テレビの発信はもう限界なのか…加速する「個人メディア化」にどう対処する?【InterBEE 2024リポート③】
日本最大級のメディア総合イベント「InterBEE」。メディアの最新事情を知ることができるセッションの中から、注目の内容をリポートしています。
前回はタテ型動画での個人発信について語られたセッションの内容を紹介しましたが、今回はその「個人メディア化」がどう進み、メディアはどう対処していけばいいのかを語ったセッションの内容を紹介します。
スローニュース 熊田安伸
「テレビが面白くないのではなく、ニーズにマッチした発信がない」
タテ型動画に象徴されるような、個人のメディアはどう進んで行くのでしょうか。「『個人メディア化』が加速する時代にどう向き合うのか」というそのものずばりのセッションがあったので、そちらの内容も紹介します。
登壇した一人が関西学院大学の特別客員教授、小西美穂さんです。小西さん自身、日本テレビでキャスターを務めていました。いま、大学生と日々接する中で、「どんなデータよりテレビ離れが進んでいる」ことを感じるといいます。学生300人にアンケートをとったところ、テレビを持っていない学生がが1割。そして6割がテレビをリアルタイムで見ていませんでした。
その理由について、「テレビが面白くないからではない。コンテンツにはスマホなどで接しているが、引用元を認識してみる習慣がない」としています。その上で、「学生は朝と夜寝る前にニュースをチェックして便利な情報を集めていて、夜寝る前には時間をかけて深く掘り下げるコンテンツを見ている。ただ、例えば選挙報道では各党の比較をしっかり解説してくれるものがほしいのに、それにマッチングができているものがない」と指摘していました。
探しているものが見つからないのでSNSに
社会課題に学生は関心があり、「自分の意見」が持ちたいのに、これが確実というものがない中で個人のインフルエンサーで「答え」を探していて、6~7割が個人の発信者の影響があると答えているといいます。
女子学生が6割だということですが、使っているのはやはりインスタで、ニュースはそこで検索をしているそうです。Xは好きなインフルエンサーや芸能人の発信を見るのに使われ、TikTokは余暇として日常生活に溶け込んでいるのだとか。そしてルーティンのようにYouTubeのおすすめをみているので、同じような意見のフィルターバブルの中で過ごしていいます。その視聴傾向に、新しいものへのチャレンジは無いようです。
心配しているのは、コメント欄で考えを決めるという学生も多く、極端な意見の方に傾く傾向があるということです。
このリポートの第1回でも紹介しましたが、大学生よりさらに若い10代は、「信頼するメディア」としてSNSなどの個人発信を挙げる結果が初めて出ました。そうした状況にどう対処していけばいいのでしょうか。
大手メディアでも個人発信は重要、ただし課題も
そこで解決策の一つとして挙げるのが、大手メディアも個性を出して発信をすることだといいます。個が見えてキャラが立って専門性があり、そこに圧倒的な情報量や信頼性も加わればニーズにマッチングするはずで、例えば米ABCにはエネルギッシュで膨大な情報を持っている名物政治記者がいて、親しまれているといいます。「困った時のこの人」がいれば、大手メディアでも若い人たちはありがたがるのではないかと。
その一方で、難しさも指摘します。テレビ局員が個人を前面に出した時、ネットで荒れたらどうするのか。確かに私も大手新聞社の若手記者から、「会社は個人でもどんどん発信しろというが、もし炎上でもしたらどうしてくれるのか」という話を聞いたことを思い出しました。だからこそ、組織がサポートすることが大事だと小西さんは指摘します。
「信頼こそが価値。それを築くため、大手はやれることにたどり着くべき。個人がメディア化することが相乗効果を生んでいく」
個人メディアで「若者が見るジャーナリズム」は可能か?その実践例
もう一人の登壇者は、「RICEメディア」を運営するTomoshi Bitoの社長、廣瀬智之さんです。SNS上では「トム」で知られる廣瀬さん自身が登場するショート動画は、TikTokなどを使っている人なら一度は見たことがあるのではないでしょうか。それほど人気を博していて、これまでの配信動画は300本、総フォロワー数は50万人で、総再生回数は3.2億回だといいます。
わずか7人ほどの体制の会社で、29歳の廣瀬さんが最年長。20代前半が活躍しています。廣瀬さん自身、もともと報道志望でしたが、ジャーナリストの発信がどれくらいの人に届いているのかに疑問を抱いていました。「意識高い」と言われる感じをなんとかしたい。そして本当にみんな無関心なのか。
指摘するのは、情報の量が増えすぎだということです。そもそも従来は、情報は幕の内弁当のような形で届けられていました。それがいまやビュッフェ状態。限られた時間の中で、最初はハンバーグや寿司など、好きなものから食べ始め、社会的なコンテンツは後回しということになっています。Z世代はYouTubeでおすすめばかり見ている。「無関心ではなく未認知」なのだと考えました。
そこで、ショート動画は有効ではないかと考え、従来型の報道のスタイルではない、「常に前向き」で波風を立たせないRICEメディアのソリューションジャーナリズム を考え出したそうです。
ただ、運営には課題もあるとのこと。