元自衛官・五ノ井里奈さんへの強制わいせつ 現役自衛官が涙の証言「先輩から『やってないよな』と言われ」嘘を
スローニュース 岩下明日香
2年前の8月3日、自衛官だった五ノ井里奈さんは、訓練で北海道にある矢臼別演習場に赴いていた。その夜、宿泊施設で開かれた宴会の際、男性隊員3人(いずれも懲戒免職)が、五ノ井さんに「首ひねり」という格闘の技をかけてベッドに押し倒し、奇声を発しながら腰を複数回振り、陰部を押し当てたとされる。
この強制わいせつ事件をめぐる3回目の裁判が8月23日に福島地方裁判所(三浦隆昭裁判長)で開かれ、同じ部屋にいた別の現役男性隊員3人が証言台に立った。事件直後の警務隊の取り調べで「見ていない」と口をつぐんでいた彼らは、この日は一転して「見た」と詳しい状況を語った。
今回は、この3回目の裁判の内容を詳しく伝える。
前回の元上司による曖昧な証言「下半身は離れていたのかな」
強制わいせつの罪で3月に在宅起訴された元自衛官の渋谷修太郎(30)=山形県米沢市出身=、関根亮斗(あきと)(29)=福島県須賀川市出身=、木目沢佑輔(29)=福島県郡山市出身=の3被告は、6月29日の初公判で起訴内容を否認して無罪を主張した。
福島の月刊誌『政経東北』によると、渋谷被告は「覆いかぶさっていない」「腰を振ったのは事実だが笑いを取るためで、下半身の接触はなかった」と述べた。関根被告は押さえつけたこと、そして木目沢被告も覆いかぶさったことは認めたが、下半身には「接触していない」と、わいせつにあたる容疑の内容を一部否認していた。
7月31日に開かれた2回目の裁判では、事件の現場に居合わせた元2曹で上司の男性(懲戒免職)が証人尋問に応じている。
元上司は、渋谷被告と関根被告が五ノ井さんに覆いかぶさり、「性行為を思わせるような動きをしていた」と証言。ただし、下半身の接触については「(五ノ井さんが倒された)ベッドから距離はあった」「離れていたのかな」と曖昧だった。木目沢被告については、「腰を振ったところも、技をかけたところも記憶にない」と語っていた。
今回の3回目の裁判では、同じく現場で目撃していた男性自衛官3人(現役)が、検察側の参考人として証人尋問に応じ、事件を裏付ける新たな証言を語った。
1人目の現役自衛官A「次は誰がやるんだ」
2013年3月に入隊した証人A(3曹)は、事件が起きた2021年の翌年8月に郡山駐屯地を離れ、現在は別の駐屯地にいる。
渋谷被告とは同期で、関根被告と木目沢被告の後輩にあたる。五ノ井さんとは、積極的に話す間柄ではないが、休憩時間に少し会話したことがあり、「控えめなおとなしい印象」だったと話す。
事件の起きた8月3日、宴会が開かれた現場の208号室で、五ノ井さんは隊員らに干物などを焼いたつまみを提供してから、男性隊員たちの輪に加わっていた。証人Aは、その時の様子に危機感を覚えていたという。
「キャバクラみたいだった」
証人A:近くにいた先輩に呼ばれて(五ノ井さんが)宴会に入ってきて、右側の奥から2番目か3番目の(2段)ベッドの所にいました。
検察:五ノ井さんはそこで何をしていましたか?
証人A:五ノ井は先輩隊員に囲まれて、(男性隊員が)キャバクラみたいな会話をしていました。
検察:五ノ井さんの周りを囲んでいた男性隊員として、誰がいたか覚えていますか?
証人A:渋谷と木目沢さんがいました。
検察:キャバクラみたいと言いましたが、どのようなものだったのか覚えていますか?
証人A:五ノ井に対して、必要以上に近く、話しかける内容についてプライバシーに関わることが多かったので、キャバクラにいる時のような印象を受けました。
検察:どんな内容の会話でしたか?
証人A:会話はプライバシーに関わることが多かったです。また、これから始まる訓練についても話していました。
検察:その様子を見て、証人はどのように思いましたか?
証人A:距離が近く、あまりよくない状況ではあると思った記憶があります。
検察:よくないとは?
