサイバー攻撃。1日1200人近い外来患者が訪れる大阪急性期・総合医療センターは機能不全に陥りました。 何が起きているのかさえ分からない状況。そして襲撃者からの犯行声明。患者のデータに全くアクセスできない事態のなか

悲劇の科学者 ラエ・リン・バーク 後編

取材・執筆:下山進  リサ・マッコンローグは、ラエ・リンの口からその病気のことを告げられた。  ラエ・リンは、まず職場の上長にそのことを報告している。  すると上長は、「残念だが退職してほしい」。だが、すぐにではない。ラエ・リンが申請してすでに支給されていた研究費のプロジェクトが続いている間は、在職してほしい。しかし、研究所の中では、病気のことを言ってはいけない。そう言われた。  ラエ・リンがアルツハイマー病だとわかると、グラントの支給が打ち切られることもありうるとい

悲劇の科学者 ラエ・リン・バーク 前編

取材・執筆:下山進  財前五郎は、「癌の専門医が自分の病状の真実を知らないでいるのはあまりにも酷だ」と内科医里見脩二に訴え、その病名を知る。ラエ・リン・バークの場合、最初に気がついたのは彼女自身だった。  科学者であるラエ・リンは通勤のドライブの最中いつも簡単な数学の問題を頭の中で解くことを趣味としていた。ハンドルを握りながら、簡単な掛け算をくりかえす。そうすると心が落ち着いてくる。  ところが、その日はごく簡単な計算ができないのだった。勤め先のSRIインターナショナル

「アクリル板とコロナ」~極私的コロナ考察

取材・執筆:市川衛  コロナ感染拡大から2年と半年余り、それまでと違った光景を見慣れるようになった。  飲食店のテーブルとテーブルの間や、食卓の上などに設置された「アクリル板」だ。  正直、客の立場からすると煩わしく感じることもある。お皿を置くときに邪魔だし、醤油やお箸が板の反対側にあるときは、店員に手渡しを願わなければならないこともある。ランチ相手の声が聞き取りにくく、余り会話が盛り上がらない、なんてことも増えた。  そういえば飲食店にとどまらず、アクリル板はどこで

がん新薬誕生 最終回 世界のどこかで誰かが

取材・執筆:下山進  免疫細胞ががんを攻撃することは知られていた。だから、以前の免疫療法というのは、免疫自体の力を強めようとした。  たとえば患者の骨髄からリンパ球をとってきて、免疫細胞を刺激して活性化させ、それをもとに戻す。そうすると熱がでる。つまり免疫が働いている。しかし、こうした方法では大規模治験をしても、結果はでなかった。  ノーベル賞を受賞することになる京都大学の本庶佑の研究が画期的だったのは、がん細胞が免疫細胞を回避しているメカニズムを探ったことにあった。が

がん新薬誕生 第4回 甲状腺がん治験第三相

取材・執筆:下山進  甲状腺はヨウ素をとりこみ甲状腺ホルモンとして分泌する器官だ。だからそこが「がん」におかされたときには、ヨウ素131を飲む治療が行われる。ヨウ素131は、半減期が7日で、その際に微弱な放射線を出す。この放射線を使ってがんを叩くというわけだ。だから、この治療をうける患者は、アイソトープ室という鉛の壁で覆われた放射能を外に出さない病室で、3、4日過ごす必要がある。  パリ南大学の難治性甲状腺がん関連センターの医者マルティン・シュルンベルジェにとっても、第一

がん新薬誕生 第3回 化合物選択

取材・執筆:下山進  プロジェクト名をHOPEと名づけた2000年4月の段階で、すでに化合物は絞られつつあった。  船橋泰博はプロジェクトリーダーであったが、最終的な化合物選択は、合成のチーム長であった鶴岡明彦にまかせることになる。  というのは、翌年の9月に船橋はコロンビア大学の産婦人科に留学することになっていたのだ。船橋は、ここで、新しい作用機序の薬をつくるつもりだったが、船橋のもとで働いている研究所の所員が、どうしても労働過重になってしまうことから、船橋を筑波の研究所

がん新薬誕生 第2回 薬をつくることを諦めないでください

取材・執筆:下山進  合成化学者の仕事は、テーマが決まると、まず論文を読むことから始まる。血管新生阻害剤の場合は、理論を提唱したフォークマンの1971年の論文から始まり、健常細胞に血管をつくらせるファクターXのうちのひとつを最初に特定したナポレオーネ・フェラーラとウイリアム・ヘンゼルの論文。さらに、この理論にもとづいて創薬にとりくむ他社が、特許を取得した化合物についての書類一式を、知的財産部からとりよせる。  一年から一年半、エーザイの筑波研究所にある図書室に通って、日が

がん新薬誕生 第1回 万に一つの可能性にかける

取材・執筆:下山進  化学式のなかに、美しさがあるのだ。  これまでに存在していなかった分子式の物質を化合する。それが合成化学者の仕事だ。  1990年に千葉大学大学院薬学研究科からエーザイに入社した鶴岡明彦(つるおか・あきひこ)は、現在グローバルで年間1923億円、エーザイの全売上の4分の1を占めるがんの薬「レンビマ」の化学式を見るたびに美しいと思う。  ヒットする薬の化学式は抗アルツハイマー病薬のアリセプトにしても、レンビマにしても、シンプルで美しい。  鶴岡の