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ドイツでは米軍が基地の汚染浄化を進めていた!なぜ日本では放置されているのか…

沖縄での汚染対策は止まったまま

国内で初めてPFAS(国際機関が発がん性を指摘している有機フッ素化合物)による汚染が確認された沖縄で、汚染対策の時計は8年前から止まったままだ。

この間、米軍の嘉手納基地(嘉手納町ほか)だけでなく、キャンプ・ハンセン(金武町)などの基地周辺で次々と汚染が見つかり、普天間基地(宜野湾市)では米軍が汚染水を一方的に下水道に放流する事件も起きた。

沖縄県による調査では、普天間基地や嘉手納基地の周辺など46地点のうち33地点で国の目標値を超え、普天間基地近くの湧き水から目標値の44倍に上るPFASが検出された。

それでも、過去の汚染をめぐる基地内への立ち入り調査は実現していない。そればかりか、沖縄県、沖縄防衛局と米軍による三者協議も途絶えたままだ。その結果、米軍はいまも汚染源であることを認めていない。

ドイツにある米軍基地をのぞいてみると……

そうしたなか、普天間基地周辺の住民たちでつくる「宜野湾ちゅら水会」(町田直美・共同代表)のメンバーらはこの秋、海を渡った。

ドイツ南部のバイエルン州にある米軍アンスバッハ駐屯地で進む汚染浄化対策を視察するためだ。

アンスバッハ基地(撮影 米陸軍・Jonathan Bell)

米軍が修復調査についてまとめた報告書によると、汚染源は2カ所の旧消火訓練場で、1986年ごろから2001年ごろまで泡消火剤が使われていた。汚染は約21,000㎡に及ぶ範囲に広がり、最大でPFOS 90,000ナノグラム、PFHxS 25,000ナノグラム、PFOA 2,000ナノグラムだった。

とくに、地下2メートルまでの表層部で濃度が高く、少なくとも地下7メートルまで汚染されていた、と記されている。

米軍は地元自治体や住民の要請を受け、汚染された地下水が基地外に流出しないよう9つの井戸を掘ってポンプで汲み上げ、浄化して小川に流す対策などに取り組んでいる。

報告書には、

<ドイツ連邦共和国では、環境アセスメントは通常、連邦土壌保護法と連邦州の各規制の両方にしたがって実施されなければならない>

と書かれ、バイエルン州の評価基準にも言及されている。

ドイツが米国などと結ぶNATO軍地位協定の補足協定には「国内法の原則適用」が明記されているからだ。そのため、「汚染者負担」という原則を米軍も受け入れている。

ドイツでの地位協定に詳しい森啓輔・専修大学准教授によると、NATO軍地位協定は、基地内で起きた汚染はドイツの環境法制に基づいて処理されると定められており、基地外の汚染については、米軍が75パーセント、ドイツ側が25パーセントを負担して汚染除去に取り組むとされている、という。

「ちゅら水会」に同行取材したディレクターの平良いずみさんが基地側に問いあわせたところ、以下のような回答を得たという。

<米陸軍は、汚染物質の検出と調査から適切な浄化方法の特定、そして最終的な浄化に至るまで、包括的環境対応・補償・責任法 (CERCLA)によって確立された手順に従っています。すべての段階で、ホスト国と緊密に連携しながら進めています>

ドイツでは米軍が汚染者責任を果たしていた

CERCLAとは「スーパーファンド法」とも呼ばれ、有害物質による環境汚染の修復を義務付けたアメリカの法律だ。

ということは、米軍はドイツの国内法に基づいてドイツ当局と連携しながら汚染浄化を進め、基地内での具体的なプロセスは米国の法律に従って進めている、ということになるのだろうか。

「ちゅら水会」の照屋正史さんは言う。

「これまで、スーパーファンド法は米国外には適用されないとの報道を見てきただけに驚きました。米軍が基地への立入調査を拒んだまま汚染除去にも取り組まない日本とは対照的です。防衛省がどちらを向き、どちらに背を向けているか。あわためて、その思いを強くしました」

地元の市民団体と交流した「ちゅら水会」のメンバーら(平良いずみさん提供)

米軍報告書には、

<地下水調査の結果は、現場一体にPFAS汚染物質プルームが形成されていることを明確に示している>

とも記され、その濃度は33,000〜35,000ナノグラムほどだったという。

「汚染プルーム」とは、地中の湿った土の層に蓄えられたPFASの貯蔵庫のようなものだ。時とともに染み出して、地下水が蓄えられている帯水層に届き、その後、地下水の流れに乗ってさらに拡散していくことになる。

基地外にある民間の飲用井戸ではすでに、PFOSとPFHxSを合わせて3270ナノグラムが検出されており、今後、除去に取り組まなければ汚染はさらに広がる、と米軍は見ている。

それだけに、汚染源を特定し、地下水や土壌の汚染浄化に取りかかる必要がある。

米軍によるアンスバッハ基地汚染についての資料(照屋正史さん提供)

「不安を抱く母親たちのためにも」

だが、日本国内に目を向けると、基地内への立ち入り調査をめぐる米軍との交渉は、テーブルさえ設けられていない。これまでに、沖縄のほかにも、川上弾薬庫(広島県東広島市)、横田基地(東京・多摩地区)、三沢基地(青森県三沢市)などの周辺で汚染が見つかっているにもかかわらず、だ。

「ちゅら水会」のメンバーたちはドイツを視察する前に、ジュネーブで開かれた国連・女性差別撤廃委員会に参加した。NPO主催のランチミーティングでは、同行した北谷町議の仲宗根由美さんが「琉球(沖縄)の母親」の立場からスピーチした。

「1982年に国連総会で採択された予防原則に基づき、汚染の原因が科学的に証明されていなくても、日本政府は(汚染地域で)疫学調査を行い、不安を抱える妊婦や住民に包括的なケアを提供すべきです」

沖縄だけでなく全国でPFAS汚染の影響を受ける女性たちのためにも、国連から日本政府への勧告に盛り込んでほしい、と訴えた。

沖縄県は18日、PFASなど有害な化学物質や廃棄物を専門とする特別報告者を沖縄に招き、現場へ案内してPFAS汚染や日米地位協定などについて説明する。20日には、「国連特別報告者と考えるPFAS問題」と題するシンポジウムも開く。

現在配信中のスローニュースでは、夫は直接PFASに接触していたものの、触れる機会が全くないはずの妻にも影響が出ているのではないかと疑われる事例を明らかにしています。

諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com