証人A:五ノ井に対しても、他の女性隊員に対しても近い時があったので、危機感を感じていました。
「首ひねり」をかけた状況
その後、被告らは五ノ井さんに「首ひねり」という格闘の技をかける。
検察:最初に技をかけたのは誰ですか?
証人A:渋谷だったと記憶しております。
検察:渋谷被告と証人は同期ということですが、証人からみて渋谷はどういう性格ですか?
証人A:渋谷は中隊におけるムードメーカーのような性格でした。
検察:この日、なぜ渋谷被告は技をかける考えにいたったのでしょうか?
証人A:自分の記憶だとX1曹ら上司が技をかける話をしていて、それに対して渋谷が技をかけるということになったと思います。
検察:X1曹は技についてどのような話をしていましたか?
証人A:関節技とかを話していました。
検察:そのような話から、渋谷被告が技をかけることになったのはどうして?
証人A:たぶん、そこは渋谷の性格からして、盛り上げるためにやったのだと思います
「正常位のような行為をしていたので、目をそらした」
検察:渋谷被告が技をかけてから、どのような体勢になっていましたか?
証人A:五ノ井は仰向けに倒れて、それに対して渋谷が覆いかぶさるような体勢でした。渋谷は膝をついて腕立て伏せの状態になり、五ノ井との距離は頭1個分ほど離れている姿勢でした。
検察:それは上半身なのか、下半身なのか?
証人A:上半身が頭1個分離れていました。
検察:下半身はどのような状態でしたか?
証人A:下半身がどれくらい近かったのかはわかりませんが、近い状態だったと思います。
検察:そのあと、渋谷被告はどうしましたか?
証人A:渋谷は腰を振って、正常位のような行為をしていました。
検察:証人はその様子をずっと見ていたのですか?
証人A:飲み会がはじまってから、距離感に危機感を覚えていましたが、行為については、酒を作ったり、携帯をいじったりして、目線をそらすようにしていました。
検察:危機感とはどういう意味ですか?
証人A:女性隊員に対してそういった性行為を思わせるような行為をし始め、エスカレートしていくような危機感を感じたため、目をそらしました。
検察:あまりそれを見たくなかったということですか?
証人A:はい。
証人Aから五ノ井さんまでの距離は「2、3メートル」しか離れていなかった。証人Aは被告らと同じ3曹だったが、後輩の女性隊員が性のはけ口にされるような行為を止めることなく、見て見ぬふりをしていたという。
「隊員たちは盛り上がって、次は誰がやるんだと」
検察:そのようなことが行われていた時、部屋の雰囲気はどうでしたか?
証人A:渋谷が盛り上げていたのを見ていた人は、盛り上がっていたようにみえましたが、入口から入って左側にいた隊員たちは盛り上がっていない印象を受けました。
検察:周りの隊員が渋谷被告に対して何か声をかけたということはありませんでした?
証人A:基本、渋谷がやったことに対して笑っていました。また「次どうやるんだ」というヤジも飛んでいました。
検察:渋谷被告がそのようなことをしたあと、他の隊員たちはどのような会話をしていましたか?
証人A:隊員たちは、引き続き盛り上がっていました。その次に木目沢さんと関根さんが「次は誰がやるんだ」という会話をしていた状況は見ました。
検察:関根被告、木目沢被告は第2中隊の中でどのような性格のタイプでしたか?
証人A:関根さんと木目沢さんについては、渋谷ほどではありませんが、ムードメーカーでした。
検察:関根被告と木目沢被告が「次は誰がやるんだ」という話をしているのを見て、証人はどう思いましたか?
証人A:また同じことが繰り返されるという、さらなる危機感を覚えました。
検察:危機感を覚えて、どうしましたか?
証人A:危機感を覚え、たばこを吸ってくるという体で部屋を出ました。
「記憶では木目沢さんが同じような行為を」
検察:証人が部屋を出る際、何かを見ましたか?
証人A:渋谷の次に、五ノ井に同じような行為をしはじめる隊員がいて、姿勢については、上半身は渋谷と同じような感じで行為をしていました。
検察:そのような行為をしていた人は誰ですか?
