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研究現場を苦しめる「10年特例」、雇い止めへの解決策はあるか

本連載では、多くの研究プロジェクトを率いてきた科学者のインタビューや、理化学研究所で起きた大量雇い止めの実態を通して、雇い止めが日本の研究力に与える弊害について見てきた。

最終回では、全国の大学や研究機関の状況とともに、この問題の解決策について考える。

繰り返しになるが、雇い止めの原因になったのは2013年の改正労働契約法の施行だ。通算雇用期間が5年を越えた有期雇用の労働者は無期雇用への転換を申し込めるとする法律で、高度専門職である大学や研究機関の研究者や技術者は、特例により通算雇用期間が5年ではなく10年に延ばされた。

この「10年特例」が今、たくさんの研究者や研究現場を苦しめている。研究者が大勢切り捨てられている現状を、政府はどのように見ているのだろうか。また、どんな解決策があるのだろうか。
                    【雇い止めと日本の研究力④】                


                    科学ジャーナリスト 須田桃子

文科省有識者部会は「直ちに見直す必要なし」

「研究者・教員等の雇用の安定性の確保に一定の役割を果たしていると言うことができ、直ちに本制度を見直す必要はないものと考える」

2024年10月、文部科学省が設置する有識者会議「人材委員会」の作業部会は、「10年特例」の運用状況をまとめた資料に、こんな見解を盛り込んだ。

まるで雇い止めなど起きていないかのような文言だが、その根拠となったのは、文科省が全国の国公立・私立大や公的研究機関を対象に23年5月1日時点の状況を尋ねたアンケート調査だ。

847機関中801機関から回答が得られた。10年特例の対象となる有期雇用の職員で、23年4月までに契約更新をしていれば通算雇用期間が10年を越えたのは約1万2400人だった。

23年4月以降も雇用を継続できたのは、8割にあたる9977人。そのうち933人が4月に有期雇用の契約を結んだか、5月1日までに無期雇用への転換を申し込んでいた。一方、2割にあたる2420人は3月末で雇用契約を終了した。

人材委員会の作業部会はこの結果から、「8割の対象者の雇用が継続され、無期雇用になったか無期転換権を得た」として、先の見解に至っている。

しかし、この調査については連載1回目で、人材委員会のメンバーでもある筑波大の柳沢正史教授が「現実を正しく反映しているとは言えない」と指摘している。

一方、同じ報告書からはこんな現状も読み取れる。

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