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【諸永裕司のPFASウオッチ】最も深刻な飲み水の汚染が発覚した岡山・吉備中央町は、それでも血液検査を行わないのか

「永遠の化学物質」として問題になっているPFAS(有機フッ素化合物)の最新情報を、全国を飛び回って伝えているフリージャーナリストの諸永裕司さん。「PFASウオッチ」の第5回は、岡山からのリポートです。

高い数値が出ても虚偽報告をしていた町

水道水からきわめて高濃度のPFASが検出されていたことが発覚してから1カ月あまり。岡山県の真ん中に位置する吉備中央町で11月22日夜、3度目となる住民説明会が開かれた。

2020年に800ナノグラム、2021年に1200ナノグラム、2022年は1400ナノグラムと、国が定める水質管理の目標値の16〜28倍の数値を検出しながら、町は岡山県に報告していなかった。2020年については「1ナノグラム」と虚偽の報告をしていた。

汚染源は、活性炭を扱う会社が15年ほど前から野積みにしていた、使用済みの活性炭とみられるが、水道水がいつから汚染されていたのかはわからない。確かなのは、円城浄水場管内の約千人がきわめて高い濃度のPFASを体内に取り込んでしまったということだけだ。

約30トンの使用済み活性炭がおかれていた場所。活性炭はすでに、会社が別の場所に移動させていた。県の調査で450万ナノグラムが検出された

説明会では、町が設けた「健康影響対策委員会」で委員長を務める岡山大学大学院の頼藤貴志教授(疫学・衛生学)がマイクを握った。

熊本大学の学生時代から30年にわたって、胎児性水俣病患者にかかわってきたと自己紹介した後、直近の特定健診などの結果を見る限り「健康影響はない」との見方を示した。

対策委員長が「僕もわからないです」

20分ほどの説明を終えると、会場に集まった100人あまりの町民から次々と手が上がった。

頼藤教授が「結果が出ても、どう判断したらいいかは難しい」「プラスもマイナスもある」と口にしたこともあり、質問は血液検査に集中した。

住民説明会では1時間以上、質問が途切れることがなかった

「血液検査の結果と健康状態の変化、その両者を照らし合わせることで初めてPFASによるものかどうかが明らかになる。二つを同時に行うことが大前提になるんじゃないですか」

「これだけの人数で(高濃度のPFASに汚染された水を飲ませる)人体実験したんだから、きちんとデータは後世に残すべきじゃないですか」

「通常の何十倍もの濃度の水を飲まされて、我々は安心できないんです」

PFASについては委員長を引き受けてから学んだという頼藤教授は、住民の声に耳を傾けつづけた。ただ、献血をするのは可能なのかと問われると、戸惑いを隠さなかった。

「僕もわからないです」

さらに、ある住民はこう訴えた。
「われわれにとっての『臍の緒』は、血中濃度なんですよ」

胎児性水俣病の子どもたちが「患者」と認められたのは、残されていた臍の緒からメチル水銀が検出されたからだったという頼藤教授の話を受けてのものだった。

「証拠を残しておかないと、我々の『臍の緒』がなくなってしまうんです」

頼藤教授は委員会で検討したい、と答えた。

高濃度の汚染水を配水していた円城浄水場

非公開の会合で何が語られたか

この5日前、委員会の第1回会合が非公開で開かれていた。

関係者によると、議論をリードしたのは、9人の委員のうちでただひとり、PFASについて研究実績がある国立環境研究所の中山祥嗣・曝露動態研究室長だった。

中山室長は、水道水中のPFASの値が高くなってから10年に満たないと推測されるとして、
「血中濃度を測る必要はない」
との考えを示した。

そのうえで、もし行うなら、コストを考えて対象を50人くらいにしてはどうかと提案した。さらに、赤ちゃんに影響が出る可能性は否定できないため、これから妊娠を考えている女性には検査をする意義があるとも話したという。

活性炭置き場の下を流れる沢

行政による日本初の血液検査は行われるのか

血液検査をするかしないかを最終的に決めるのは委員会なのか、町長なのか。説明会の終了後、私は、山本雅則町長に直接たずねた。

「最終的には町ですけど。知見のある先生方に方向性を出してもらわんと。それだけの力が(町には)ないから。ただ、間違っても、カネがいるからやめようなんて考えはないです。町民の思いはよくわかっていますから」

環境省は、汚染が見つかった地域での血液検査について「血中濃度の基準もなく、結果が出ても健康への影響を評価することができない」ため、実施しないとしている。

しかし、汚れた水を飲ませたのは、高濃度という結果が出てからも配水を続けた町の責任であることに疑いはない。しかも、公表もしていなかった。

水源のダムの水から1000ナノグラムを超えるPFASが検出された。町は現在は取水を止めている

血中濃度のデータがなければ、今後、健康への影響が出ても、住民は証明する手立てがない。それだけに、町は住民の体内汚染について調べ、健康を観察していく責任を負っているのではないだろうか。

日本で初めて、行政による血液検査が行われるかどうか。結論は来年3月までに出すという。

行政による血液検査は日本では実施されていませんが、企業では密かに行われていました。現在配信中のスローニュースでは、静岡県にある化学メーカーの工場で、今から40年以上前の1981年から血液検査が行われ、きわめて高い濃度が検出されていたことを伝えています。

諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄の密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com

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