証人A:私の記憶では木目沢さんでした。体格と髪型から、木目沢さんだと思いました。
検察:その人のことを「木目沢らしき人」として、木目沢らしき人が五ノ井さんに対してしていたことを、もう1度詳しく教えてください。
証人A:渋谷は頭1個分の距離でしたが、木目沢らしき人は、頭2個分ほど状態を起こしていて、渋谷と同じような行為をしていました。
検察:同じような行為とは何ですか?
証人A:渋谷同様、性行為を思わせるような行為をしていました。
検察:証人がその行為を見ていた時間はどれくらいでしたか?
証人A:渋谷については、(その行為を)ほぼ見ていましたが、木目沢らしき人については瞬間的にしか見ていません。
検察:瞬間的でも腰を振るように見えたということですか?
証人A:はい。
検察:見たあと、証人はどうしたのですか?
証人A:下を向いて「たばこを吸ってくる」と言って部屋を出ました。
検察:木目沢らしき人がそのようなことをしている時に、証人は部屋を出てしまったということですか?
証人A:はい。
「郡山駐屯地で起きたことは異常だと思うように」
現場にいた隊員らは、事件の翌月である2021年9月に警務隊の聴取に応じている。そこで隊員らは、この日の裁判で話したようには証言していない。
検察:当時、警務隊にはどのように供述したのですか?
証人A:確実に記憶があることは話しましたが、自分のなかで「かもしれない」とか「だと思う」といった確信が持てなかったことについては、話しませんでした。
検察:隊員が五ノ井さんに技をかけたとか、腰を振るような動きをした、ということについては話していなかったということですか?
証人A:はい。
検察:その後、2022年10月の警務隊や検察官の取り調べでは、いま話したようなことを語っていますね?
証人A:はい。
検察:今日は「木目沢のように見えた」というような話をしています。どうして2021年の時点では言わなかったことを、その後に話そうと思ったのですか?
証人A:私はその後、他の駐屯地に異動になりました。実際に郡山駐屯地で起きたことに異常性があったと思うようになりました。また、事件について尋問を受けていくうちに、事の重大さを認識し、自分にもまだ言えることがあるんじゃないと思い、話すことにしました。
検察:前の部隊が異常だったということですが、具体的にはどういった点が異常だったのですか?
証人A:もちろん、すべてではありませんが、一部の隊員が女性隊員に対してプライバシーを侵害するような質問をしたり、ボディータッチをしたりとか、そういった場面は異常性があったと思います。
検察:プライバシーに関わる質問というのは具体的にはどういった点?
証人A:プライバシーに関わることとは、例えば、女性隊員に対して「彼氏とどうだった」とか、そういうあまり聞かれたくないようなことを質問していました。
検察:ボディータッチというのは具体的には?
証人A:ボディータッチは、下半身等を触っていたところを見ました。
検察:第2中隊でそのようなことをしていた隊員とは、誰のことですか?
証人A:そのような言動が多かったのは渋谷です。また、言論(ママ)については木目沢さんもありました。
検察:被告3人について証言することに、何か思うことはありますか?
証人A:はい。御三方にはお世話になってきました。渋谷は同期で仕事の休憩時間等に会話をし、木目沢さんとは仕事中のデスクが近くて会話をしていました。関根さんは、自分がわからないことがあれば親身になって教えてくれました。でも、御三方には、自分が言うべきことと、言わなければならないことをしっかり言ってほしいと思っています。
「同じように見えたので確信した」
検察の尋問に続いて、3被告の弁護人も当時の状況を詳しく問う場面があった。証人Aは、「かもしれない」という曖昧な記憶を当初は証言していなかったが、「確信」をもっていたとも答えた。
弁護人:木目沢被告が腰を振る様子を瞬間的に見た時、証人はどういう状況でしたか?
証人A:部屋の雰囲気が盛り上がっていて、たぶん人が変わった瞬間にまた盛り上がったのかなと。まだ続いているのかなと思って、ちらっと見た時には木目沢さんが五ノ井氏に覆いかぶさっていて、渋谷と同じような姿勢で同じような行為をしている場面が見えました。
弁護人:顔をあげた時に見えた?
証人A:顔をあげた時に一瞬見ました。
弁護人:一瞬しか見ていないのになんで腰を振っているとわかったのですか?
証人A:渋谷と同じような姿勢で、同じように腰を振っているように見えたので確信しました。
弁護人:関根被告が五ノ井さんに技をかけたところは見ていないのですか?
