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【スクープ】広島の警察で“カラ出張”の疑い 県警は内部告発を最近まで放置か

取材・執筆 フロントラインプレス

【広島県警「カラ出張」①】
広島県福山市内の警察署で2019年から2020年にかけ、組織の指示によるカラ出張が何度も繰り返され、実態のない“出張”に対する旅費や時間外手当などが公金から支出されていた疑いがあることが、調査報道グループ「フロントラインプレス」の取材でわかった。こうした行為は以前から長期間、組織内で行われていた疑いもある。


フロントラインプレスの取材によると、カラ出張を指示された警察官の1人は、2021年ごろに広島県警内部でこのカラ出張が問題になりかけた際、事実上の口止めをされたと証言している。

この警察官は現職中の2022年3月、「警察官は決して不正に手を染めてはならない。自分も関わった一連の行為は犯罪であり、指示した者も含め、全容の解明が必要だ」として、広島県警本部の人事担当者に事実関係を申告。そのうえで、組織内部の不正行為などをチェックする広島県警監察官室に対して一連の不正事案を口頭で伝え、その翌日にはメールで正式に公益通報(内部告発)した。ところが、この通報はごく最近まで放置されていたという。

カラ出張は、実際には出張していないにもかかわらず、書類を偽造して出張を申請する行為を指す。出張の事実がないにもかかわらず、旅費(交通費・宿泊費など)や日当などを手にすることになるため、詐欺、横領、虚偽有印公文書作成、電磁的記録不正作出・同供用などの罪に該当する恐れがある。

内部通報した男性の代理人を務め、警察不正に詳しい清水勉弁護士(東京)は「この男性は自らカラ出張にかかわっていたのだから、彼の通報は公益通報というより、犯罪の申告『自首』に相当する。広島県警がそれを放置して不正の捜査に着手しなかったのなら、警察内部にいるかもしれない主犯や共犯をかばったことになる」と指摘している。

広島県警はフロントラインプレスの取材に対し、「個別の案件については、お答えは差し控える」(広報課)としている。

日本警察が組織的な不正経理を初めて公式に認めたのは、2003年に発覚した北海道警察の裏金づくりだった。不正支出と認定された公金約9億6000万円(利息含む)が国庫などに返納され、道警本部長ら235人が懲戒処分。加えて不正に関わった計約2750人が厳重口頭注意、口頭注意になった。道警の警察官・警察職員の4分の1が何らかの処分を受けるという警察史上に例のない出来事だった。

北海道警察の組織的裏金づくりを追及した調査報道キャンペーンの第1報=北海道新聞、2003年12月3日朝刊。捜査の経費として使用されるべき「捜査用報償費」(道費)が道警ぐるみで不正に使用されていることを報じた。

あれから20年。

時の小泉純一郎首相が「日本警察全体の問題だ」として是正を命じたにもかかわらず、警察内部の組織的な不正経理は現在も一部で続いている可能性が出てきた。

“カラ出張”の経緯を明らかにする

福山市内の警察署でカラ出張に関わり、のちに公益通報したのは40代の男性。上席の指示を受けた2019年当時の階級は巡査部長だった(2022年3月末に退職)。

フロントラインプレスは、この巡査部長の証言のほか、関連するメールの写し、関係書類、県警側と巡査部長の会談記録(備忘録)なども入手した。それらを元に判断すると、カラ出張は次のような経過をたどったとみられる。

巡査部長は公安部門の警察官で、当時は福山市内署の警備課に勤務していた。公安部門は過激派などの情報を収集し、動向を注視するのが主な任務。刑事部門のように容疑者を逮捕して犯罪を立件していくケースは必ずしも多くない。この巡査部長も日常的には特定の組織や人物に関する情報を収集することが主な職務だった。

(イメージ)

警備課の通常捜査では、捜査員が「協力者」と接触する際、協力者保護やカモフラージュの観点から数人で態勢をつくり、捜査員はその都度、事前に打ち合わせた通りの行動を取ることとされていた。「カラ」ではない本当の捜査では、移動に警察車両やマイカーを使うことが多く、高速道路のETCカードは警察署に常備されているものを使う。

「エアーでよい」 最初の指示は2019年に

巡査部長に対して最初にカラ出張の指示が出たのは、2019年5月だった。着任間もない捜査員がある協力者と接触する際に「カラ」の指示が出されたという。

接触場所は福山市内から相当に離れた場所。この捜査員と協力者の接触では、別の捜査員が高速道路を使って別行動で接触現場に行き、接触を確認。その時刻や状況を県警本部に逐次、電話で報告することになっていた。

(イメージ Alexandre Boucher/Unsplash)

ところが、そのころの接触で“確認役”に起用されたこの巡査部長は、事前に上席から次のような命令を受けたという。

「朝も早いし、体制も弱くなるから現場には来なくてよい。エアーでよい」「本部報告用の実績は要るから出張願は出しておけ」
「出張願との整合性を出すために時間外もつけておけ」
「(他の警察署でも)同じ方式でやっていたから、まったく問題はない」

目的地へ向かう際に必要なETCカードは警備課の捜査員に使わせると称して、あらかじめ警備課の者が会計課から借り受け、課内で保管している。だから、遠方への出張願が出ているのにETCカードを借りに来ないのは変だ、と会計課に不審がられる心配はない、との説明もあったという。

現場に行かなくても出張願を出せば、規定による旅費が本人の口座に振り込まれる。「時間外」を申請すれば、働いていないのに時間外手当が振り込まれる。

カラ出張の指示が出始めた当初、この巡査部長は上席から「上に話は通っている」などと聞かされていたが、指示が繰り返されるうち、違法行為に加担させられているのではないかと思うようになった。それでも、上意下達が絶対視される警察組織内では命令に背くことができず、巡査部長はカラ出張を繰り返したと証言している。

自ら残した記録などによって確認できる「カラ」は、2020年2月までに計6回。その間は、他の捜査員も同様の行為を繰り返していたとみられるという。

この問題について、フロントラインプレスは広島県警に対し、①福山市内の警察署で上記期間中にカラ出張が繰り返されていた事実を把握しているか ②把握している場合、それはどんな内容か ③関係者の処分は行われているか――を質問した。

これに対し、同県警は「個別の案件については、お答えは差し控える」とした上で、「一般論で申し上げれば、不正行為を認知した場合は、必要な調査や捜査を尽くし、事実に即して厳正に対処する」(広報課)と文書で回答を寄せた。

広島県警察本部

広島県福山市内の警察署で繰り返されたとされるカラ出張。一連の不正は、どのような形で実行されていたのだろうか。現在スローニュースで公開中の『警察の“カラ出張” 内部で「エアー」と呼ばれたその方法を明らかにする』では、「フロントラインプレス」が入手した関係者の証言や書類、メールの写しなどを分析し、見えてきたその詳細を明らかにしている。