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米軍嘉手納基地周辺でのPFAS汚染、日本の調査結果が「基地は汚染源ではない」との幕引きに利用されたのか

沖縄で繰り返される米兵による性暴力事件が、外務省内で長く伏せられてきたことが明らかになった。米軍基地以外に要因が見当たらないPFAS汚染をめぐっても、真相の解明は宙に浮いたままだ。

その背景になにがあるかを浮き彫りにする興味深いレポートが6月末に発表された。

<嘉手納基地のPFAS汚染:日本の調査は幕引きに使われたのか>

沖縄で米軍による基地汚染を監視するNGO「IPP(The Informed-Public Project)」代表の河村雅美さんによるものだ。

IPPのサイトより

嘉手納基地周辺で深刻な汚染が明らかになってから8年がすぎ、汚染を裏づけるさまざまなデータが示されてもなお、日米とも嘉手納基地が汚染源であると認めていない。

河村さんはみずから情報公開請求で手に入れた日本政府の文書と、沖縄タイムス特約通信員のジョン・ミッチェル氏が米国情報公開法(FOIA)によって手に入れた米公文書を読み解き、突き合わせた。

「日本側はある報告書の中で、基地が汚染源であると示すデータがありながら、あえて別の可能性に言及していました。そのため、米側はみずからに都合のよい解釈ができ、『嘉手納基地は汚染源でない』との結論を出して事実上、幕引きしていたことがわかりました」

基地の外でしか調査していないのに…翻訳で都合よく書き換えられた調査結果

たとえば、ミッチェル氏が入手した米公文書によると、米国防総省は、軍事委員会に所属する上院議員に送ったメール(2018年10月3日)で、

<比謝川の高いPFOS濃度は、嘉手納基地でない他の汚染源によるもの>

と説明していた。

嘉手納基地と周辺の水質調査結果(IPP作成)

本来、嘉手納基地が汚染源かどうかは、基地内を流れる大工廻川を基地内で調べればわかる。だが、高い濃度が出れば決定的な証拠となるため、米側は、基地内では流量調査しか認めず、水質調査は基地外で行わせた。

その結果について、防衛省の沖縄防衛局は「提供施設区域における現況調査等業務」と題した報告書(2018年)で、次のように記している。

<大工廻川の(基地外での)PFOS・PFOA濃度は比較的高い値を示しているものの、流量規模は小さいため、大工廻川の他にも、周辺河川や地下水(湧水)に含まれるPFOAやPFOSが(県民の飲み水の水源である)比謝川へ流入している可能性が考えられる>

防衛省の報告文書には「大工廻川の他にも(略)可能性が考えられる」と記された。(河村さん提供)

大工廻川の濃度が高いとしても、比謝川に流れ込む量は小さい。つまり、比謝川への影響はそれほど大きくないとの認識を言外に示し、嘉手納基地が汚染源ではない可能性にわざわざ言及していたのだ。

そのうえ、翻訳された英文では、原文にあった「大工廻川の他にも」が「他の原因」という言葉に置き換えられ、大工廻川の存在が消されていたのだ。

日本側が「基地は汚染源ではないとの言質を与えてしまった」

水質調査では、大工廻川の下流や大工廻川が比謝川に合流した地点より下流で200〜300ナノグラムが検出されていた。この点に触れた下りでも、英文では「大工廻川」という固有名詞が省かれ、「全国的にみると(200〜300ナノグラムという数値は)比較的高い」とだけ訳されていた。

沖縄防衛局による嘉手納基地周辺の水質調査結果(河村さん提供)

「嘉手納基地は汚染源でない、とする国防総省の主張が成り立つように細工されたのかもしれません。そもそも米側は、嘉手納基地が汚染源だと裏づけられないような形でしか調査を認めておらず、日本側はそれに沿った書きぶりになったように見えます」(河村さん)

結局、米側が嘉手納基地以外の汚染源の可能性を強調するために、防衛省の調査は利用された。その結果、「ホスト国が認めていない」との言質を与えてしまったというのだ。

米国内では基地由来のPFAS汚染が700所以上確認され、米軍が調査や浄化に取り組んでいるものの、在日米軍をめぐる状況はまるで異なる。

「極東最大の空軍基地を受け入れているホスト国の日本では、汚染源の特定さえできていない。米軍から阻まれているのではなく、汚染者とともに原因の特定に蓋をしている。そして、『在日米軍の活動との因果関係については確たることを申し上げるというのはなかなか難しい』との答弁を日本政府は繰り返しています。こんな異常事態が続いていることを私たちは認識すべきでしょう」(河村さん)

PFAS汚染をめぐる国の対応は、沖縄の性暴力事件を通報しなかった外務省の姿勢と地続きに見える。防衛省・外務省・環境省はどこを向いて、何を守ろうとしているのだろう。

日本各地で発覚するPFAS汚染とその原因、スローニュースでは毎週、深掘りして追及する発信をしています。

諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com