証人A:はい、自分の記憶では見ていません。
2人目の現役自衛官B「あまりいい気はしませんでしたが、特に興味もなかった」
証人Bは、2011年に入隊し、現在は関西地方に異動して自衛官を続けている。3被告の先輩にあたる人物だ。
現場となった演習場の208号室の2段ベッドの下段は、もともと証人Bが利用していた。2段ベッドの上段と下段の間隔は正座をして頭が付くほどの高さで、証人Bは自分のベッドに腰を掛けるのではなく、ベッド近くの通路側に収納に使うRVボックスを置いてその上に座っていた。
宴会は「18時か19時ころ」にはじまり、木目沢被告と2回目の裁判で証言した元上司は部屋にいたが、当初、渋谷被告と関根被告はいなかったと証言する。
「下半身が密着していてもおかしくない状況」
検察:飲み会がはじまってから、渋谷被告が現れた時間帯は?
証人B:時間帯については覚えていません。
検察:208号室で渋谷被告と五ノ井さんがどのような状態になっている場面を見ましたか?
証人B:物音がしたので振り向くと、五ノ井が下で、渋谷が上に覆いかぶさってるような光景を見ました。髪型や容姿、骨格から渋谷と五ノ井だと判断しました。
検察:その時の渋谷被告の体勢は?
証人B:右手をベッドのマットレスについて体を支えるような感じで、体は左側を向くような体勢だったと思います。左手については覚えていません。腕の位置と体が平行だったので、渋谷の足はベッドの上にあったのではないかと思います。
検察:証人から見た時に、渋谷被告の体と五ノ井さんの体は密着しているようにみえましたか?
証人B:見えてはいませんか、(渋谷被告が)体を支えるように手でついていたので、下半身部分といいますか、脚の部分が密着していてもおかしくもない状態でした。
検察:いま「見えてはいませんが」と表現しましたが、それは密着した部分が見えなかったということですか?
証人B:はい。
検察:証人からみて、見えている部分は、渋谷さんの上半身ということ?
証人B:そうです。
検察:下半身が密着していたところは見てはいないが、ただその体勢から密着していてもおかしくないんじゃないかと思った?
証人B:はい。
「自分のベッドで起きたことで、いい気はしなかったが、興味はなく…」
検察:証人はそういった状況をみて、どう思いましたか?
証人B:あまりいい気はしませんでしたが、特に興味もなかったので、振り向き直り(ママ)ました。そもそも自分のベッドでそれが起こったと思いますが、セクハラじみたことにも捉えられたので、あまりいい気はしませんでした。
検察:証人がその光景を見ていたのはどのくらいの時間でしたか?
証人B:1、2秒でした。
検察:このあと渋谷被告は腰を振っていたという証言がありますけれども、証人はその状況を見ていましたか?
証人B:見ていません。
検察:五ノ井さんに覆いかぶさった人物は渋谷被告だけですか?
証人B:同様に木目沢も同じような体勢でいたところを見ています。
検察:では、その時の状況について詳しく教えてくれますか?
証人B:木目沢と五ノ井が立っていて、時間はわかりませんが、渋谷のあとにまた物音がしたので、振り返ると同様の光景が目に入りました。渋谷とは少し違い、五ノ井の正面に位置するような形で木目沢が上にいました。木目沢は両手をベッドについているような状態でした。腰を振っている状況は見ていません。
検察:そのような状況をみて、証人はどのように思いましたか?
証人B:渋谷と同じ感情。あまりいい気はしなかったのですが、特に興味もなく、また振り向き直りました。
当初の聴取で話さなかったのは「巻き込まれたくなかった」
検察:関根被告が五ノ井さんの体に覆いかぶさった状況を見ましたか?
証人B:いえ、見ていません。
検察:証人はずっと部屋にいたのですか?
証人B:だいたいはいましたが、用便や喫煙等で部屋を出ることもしばしばありました。
検察:2021年9月、警務隊から事情聴取を受けた時には、「見ていなかった」と供述していました。その後、2022年に改めて警務隊や検察官から聴取を受けた際には、先ほど話した内容について話しましたね。どうして最初は何も見ていなかったと話したのでしょうか?
