【諸永裕司のPFASウオッチ】国際がん研究機関がPFOAの「発がん性」を認めた
「永遠の化学物質」として問題になっているPFAS(有機フッ素化合物)の最新情報を伝えているジャーナリスト、諸永裕司さんの「PFASウオッチ」。第6回は、岐阜県各務原市での住民の血液検査の結果と、国際機関による新たな発表についてです。
岐阜・各務原市の汚染エリア 血中濃度が米指針の3倍超
またひとつ、汚染地域での血液検査の結果が出た。やはり、住民たちの血中濃度は高かった。
水質管理の目標値を超える濃度のPFASを検出しながら2年半にわたって公表していなかった岐阜県各務原市。この間、市民の半数にあたる約7万2千人に最大で目標値の2.6倍にあたる130ナノグラムの飲み水が提供されていた。
汚染された三井水源地の周辺にある井戸を各務原市が調べたところ、最大で450ナノグラムだった。44カ所のうち13カ所から目標値を超えるPFASが検出され、11カ所では飲用に使われていた。
このため、原田浩二・京大准教授は三井水源地の水を飲んでいた住民100人の血中濃度を調べ、4日に結果を公表した。
国内で製造・使用が禁止されているPFOS、PFOA、PFHxSの3物質に、PFNAを加えた4種類の有機フッ素化合物(PFAS)の合計は平均で67.3ナノグラム(血漿1ミリリットル中)だった。
国内に血中濃度の基準はないが、アメリカの学術機関「全米アカデミー」の指標では、20ナノグラムを超えると健康への影響が懸念されるという。同時に、脂質代謝異常や甲状腺ホルモンの検査、腎がん、精巣がん、潰瘍性大腸炎の症状について医師による評価を受けるように勧めている。
各務原市では、100人のうち91人がこのアメリカの指標を超えたという。
各務原市では全国的にも高い数値が
この結果(4PFASの合計)は、これまで原田教授が手がけてきた二つの地域と比べると、以下のようになる。
沖縄のなかでも、米軍・嘉手納基地によって汚染されたとみられる飲料水を、県民の約4分の1にあたる40万人あまりに供給していた北谷浄水場のある沖縄県北谷町では、平均で29.2ナノグラム(59人)。
東京・多摩地区で、水道水に占める地下水の割合が高かったために血中濃度が特に高い国分寺市で平均44.6ナノグラム(85人)だ。
各務原市の数値はいずれをも上回るものだった。
原田准教授は「かなり長期間にわたって高濃度に汚染された水を摂取してきたのではないか」とみるが、国が目標値を定めた2020年以前の水質についてはデータがなく、住民たちはいつから汚れた水を飲んできたのかはわからない。
なお、同市で三井水源地からの配水区域以外に住む22人の平均は21ナノグラムで、20ナノグラムを超えたのは12人だった。
血液検査の結果を受けて、住民たちは各務原市に血液検査と健康調査の実施を求めていくという。
「発がん性がある」に評価を引き上げられたPFOA
この結果が公表される2日前、もう一つ注目すべきニュースが流れた。
世界保健機関(WHO)の専門機関である「国際がん研究機関(IARC)」がPFOAとPFOSの発がん性についての評価を改めたのだ。
IARCはヒトに対して発がん性のある物質についての評価を、動物実験など根拠となるデータの確かさらしさから4段階に分類している。
PFOAについては、これまで3番目に位置づけていた「発がん性の可能性がある」から、1番目の「発がん性がある」に2段階引き上げた。また、PFOSについても、新たに「発がん性の可能性がある」としたのだ。
https://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045(23)00622-8/fulltext
同じように製造・使用が禁止されているにもかかわらずPFOSの分類が低いのは、PFOAと比べて十分な疫学データがないためで、危険性が大きく異なるわけではない、とみられる。
環境省が、血中濃度と健康への影響についての関係は評価が定まっていないとして、汚染地域での血液検査をしない方針を変えることはないのだろうか。
現在配信中のスローニュースでは、東京・多摩地区の有名大学などで、PFASに汚染された地下水が飲み水や給食の調理などに使われていた実態も伝えている。
諸永裕司(もろなが・ゆうじ)
1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘 沖縄の密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
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