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「正当防衛を裏付ける証拠」の写真データはなぜ消えたのか? 宮崎県警『SDカード改ざん疑惑』の核心部分

取材・執筆:フロントラインプレス

殺人事件の証拠写真データを宮崎県警が改ざんしていたとされる疑惑は、いったい、どんな中身だったのだろうか。被告・弁護側は、当時の宮崎北警察署らを証拠隠滅罪で東京地検に告訴する(※1)が、それを前に“改ざん疑惑”の全容をお届けする。

調査報道グループ「フロントラインプレス」は1年前の2022年秋からこの問題を取材してきた。被告の弁護人は「告訴後に記者会見する。それまでは話せない」としているが、独自の取材により疑惑のほぼ全容を把握している。また、今年春からは熊本日日新聞とも協力関係を築き、より深い取材を進めている。


「正当防衛を裏付ける証拠となるはず」の写真データが

殺人事件は2020年11月の深夜、宮崎市のJR佐土原駅前で起きた。

宮崎市のJR佐土原駅前で、自営業の男性(47)=当時=が刃渡り25センチの包丁で腹部を刺され、死亡した。宮崎北警察署は、被害者男性の近くに住む久常芳治被告(49)を逮捕。その後、宮崎地検は殺人罪と銃刀法違反罪で久常被告を宮崎地裁に起訴した。2人は友人同士で幼少時から親しい関係だったという。

問題となっている写真データは、宮崎地裁の公判前整理手続において検察側が開示したものだ。

被告・弁護側は公判前整理手続の中で、「久常被告は旧知の被害者男性から突然、ナタで襲われた。それを防ごうと、とっさにポケットから包丁を取り出して被害者男性の方に差し向けたところ、運悪く男性の腹部に突き刺さった」と主張している。

現場には凶器となった包丁だけでなく、被害者男性が所持していたナタも落ちており、警察が証拠品として押収済みだ。

JR佐土原駅前

本当に被害者男性が先にナタで襲いかかってきたのであれば、「急迫不正の侵害」から自己の身を守るための行為、すなわち刑法36条に規定された正当防衛が成立する可能性がある。

そのため、被告・弁護側は「久常被告の行為は正当防衛に該当する」として殺意を否認し、無罪主張をしている。被害者男性は当時、手袋をしておらず、素手でナタを握っていたとみられるという。

そうであれば、ナタには被害者男性の指紋が残っていたはずだった。鑑識の常道に則って、宮崎北警察署も証拠品を鑑定し、写真も撮影して記録に残している。

このため、被告・弁護側は「ナタを鑑定した際の写真を検察側に開示させれば、ナタの柄には被害者男性の指紋が付着しているはず。それは正当防衛を裏付ける有力な証拠になる」と考えたようだ。

なぜデータそのものを開示しようとしないのか

ところが、公判前整理手続で開示された「捜査報告書」には、ナタの不鮮明な写真が添付されているだけだった。このため、被告・弁護側は証拠写真のデータそのもの(SDカードの原本)を開示するようを求めた。

そこから事態は思わぬ方向に展開していくことになる。

被告・弁護側の求めに対し、宮崎地検の検察官は2021年10月、検察から宮崎北警察署に出した捜査事項照会(※2)の結果として、「写真のデータは開示できない。その代わり、プリントした写真を提供する」と回答。プリント写真53枚を開示した。そのことで、被告・弁護側の疑念はいっそう膨らむ。

なぜ、宮崎県警はわざわざ、プリントした写真を出すのか? なぜ、写真データの開示を拒むのか?

宮崎北警察署

警察の鑑識部門が証拠物を鑑定する際には、鑑定の様子そのものを記録として動画や写真に残す。そこで被告・弁護側は、ナタの指紋採取の際に撮影された動画や写真、音声記録のすべてを開示するように求めた。「捜査報告書」で使用していないものも含め、とにかく、ナタに関して収集した証拠をすべて出してください、と求めたのである。

この要求に対し、検察側は同年12月、「宮崎北警察署から提供を受けたものだ」として、DVDに格納されたデータ群を開示した。その際、捜査事項照会に対する宮崎北警察署の回答だとして、検察官は「このDVDの写真データがナタの指紋採取に際して撮影された写真のすべてである」旨を説明したという。

これですべて。ほかの証拠写真はない。
検察にそう明言した宮崎北警察署。
その説明を疑わず、公判前整理手続の場で繰り返した検察官。

しかし、これで事態は終わらなかった。それどころか、「写真データ」をめぐる疑惑はさらに深まり、データ解析やデジタル写真に詳しい専門家らが“改ざんの疑い”を浮き彫りにしていくことになる。

現在スローニュースで配信中の『「撮れるはずのない写真がなぜ」 解析で浮上した宮崎県警『証拠のSDカード改ざん疑惑』これだけの不審点』では、警察が証拠として出してきた画像ファイルを詳しく調べた結果について詳細に説明している。データを解析すると、「起こり得ないこと」が次々と浮かびあがった。

※1:東京地検への告訴状提出は当初、10月31日の予定だったが、弁護人が高熱を出すなど体調を崩したため、11月初旬に延期された。
※2:捜査機関が捜査に必要な書類などを公的機関や民間企業などに求める手続き。刑事訴訟法に基づくが、令状のような強制力はない。




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