証人B:はい。当時は全然意識もしておらず、関心もなかったので、巻き込まれたくないという思いから、そう答えたのだと思います。
検察:それからどうして本当のことを話すことに決めたのでしょうか?
証人B:警務隊から、被害者はもちろん、加害者も非常に苦しんでいるから、些細なことでもいいので、当時の記憶を思い出してくださいというお話があり、自分も思い出せる限りの話をしました。
「取り調べが早く終わってほしいという気持ちで『わかりません』でいいかと」
弁護人は、証人Bが当初警務隊に供述した内容を指摘するように質問を重ねた。
弁護人:2021年9月の警務隊の取り調べに対して、「私が部屋にいた時は五ノ井がセクハラを受けているところを見かけませんでした」と供述をして、供述調書に嘘をついていないと供述しています。その記憶はありますか?
証人B:はい。
弁護人:2022年10月になると、警務隊の取り調べに対して、「実際には一部見ていた部分もありましたので、私の記憶に基づいてお話します」と供述しています。
証人B:はい。
弁護人:先ほど検察官からの質問に対して2021年9月の時点はあまり意識してなかったというふうに答えていましたね。忘れたのか、それとも意図があった?
証人B:その時は、その場が早く終わってほしいという気持ちが強かったので、あえて隠したというよりも、「わかりません」でいいかと思い、そう答えました。
弁護人:「わかりません」というより、「見かけなかった」と明確に答えていますよ。
証人B:そうです。はい。
「2被告は間違えることはない」
裁判官は、渋谷被告と木目沢被告が五ノ井さんに覆いかぶさったタイミングに「物音がした」という証人Bに、どんな音だったかを聞くと、証人Bは「どさっ」という音だったと答えた。
裁判官:渋谷被告人と木目沢被告人の順番は?
証人B:覚えていません。推測しかできませんが、木目沢とは同部屋だったので、いたと思います。
裁判長:渋谷被告人と木目沢被告人が五ノ井さんに覆いかぶさっているのは見たことがあると。それが渋谷被告と木目沢被告であり、誰かと間違えたということはありませんか?
証人B:それはないと思います。
3人目の現役自衛官C「着衣越しに陰部が当たっているのを見た」
最後に証言した証人Cは、2014年に入隊し、現在も郡山駐屯地に在籍している隊員である。
証人Cは、2回目の裁判で証言する予定だったか、元上司に対する尋問中に被害者参加者制度を利用して傍聴していた五ノ井さんが倒れ、一時法廷が休廷した影響で、証人尋問が見送られ、3回目に繰り越しとなった。
証人Cにとって3被告は、先輩にあたる。先の証人A、Bとは違い、被告らと目を合わせることがないよう、衝立を立てる遮へい処置とって証言が行われた。
衝立ごしの証言で当時の状況を語る
検察:2021年8月、北海道矢臼別演習で飲み会が開かれ、参加しましたね。宿舎208号室で飲み会をしていた時の構造を教えてください?
証人C:入口のドアを開けると、両側に2段ベッドが8つ並んでいました。右側に4つ、左側に4つ。その通路の間に自分たちで持ってきたRVボックスを置いて、それを机やいす代わりにして飲み会をしました。
検察:何時ころから飲み会がはじまりましたか?
証人C:だいたい19時だったと思います。当初の参加者は部屋の12人と五ノ井氏を合わせた13人でした。はじめから渋谷3曹と関根3曹は参加しておらず、木目沢3曹と元上司(当時2曹)はいました。
検察:飲み会がはじまったころ、五ノ井さんは何をしていましたか?
証人C:208号室の外の廊下を利用して干物を焼いていました。
検察:干物とはどういうものですか?
証人C:自分たちで用いたガスコンロとフライパンを使ってつまみを作っていました。
検察:飲み会がはじまったころ、証人はどのあたりにいましたか?
証人C:入口付近にいました。
検察:五ノ井さんはずっと室外でつまみを作っていたのですか?
証人C:いえ、だいたい8時ころだったと思うのですが、隊の人から火気厳禁と指摘をうけ、そこから(五ノ井さんが)部屋に入りました。
きっかけとなる「やってみろ」という発言、前回の元上司の証言と食い違う
いったん、洗濯をしようと部屋から出たCは、戻ってきてからの状況を話した。
証人C:一番奥の右側の2段ベッドの下に、X1曹(懲戒免職)が左側、元上司(2曹)が右側に座っていました。
検察:そのあとはどうなりましたか?
