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【諸永裕司のPFASウオッチ】「公害という言い方やめる」わずか10日で前言を翻した静岡市長は、前日に会社トップと面会していた!

旧デュポン清水工場によるPFAS(有機フッ化化合物)汚染は「公害」で、会社は「市民に対して説明する責任がある」。スローニュースのインタビューに明確に答えた難波喬司・静岡市長が、わずか10日後の5月24日に開かれた記者会見で、あっさりと前言を翻した。「公害という言い方はこれからはやめる」「いますぐ説明が必要だとは伝えていない」。なぜそんな発言に転じたのか。市長が会見の前日に会っていた人物とは――。

フリーランス 諸永裕司

「公害という言い方はやめる」

驚きの発言は5月24日に静岡市役所で開かれた定例記者会見でのものだ。中日新聞の記者からの質問を受け、次のように語った。

難波市長「やはりちょっと気をつけないといけないのは、環境基本法に公害という定義がありますから、定義がある以上、あまりその定義と外れた形で公害という言葉は使わない方がいいのかなというのは改めて思っているところですので、公害という言い方はこれからちょっとやめてこうかなと思っております」

これはおかしな話だ。「公害の定義と外れた形になる」というが、そもそもインタビューでは、環境基本法(第2条3項)に基づいた総務省の見解を示した上で尋ねている。

総務省のサイトより

当時のインタビューからそのまま抜粋しよう。

――総務省は、公害について、次のように定義しています。「事業活動に伴って生じる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音・振動、地盤の沈下、悪臭、健康や生活環境への被害が生じること」。清水工場による汚染がこれに当たるかどうか。どうお考えですか。

難波市長「公害です。公害以外のなにものでもないですよね。法律に照らして厳密にみたわけではないですが、実態的には公害ということで十分だと思います。公への害ですから」

確かに「法律に照らして厳密にみたわけではないが」としてはいるものの、その上で「実態的には公害ということで十分」と言い切っている。それを「公害という言い方はこれからはやめる」とは、事実上の発言撤回とみてもいいだろう。

市民への説明も「いますぐ必要だと伝えていない」

会社から市民への説明についても、当初のインタビューでは「必要だ」と答えていた難波市長。しかしこれも随分スタンスが変わってしまったようだ。

当初のインタビューにはこのように答えていた。

難波市長「市民に対して説明する必要はあると思います。(中略)はっきり申し上げますが、この会社から公式見解が出たことはない。工場の近くだけではなく、数キロ離れたところでも地下水の濃度が高いという実態に対しても、会社から何のコメントも出ていないというのが実態ですね」

これがどう変わったのか。記者会見ではこのように答えている。

5月24日の記者会見での難波喬司市長 静岡市のYouTubeより(サムネイルも)

――住民説明会について、議会の答弁でも「住民から要望があれば検討したい」というふうにありましたけれども、市長は住民説明会を会社がやるべきというスタンスでしょうか?

難波市長「やはり、会社としての説明というのは必要だと思う。どの範囲を対象に説明されるかも、それも会社の判断でまず必要だと思います」

――市長から住民説明会をやった方がいいですよという話は出なかったのか?

難波市長「住民説明会については、三井ケマーズさんは「十分やっている」というご理解をされていましたけれども。『まだ、これから課題はあるかもしれませんね』というお話をいたしました。(略)濃度の濃い地域が広がっているところがありますので、『場合によってはそちらも必要かもしれませんね』と。
ただ、今そちら(工場から離れても濃度の高い地域)から、説明が必要だという話はあまり大きくいただいていませんので、今すぐ対応が必要だとは三井さんにはお伝えしていないですね」

要するに、説明は必要だが誰に説明するかは会社の判断。そして今のところ高い濃度が検出された場所でも住民からの要望がないので、住民に向けて説明するよう会社に求めることはしないということだ。

「会社からの公式見解は出ていない」と断じた批判を引っ込め、従来どおり地元自治会、会社、静岡市の3者協議を重ねながら、内容は非公開のまま進めていくというのである。

前日に会っていたのは会社の社長と副社長

なぜ、前言を撤回するような事態となったのか。

それをうかがわせる話が、会見の質疑で飛び出した。

難波市長「昨日(5月23日)、三井・ケマーズフロロプロダクツ(MCF)さんの社長さんと副社長さんが来られて『今年はこんなふうにやっていきたい』という話をいただいています。口頭で、外に出すような資料ではないです」

なんと、会見前日にMCFトップの訪問を受け、内々に説明を受けたというのだ。

三井・ケマーズフロロプロダクツの入るビル(2023年7月撮影 東京・港区)

そのうえで、次のように語った。

難波市長「PFASの濃度、とりわけ三保のポンプ場のPFAS濃度を下げる努力を企業としてもしていただかないといけないので、どういうことをやるかについては発表できるものを持ってきていただきたい、というお願いをしました。早めにもってきていただくというお約束をいただきましたので、そういう状況にあります。やはり、もう少し頻繁に取り組みの状況をご説明いただくことが必要かなと思っております」

「先ほどの(注:SlowNewsでの)インタビューでは厳しい話をいたしましたけども、それが伝わったのかどうか、昨日おこしいただきましたので。これからも良い方向で三井さんといい意見交換ができればと思っています」

私のインタビューでは、会社の責任について「(汚染を)拡散させていた事実を認めることが大事」と語り、汚染対策費の負担について「(補償も含めた)法的なところまで含めてやる可能性はあります」と踏み込み、汚染者負担の原則について「検討している」とまで答えていた。

ところが、会社トップとの面会を終えると、批判的なスタンスを一転させ、協調路線へと舵を切ったようだ。

難波市長は会見で、汚染された水の活性炭による浄化や工場内にとどめる措置が必要との認識を示したうえで、こう語った。

難波市長「工場内の高濃度のPFASを含んだ水が何かの形でまわりに出てきているはずで、それを工場内に閉じ込める努力をいろいろされていますから、それについても『こんな取り組みをする』とおうかがいしました。そういう取り組みをしているんであれば、外向けに『いつまでに、これぐらいの濃度に下げるという目標でやってる』と発表できないでしょうかということで、『じゃあ、検討します』というお話をいただいております」

MCFは住民に説明する社会的責任があるのではないか。私が連載「デュポン・ファイル」に関連してそうたずねた際、MCFは次のように回答している。

「会社方針として、正確かつ適切に情報をお伝えするため(略)記者会見も予定しておりません」

もし、このまま市民への説明が十分に行われないのであれば、汚染をもたらしたMCFと結果的に変わらない。

静岡市のホームページには、難波市長の言葉が載っている。

<社会を下支えし、一緒に走る「温かい市政」を行っていきます>

静岡市はだれと一緒に、どこへ向かおうとしているのだろう。


諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com