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横田基地からPFOSを含んだ大量の汚染水が多摩川へ!外部漏出を初めて認めた米軍の意図とは?

日米地位協定の改定を掲げた石破首相

衆議院選挙が15日に始まった。争点の裏金問題とは関係ないが、自民党総裁でもある石破茂首相は「日米地位協定の改定」を掲げている。

2004年に米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落したとき、石破首相は防衛相だった。日本の警察が現場に入れず、事故機を米軍が回収するという事態に、「これでも日本は主権国家か」との苦い思いが刻まれたという。

地位協定の歪(いびつ)さは、米軍基地によるPFAS汚染をめぐっても再三、指摘されてきた。その改定を首相が公の場で宣言したのはおそらく初めてだろう。

10月12日に日本記者クラブで行われた7党党首討論会でも石破首相は「必ず実現したい」と述べた(日本記者クラブのYouTubeより)

横田基地からのPFOS漏出を米軍が初めて認めた

10月3日、防衛省北関東防衛局から東京都に電話が入った。米軍から以下のような情報がもたらされたという。

<8月30日、短時間に降った豪雨により、横田基地の消火訓練エリアから泡消火薬剤の残留が(ママ)含む約12,640ガロンの水がおそらくアスファルト上にあふれ出し、数量不明の分量の水が地上から雨水排水溝に流入し、施設外へ出た蓋然性が高い>

米軍・横田基地からPFOS(発がん性が指摘されるPFASの一種)を含んだ大量の水が漏れ出たというのだ。漏出した水量は約12,640ガロン、じつに約48トンにのぼる。福生市などによると、雨水溝から基地外へ流れ出た大量の汚染水は、下水管を通って多摩川に流れ出たとみられる。

横田基地外へのPFAS漏出を米軍が認めたのは初めてだ。

漏出元となった消火訓練エリアについて、米軍は「貯水池及び火災訓練用機材そのものを含む」と説明したという。これが何を指すのか、東京都は防衛省に確認していない。

ただ、消火訓練エリアの航空写真を見ると、貯水池は、模擬機体が真ん中に置かれた訓練場のわきにある。火災訓練用機材とは、貯水池から水を汲み上げたり、訓練に使われた水を集まる揚水ポンプを指しているとみられる。

米軍・横田基地にある円形の消火訓練場と、その上に緑色の四角い貯水池がみえる(©Google)

つまり、豪雨によって、貯水池にたまっていた水とそれを汲み上げるポンプから大量の汚染水が溢れ出たということになるのだろう。

米軍は「PFOSを含む消火剤は使っていない」としながら使っていた可能性が浮上

しかし、米軍の情報をそのまま鵜呑みにしてよいのだろうか。いくつかの疑問が浮かぶ。

まず、基地外へ流れ出た水にPFOSが含まれていたという点だ。

米軍は「2016年以降、基地の消火訓練でPFOSを含む泡消火剤は使っていない」と説明してきた。

「在日米軍施設における泡消火薬剤交換に関する声明」には、米国国防権限法により2024年10月1日付で、泡消火薬剤の使用を禁止する旨が記されている

だが、関係者によると「消火訓練で使った水はPFOSが含まれているので外部に流せないため、ポンプなどで回収して貯水池に戻していた」という。貯水池は消火訓練用の水源調整池というだけでなく、排水調整池でもあったのだ。

つまり、米軍はPFOSを含んだ泡消火剤はもう使っていないとしながら、実際には、PFOSを含んだ水で消火訓練を行っていたことになる。

米軍の情報では「おそらくアスファルト上にあふれ出し」とあるが、貯水池は芝生で囲まれており、訓練場のアスファルトに達する前に地面に染み込んだことに疑いはない。今後、その下に流れる地下水を汚染するとみられる。

「意図的な廃棄ではないか」との指摘も

二つ目の疑問は、「豪雨により」としている点だ。

たしかに台風10号の影響で東京でも激しい雨が降ったとはいえ、関東地方に上陸したわけではない。PFOSを含む泡消火剤の使用をやめたとする2016年以降、あるいは日本が水質管理の目標値を設けて基地汚染への関心が高まった2020年以降、これ以上の豪雨が降ったことはなかっただろうか。

なぜ、今回の豪雨によって、横田基地外への漏出が初めて起きたのだろう。

米軍はこれまで、横田基地が汚染源であることを頑なに否定してきた。基地内に保管してあった泡消火剤の原液3千リットルが気がついたら地中に消えていた、とする2010年の漏出事故についても、「基地外へ流出したとは考えていない」と強弁した。周辺にある東京都のモニタリング井戸で高濃度のPFOSが検出され続けていたにもかかわず、だ。

それがなぜ、今回はみずから漏出を認めたのか。考えられるのは、PFOSに汚染した排水の処理をめぐる問題だ。

横田基地の消火訓練場(撮影:諸永裕司)

3年前の夏、沖縄の普天間基地の排水の処理をめぐり、日米当局が協議している最中、米軍は「独自の方法で処理した」として突然、64トン(ドラム缶320本分)の排水を下水道に放出した。米軍は「日本には排出基準はないから問題ない」と一方的に踏み切ったのだ。

直後に宜野湾市が下水を調べたところ、国の指針値の13.4倍にあたる670ナノグラムのPFOSなどが検出された。

このとき、米軍は「廃棄にはカネがかかる」と言い、下水に放流したのは経済的負担が理由だった、と明かしている。

さらに続きがある。普天間基地の水槽にはPFOSに汚染された排水がまだ残っていた。米側が引き続き下水に流せば、汚染は海に広がってしまう。交渉の結果、日本側が引き取って焼却処分することになった。その費用9200万円を負担したのは防衛省だった。

米軍の内部事情に詳しい関係者は「横田基地内では以前から、PFOS廃水の処分コストが高すぎる、という話が出ていた」と明かす。情報を閉ざす傾向の強い米軍が、漏出した水量を約12,640ガロンと具体的に明かしているのも珍しい。「豪雨による大量漏出」ではなく、意図的な廃棄の疑いがあるのではないか、というのだ。

「米軍は国内外のすべての基地で、PFOSなどを含んだ泡消火剤の廃止を求めています。完了を求められる期限が今年の9月末でした。その直前に、消火薬剤だけでなく、汚染されたままたまっている廃水も処分したかった。豪雨がその隠れ蓑に使われたと考えると、辻褄が合うのではではないでしょうか」

ちなみに、昨年1月時点では、基地内にある7施設の貯水槽に1400トンの汚染水が保管されていたという(昨年11月26日付東京新聞)。

米軍は10月16日、追加情報として、外部に流れ出た汚染水の濃度は1620ナノグラム(国の指針値の約32倍)と明かした。

1カ月以上たってから日本側に連絡

じつは、厚木基地(海軍)でも2022年、大雨による電気系統の誤作動により格納庫から大量の泡消火剤が漏出する事故が起きていた。そのとき、米軍は翌日に防衛省に連絡している。

今回、横田基地(空軍)からの情報が防衛省に届いたのは、発生から34日後だ。

東京都および周辺自治体から防衛大臣宛に出された、口頭での要請内容

再三、指摘されていた通報の遅れが繰り返された裏側には、ある思惑がうかがえる。日米地位協定の「抜け道」につながる背景については、次回お伝えする。

スローニュースでは、岐阜県各務原市でも、防衛省側が「土壌調査」要請文から「土壌」の文字削除を求めるなどの工作をしていた実態を、独自に入手した証拠の文書で明らかにしています。

諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com