証人C:柔道の話をしていました。それから、渋谷3曹が部屋に入ってきました。渋谷3曹と自分は、X1曹と元上司(2曹)の方に近づいて乾杯をして、自分は入口付近に戻りました。
検察:X1曹と元上司(2曹)の会話はどのような話題でしたか?
証人C:柔道の話をしていて、「首を制する者は勝てる」といった内容の話をしていました。そのあと、「やってみろ」という感じで、渋谷3曹が五ノ井氏に「首ひねり」という技をかけていました。
検察:証人は誰が何を言ったと記憶していますか?
証人C:X1曹と元上司(2曹)がそういう話をしていて、渋谷3曹に「やってみろ」というようなことを言っていたのが、ちらっと聞こえました。
検察:X1曹が渋谷被告に言ったのか、元上司(2曹)が渋谷被告に言ったのか?
証人C:それについてはちょっとわかりません。
この場面に関する証言は、前回の裁判で参考人として呼ばれた元上司のものと食い違う点がある。
元上司は、この場面について「X1曹は『相手の首をきめれば相手を制せる』と話していました。その時に、渋谷が五ノ井に『首をきめていいか』と聞いて、五ノ井が『いいですよ』と返した。五ノ井は、その場の空気が悪くならないようにそう言ったのだと思います」と答えていた。
しかし、弁護人からX1曹が技をかけるように指示をしたのかを問われると、関根被告に対してはX1曹が「具体的に『こうだ』」と発言し、渋谷被告に対しては「指示はしていないと思います」と述べた。
さらに、裁判官からも指示の有無を確認されると、元上司はこう話していた。
「私とX1曹は、けっこう大きい声でしゃべっていたので、渋谷がこんな感じだろうと思って、やったんじゃないかなと」
あくまでも「大きい声でしゃべっていた」という元上司は、技をかけるきっかけとなるような発言を自身ではしていないとし、X1曹も指示はしていないと主張していた。
一方、証人Cは、X1曹か元上司のどちらかは曖昧だが、「やってみろ」と発言していたのを聞いたという。
「五ノ井氏の後頭部を抱え、疑似セックスのような体勢」
検察:「首ひねり」という技をかけることになった時、五ノ井さんはどういう反応を示しましたか?
証人C:いつも通りでしました。
検察:渋谷被告が五ノ井さんに首ひねりをした時、どの位置にいた?
証人C:入口から入って、右奥から2番目と3番目のベッドの間に渋谷3曹と五ノ井氏がいました。自分は入口付近にいました。自分からみて、右側に五ノ井氏、左側に渋谷3曹がいて、2人は向き合っていました。
検察:渋谷被告が技をかけたところ、五ノ井さんはどうなりましたか?
証人C:奥から2番目のベッドに仰向けの状態になっていました。
検察:渋谷被告の体勢は?
証人C:渋谷3曹の体勢は、左手が五ノ井氏の後頭部を抱え、右手もだいたい後頭部付近を持った状態で、疑似セックスのような体勢になっていました。
検察:疑似セックスとおっしゃいましたが、具体的にはどういう体勢ですか?
証人C:正常位のような覆いかぶさった状態です。
検察:渋谷被告の脚はどのような状態でしたか?
証人C:ベッドに両足が乗っていて、五ノ井氏の太ももの下に脚がある状態でした。
検察:正常位の体勢で渋谷被告が後頭部を抱えた状態のまま腰を振っていたのですか?
証人C:はい、そうです。
検察:ところで「首ひねり」という技はどういう技でしたか?
証人C:「首ひねり」という技は、左手を相手の後頭部に、右手を相手の顎に手をあてて、反時計まわりに首をひねることで、相手の体勢を崩すような技です。技をかけられた側は、頭を手で抱えられて保持された状態になります。技をかけた側は、相手の首をひねって膝立ちの状態で後頭部を支えます。(渋谷被告や元上司と同じように)自分も格闘指導官の資格を持っているのでわかりますし、格闘の教範にも載っている技です。
検察:教範に載っているのですね。そうすると、技をかけられた側である五ノ井さんがベッドの上に仰向けに倒れたということですが、この状況で相手に覆いかぶさる体勢には通常はならないのでは?
