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報道の役割はどうあるべきか、それを再認識させてくれるTBS報道特集の兵庫県知事選と立花氏発言の検証報道
デマ、誹謗中傷の拡散に歯止めをかけられない酷い状況が続いています。その一方で、従来、情報発信を担ってきたメディアやジャーナリズムは力を失っているという言説も見られ、実際、関係者の中には自信を失ったり、報じることそのものにリスクを感じて後ろ向きになっている様子も見られます。
そんな中で、TBSの報道特集が、1月25日と2月8日の2度にわたって、兵庫県知事選挙で拡散されたデマや誹謗中傷を真正面から取り上げ、検証する特集を発信しています。
1月25日の放送では、亡くなった竹内英明・元兵庫県議会議員が「でっちあげをしていた」とする立花孝志氏の発言などを検証。このうち、元県民局長の妻のメールは竹内元県議が偽造して送ったものだとする発言については、事実に基づかないものだと指摘しています。
報道の中で特に注目したのは、竹内元県議の死後、「警察から事情聴取を受けていて、逮捕を恐れて死んだ」とする立花氏の投稿で竹内元県議への批判の投稿が増えたのに対し、新聞3紙が兵庫県警の関係者への取材をもとに「そうした事実はない」と報じると、竹内元県議を擁護する投稿が批判の4倍拡散されたということです。報道によって誹謗中傷に一定の歯止めがかかったという事例になりました。
番組の最後でも、「メディアは面倒くさいと立花氏の発言に向き合ってこなかった。愚直に真実を追い、少数派になっても事実に基づいてダメなものはダメだを声を上げ続ける必要がある」とキャスターの日下部正樹さんが語っていました。その態度、覚悟を具現化した報道だったと思います。
報道してこなかったことを含め、メディア自身も責任を免れないことがあります。
番組では元宮崎県知事や衆議院議員を務めたタレントの東国原英夫氏に対し、「警察から事情聴取されていたと聞く」と投稿したことを問い詰め、事実関係を何ら確認できていない話を平気で拡散してしていたことを明らかにしています。こうしたリテラシーが欠如した人物がどれだけ同じように拡散したことでしょうか。ただ、それはネットならではのものではなく、テレビ自身に原型があったと言えます。
リテラシーのない人物に根拠不明の発言の機会を与えてきたワイドショーや、裏どりさえしていない不確かな情報を「疑惑」として発信してきたゴシップ記事。確かにそういうものも存在し、いまのネットでの発信の素地を作ってきたのではないでしょうか。今回の番組にもあったように、報道機関は「そうしたものと一線を引く」トラストな情報基盤であることが必要です。そして、そのためには事実でないものには事実でないと厳しく指摘する報道を躊躇している場合ではありません。
2月8日の放送ではさらに、誹謗中傷の原因ともなった、立花氏に渡された一枚の文書について検証しています。
この番組の中でも、兵庫県のアンケートが「信用できない」とされた背景に、大手メディアが「パワハラ見聞き4割」と乱暴な報道をしたことが信頼を失わせることにつながったと報じています。もちろん、メディアとて間違えないことはありえないので、間違えたら訂正すればいいだけですが、これは間違い以前の、意図的にフレームアップした報道で、大きな問題です。
「取材に行くと危険だ」「記者を守る必要がある」そんな声もメディアのデスククラスからは聞こえてきます。確かにそういう側面もあるでしょうが、そのままで本当にいいのでしょうか。偽情報・誤情報は人の命も奪います。「ファクトチェック」などと大上段にかぶる必要は全くなく、愚直に、何が事実かを追い求める報道が今こそ必要で、報道特集の一連の報道はそれを再認識させてくれるものでした。(熊)
このコラムは、あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしいという方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツなどをおすすめしています。
スローニュースは神戸新聞とのコラボで、兵庫県知事選での立花氏の「コバンザメ」戦略の効果について、データで検証する報道も発信しています。👇
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