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「国葬文書」隠蔽を非営利メディアTansaが提訴!情報公開の形骸化は民主主義の危機だ

SlowNews 熊田安伸

安倍晋三元首相の「国葬」は、どのような判断で行われたのか。それを知るため、非営利のメディア「Tansa」が内閣府や内閣官房などに情報公開請求をしました。ところが、結果は「存在していない」として不開示の決定が。岸田首相が「しっかり調整した」と発言しているのに、存在していないなんてありえない……そこでTansaは9月30日に国を提訴しました。

提訴に至るまでの経緯…「民主主義の根幹が崩れる危機感を覚えた」

提訴のあと、東京地方裁判所内の司法記者クラブで会見した「Tansa」の渡辺周編集長は、今回の経緯を説明しました。

Tansa 渡辺周 編集長

当初の問題意識は、国葬の実施を閣議で決めてしまったということ。賛否が分かれている話なのに、なぜ国会で審議をしないのか。安倍政権以来、閣議決定が横行しているのではないかということだったといいます。

2022年7月14日の記者会見で岸田首相は、「内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断している」と発言し、その後、国会でも同じ趣旨の発言をしています。

では、首相は内閣法制局とどんな協議をしたのか。内閣法制局といえば、法律の解釈が誤っていないかなどをチェックするいわばご意見番のはずです。いったい、そこでどんな話になったのかは、国民の関心事でしょう。

Tansaがまずは内閣法制局に情報公開請求をしたところ、開示されたのは、「応接録」という紙1枚だけで、「意見がない旨回答した」としか書かれていませんでした。

Tansaに開示された「応接録」

そこで、内閣官房や内閣府が、内閣法制局とやりとりした内容を記録した文書を改めて開示請求したところ、「作成していない」などとして非開示としたのです。

渡辺編集長は、「情報公開制度をないがしろにするものだ。このところ、こういう事例が多い。不存在や、やたらと黒塗りにする。情報公開法が有名無実化していて、民主主義の根幹が崩れるという危機感を覚えた」と、憤りをあらわにしていました。

裁判のポイントは?「メディアにとっても重要な訴訟になる」

裁判では、不開示の決定の取り消しをめぐって争われます。ポイントとなるのはどこか。Tansaの代理人の一人、二関辰郎弁護士が説明に当たりました。

二関辰郎弁護士

特に強調するのは、二つの点です。

まずは岸田首相の答弁の内容などから考えても、協議の内容を公文書として残していないという説明が事実であれば、作成していないこと自体が公文書管理法に違反するという点です。

その上で、「請求対象の文書が存在しないというのはありえない」として、以下のような指摘をしています。

  • 内閣法制局に相談した内容は行政権の範囲(閣議決定で決めてしまっていいのかなど)にも関わる重大な問題で、過去の経緯や議論も踏まえて慎重に検討すべき内容であること

  • 国葬令は、戦前にはあったが戦後は効力を失っている。法律を制定することも、国会での検討もなく閣議で決められるかは内閣法制局にとっても重要な法律問題で、将来のために材料を保存しておくはずのもの

  • 政府として葬儀をどのような形式で行うかは国民の関心も極めて高い

二関弁護士は、「メディアは批判的なことを書くと取材を受けてもらえないことがある。しかし公文書管理法に基づいて文書を作り、開示しなければならないのであれば、どんなメディアでも情報を得られる。今回の訴訟は、メディアにとっても重要なものとなる」と説明していました。

小さなメディアが国を相手にする力に

会見には代理人の一人で、数々のメディア関係の訴訟を担当してきた喜田村洋一弁護士も出席しました。

喜田村洋一弁護士

「偶然なんですが、この事件を扱う地裁の民事3部は、私が担当している“森友文書”の情報公開(の裁判)をやっている部で、裁判長も行政庁はこういうことをやっているんだということをわかっている部ですから、その辺のところは理解があるんじゃないかと期待しております」

裁判を起こすには、当然、裁判費用がかかり、二の足を踏むメディアも多いと思います。しかし今回は、喜田村弁護士が代表理事を務める自由人権協会の支援で提訴するということになったということです。

こうした動きが、多くのメディアを勇気づけることにもつながるかもしれません。裁判の行方を注目していきたいと思います。

スローニュースでは、同じく内閣府への情報公開で明らかになった、首都直下地震の対策に使われる補助金8億円が支出先が分からなくなっている問題を報じています。