証人C:はい。
「陰部が着衣越しに当たって」
検察:先ほど正常位のような体勢になったとおっしゃいましたが、どのくらいの回数と時間でしたか?
証人C:体感ではありますが、12、13秒くらい、10回ほど腰を振っていたと思います。
検察:渋谷被告はそのような体勢で何か口にしていましたか?
証人C:「うぇーい!」みたいなレイザーラモンHGのネタみたいな感じで声を出して、ふざけていました。
検察:渋谷被告の陰部が、五ノ井さんの陰部に着衣越しにあたっているように見えましたか?
証人C:はい、見えました。
検察:渋谷被告がそのような行動をとったあと、部屋の中はどういう雰囲気になりましたか?
証人C:部屋の中に笑いがおきました。
検察:それを見た証人も笑っていましたか?
証人C:はい。
「大丈夫」と聞いた関根被告が、すぐ同じことを…
検察:渋谷被告がこうした行動に出たあと、証人はどうしましたか?
証人C:自分は洗濯機を回したかったので、洗濯室へ向かいました。
検察:その後、洗濯室から戻ってきましたね。戻ってきたときに208号室の様子で何か変化はありましたか?
証人C:関根3曹が部屋にいました。
検察:関根被告は、その時に何かしていましたか?
証人C:渋谷3曹と同じようなポジションでいるところを見かけました。
検察:関根被告は何かその時に声をかけていましたか?
証人C:はい、「五ノ井大丈夫?」と聞いていたのを覚えています。
検察:関根被告の言葉に対して、五ノ井さんは何と答えていましたか?
証人C:「大丈夫です」と言っていました。
検察:そのあとはどうなりましたか?
証人C:渋谷3曹と同じことを行っていました。
検察:五ノ井さんに対して、関根被告が「首ひねり」をしていたということですか?
証人C:はい。
検察:そのあとはどうなりましたか?
証人C:五ノ井氏がベッドの下の段で仰向けになって、関根3曹が覆いかぶさる状態になりました。渋谷3曹ほどではないのですが、腰を振っていました。5秒程度で5、6回腰を振っていたと思います。
検察:証人からみて、関根被告の陰部は五ノ井さんの陰部にあたっているようにみえましたか?
証人C:自分は見ました。
検察:関根被告は何か声を出していましたか?
証人C:自分が見ていた時は、発していなかったと思います。
検察:その関根被告の様子をみた周囲の反応はどうでしたか?
証人C:渋谷ほどではありませんでしたが、少し笑いが起きてました。
検察:この事件では木目沢被告も同様の行為をしていたのを見たという人がいるのですが、証人は木目沢被告のそうした行為を目にしましたか?
証人C:自分はありません。
検察:そのあと、渋谷被告が再び五ノ井さんに首ひねりをかけていたという声があるのですが、そのような状況を証人は見ましたか?
証人C:いいえ、ありません。
検察:証人は208号室にずっといたのですか?
証人C:いいえ、ずっとはいませんでした。洗濯機を回して、見に行ったり、それを取りに行ったりしていたので、ずっとはいませんでした。喫煙やトイレに出たこともありました。
検察:すべてを見ていたわけではない?
証人C:はい、そうです。
言葉をつまらせる証人、その理由は
検察:証人は、この強制わいせつ事件について、警務隊から2021年に聴取を受けましたね。証人はこの時、渋谷被告や関根被告の行為については「見ていない」と、「正常位のようなのは見ていません」と話していましたね。
証人C:はい。
検察:どうして最初は、「見ていない」と言ったのですか?
証人C:理由は2つありました。1つ目に、男性社会の中で男同士のノリ的なトークがあり、その中で女性を傷つけているということに対して自分たちが疎かったからです。また、そのようなことに対してマヒしていた部分もあって、正直、今では後悔しています。2つ目は、良き先輩3人がこのような姿になって……とてもかわいそうに思い……。
証人Cは、涙を流しながら声を詰まらせて頭を垂れた。
検察は代弁するように問いかける。
検察:3人がかわいそうになって、嘘をついてかばってしまったということですか?
