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被害を伝えるのに有効な可視化の方法とは。そして記録を残すことも重要【能登半島地震コンテンツ⑥】

スローニュース 熊田安伸

元日に発生した「令和6年能登半島地震」に関するコンテンツ。「サービス・ジャーナリズム」「公共性」「可視化」などの観点から、メディアなどの発信で注目したものを、これまで5回にわたって取り上げました。

今回は「サービス・ジャーナリズム」とは言えないものの、被害を可視化することによって被災地だけでなく多くの人に被災地の実情を理解してもらおうと取り組んでいるコンテンツを取り上げ、効果と課題を探りました。

どこでどんな被害が起きているか、地図に動画を連動させて表現したNHK

Yahoo!の「災害マップ」に続いて、NHKが「災害情報マップ」を発信したことは3回目のリポートで伝えましたが、NHKのサイトにさらなる展開が見られました。

支援情報に加えて、発災時の様子の動画を地図と連動させ、アイコンをクリックすることで動画と状況を説明したテキストを見られるように改修したようです。

支援情報と一体化してしまうと情報がまぎれてしまうので、下部の大きなボタンでどちらを表示するか、選択できるようになっています。

NHKの災害情報マップより

これはむしろ、被災地以外の人が見てどんな災害だったかをつかむのにもイメージしやすいですし、この災害の記録を残しておくという意味でも、意義のある発信ですね。

思い切って一気に作りを変えてしまった朝日新聞

同じような趣旨で、朝日新聞が「能登半島地震 写真が伝える被災地」というコンテンツを発信していました。

画面を開いたら、おもわず「うわっ!」と声が出てしまいました。画面全体に赤い丸が広がります。

朝日新聞の「能登半島地震 写真が伝える被災地」より

この赤い丸、震源を示しているんですね。確かに凄い地震だったことはわかりますが、これだけたくさん表示されてしまうと、ここがひどいからここを見よう、という感じにはなりません。それを制作者も感じていたのか、表示するかどうかを切り替えるボタンがあります。

そこで非表示にすると……まだ掲載している写真の数が少ないので、ちょっと寂しい画面になりますね。これから充実していくのだと思います。

……と、この記事をいったん書き終えて、出そうとしたところ、なんと上記のサイトをほぼ全面改修して、「能登半島地震 浮かび上がる被害」という新たなタイトルで発信し直してきたようです。

今回は写真は地図と紐づけられておらず、とにかくたくさん並んで表示されます。もちろん、震源の表示もありません。

朝日新聞の「能登半島地震 浮かび上がる被害」より

左上の大きなボタンで、写真の一覧から「被害マップ」に切り替えられます。こちらにはそれぞれの市町村での被害のデータが表示されます。

朝日新聞の「能登半島地震 浮かび上がる被害」より

これは興味深い。朝日新聞の社内でどんな議論があって、全面改修に至ったのでしょうか。写真の掲示の仕方を見ると、とにかく記録を残すことを重視したようにも見えます。

一方で被害マップのほうは、単純に被害の記録だけでなく、交通情報なども載せており、誰に、どこにスコープしたのでしょうか。もしかしたら、まだ何を載せるのが最適なのか、試行錯誤しているのでしょうか。ぜひ中の人に聞いてみたいです。(この記事を読んでいたら連絡ください)

とにかくシンプルな方向に振ってみた?時事通信

思い切って地図に写真をそのまま張ってしまったのが時事通信です。とにかくシンプル・イズ・ベスト、ということなのでしょうか。

時事通信「空から見た被害状況」より

ただ、こちらは朝日新聞と逆に、今後、写真が増えていってしまうと、重なって見にくくなってしまうかもしれませんね。地図を全画面表示にできたりすとと、少し使いやすくなるかも。

被害だけでなく、復旧の動きも記録しようという読売新聞のコンテンツ

発災直後にすばやく「令和6年能登半島地震 被害状況マップ」を発信して話題になった読売新聞。ArcGISという地図製作アプリを使った挑戦的な取り組みが評価されましたが、特にPCでの使い勝手では賛否がありました。(その後、「平面版」というものも発信していました)

そして今回も、ArcGISで「令和6年能登半島地震 復興支援の歩みマップ」を発信しています。

被害だけでなく、その時々の被災地の活動を記録していくということはとても意味のある取り組みだと思います。

ただこれも、場所から選ぶ構造にはなっていないので、「なんとなく見る」インターフェースになっていて、前回のコンテンツと同じような課題を感じました。タイトルに「歩み」とあるので、今後、時系列で「歩み」を検証できるコンテンツに発展していくのでしょうか。期待しています。

地理情報を生かした2つのコンテンツ

まずは産経新聞社の西山諒さんが発信したこちらのコンテンツ、大規模な隆起が発生した輪島市の門前町黒島町を、国土地理位ののデータをもとに3Dで表現。インタラクティブな表現でぐりぐり動かせるので、思わず触ってしまいます。

そのほかにも地殻変動の分布を地図で可視化していたほか、陸化したとされるエリアを国勢調査のデータをもとに分析して、黒島地区の面積が増えていることを明らかにしています。

一方、隆起した範囲と、津波で浸水した場所をシンプルに見せたのが時事通信です。時事通信さん、やはりシンプル・イズ・ベストということでしょうか。

時事通信「隆起した海岸と津波浸水範囲」より

このマップ、Flourishというツールで作られています。署名はありませんが、時事通信でFlourish使いといえばあの人かなあ……たぶんそうなんだろうなあ。

いずれも記録を残す、という意味もあるコンテンツだと思います。

「ふーん、面白いね」と言われないように

いずれも制作サイドからすれば、頑張って作ったコンテンツだったと思います。ただ、力を入れて公開しても、読者の反応が「ふーん、面白いね」で終わってしまう「ふーん、面白いね問題」に陥ってしまわないよう、何のため、誰のために発信するのか、スコープの設定をしっかりしておくことが重要なのではないかと思っています。

とはいえ、「報道は歴史の第一稿」。今回ご紹介したコンテンツは、この震災を後世に伝えていくためにも重要な記録になっていると思います。

スローニュースでは、被災地で取材するジャーナリストに役立つ『災害前線報道ハンドブック』を連載しています。発災時にまず何を取材するべきか、記者の配置はどうするのか、避難所や仮設住宅での着目点は、防災計画などの検証は。こうしたテクニックを実例をもとに連載しています。

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