証人C:……。
検察:証人は、2022年10月14日と16日の警務隊による聴取において、渋谷被告については証言していましたね。どうして渋谷被告のことについては正直に話すことにしたのでしょうか?
証人C:渋谷3曹と会う機会があり、ふたりっきりになった時に、渋谷3曹がしゃべると言っていたので、自分も正直にしゃべることを決めました。
検察:一方で、関根被告の行為については、警務隊に対して正直に話してはいませんでした。
証人C:はい。
検察:どうして関根被告については、この公判で話してくれたことを、話せなかったのでしょうか?
証人C:関根3曹とも仕事をしてきた仲で……。「おれ、やってないよな」というのがあって……。それで隠していました。
検察:「やってないよな」と言われて、「見ていない」というような忖度をして嘘をついてしまったということですか。
証人C:うぅ……。
検察:しかし、2022年10月21日に郡山検察庁で私と初めて会った時に、関根被告の行為についても今日話したように正直に話してくれました。どうしてその時には本当のことを話そうと思ったのでしょうか?
証人C:渋谷3曹が正直にしゃべって、関根3曹が言わないのは……。聴取を受けるたびに自分自身も……本当のことを話してほしいなという思いがあって、話すことにしました。
検察:関根被告に対しては、本当のことを話してほしいなという思いがあったと。それから、証人自身が嘘をつき続けることが心身的な負担になっていったから、正直に話したということですか?
証人C:はい、そうです。
検察:証人の右側には、証人の希望に従って、遮へい処置をしました。どうしてですか?
証人C:本当に良き先輩だったので、それで顔を見てしまうと……。
検察:いま、証人は感極まって涙を流していますが、いまはどのようなお気持ちですか?
証人C:先輩がこのようになってしまい、遮へい処置がないと……。
検察:それは過去の思い出を思い出してしまって、つらくなっているからということですか?
証人C:はい。
虚偽とした発言部分を弁護士が再確認
泣いて声をうまく出せなくなった証人Cの呼吸が落ち着くと、今度は弁護人が過去の供述について確認する質問をした。今回、Cが事実ではなかったとした部分だ。
弁護人:2021年9月の時点で警務隊に対しては、「五ノ井がセクハラを受けていたことについては、見たことも聞いたこともありません」と供述をしていますね。
証人C:はい。
弁護人:2022年4月15日に検察官から取り調べを受けた際に、「渋谷3曹と関根3曹が五ノ井に技をかけて、五ノ井をベッドの上に倒していたところは見ましたが、渋谷3曹も関根3曹も五ノ井の上に覆いかぶさって腰を振るようなわいせつな行為は一切していませんでした」と供述したのは覚えていますか?
証人C:はい。
弁護人:同じ日の検察官の取り調べでは、五ノ井さんがセクハラ被害を受けていることを申告している事に対して、「その話が本当だとすると、五ノ井が辛い訓練から逃れるために渋谷3曹らにされたことを大げさに言っている可能性があります」とも供述した記憶はありますか?
証人C:はい。
弁護人:2022年8月5日の警務隊の取り調べに対して今度は、「渋谷3曹と関根3曹が五ノ井に覆いかぶさっていたのは間違いないのですが、腰を振ったところは見ていません。また、周りで見ていた人は渋谷3曹と関根3曹を煽ったり、そそのかしたりすることもありませんでした」と供述していますか?
証人C:はい。
弁護人:2022年10月12日の警務隊の取り調べに対して、今度は一転して「渋谷3曹と関根3曹の2名による五ノ井に対するわいせつ現場を目撃した」と供述しましたか?
証人C:はい。
遅すぎた証言に五ノ井さんは何を思うのか
現場にいた3人の現役自衛官への証人尋問が終わった後、五ノ井さんは報道陣に心境を語った。
「今日、証言してくださった3人が、最初の自衛隊の調査で本当のことを話していただけていればよかったです。やはりセクハラに対する感覚がマヒしていたのだと、今日聞いて思いました。先輩だからこそ、あの現場を見ていたんだったら、しっかり注意してほしかったです」
次回の裁判は9月12日に開かれ、渋谷被告と関根被告に対する尋問が行われる。
取材・執筆 岩下明日香
五ノ井里奈さんの著書『声をあげて』(小学館)の構成者。スローニュースの編集メンバー。事件を継続的にウオッチ。