元自衛官・五ノ井さん裁判で「女性隊員の体に触る動画」「隊の飲み会で全裸の隊員が性行為の体位をする動画」の存在が次々と発覚…露呈した“体質”
陸上自衛隊郡山駐屯地(福島県)に勤務していた元自衛官・五ノ井里奈さん(23)に格闘の技をかけて覆いかぶさり、腰を振って下半身を押し付けたなどとして、強制わいせつの罪に問われた元自衛官3人(いずれも懲戒免職)に対する被告人質問が、9月12日に福島地方裁判所(三浦隆昭裁判長)で開かれた。
在宅起訴された元自衛官の渋谷修太郎(30)=山形県米沢市出身=、関根亮斗(あきと)(29)=福島県須賀川市出身=、木目沢佑輔(29)=福島県郡山市出身=の3被告は、いずれも6月29日の初公判で、わいせつ行為にあたる下半身への接触など、容疑を一部否認している。この日は、渋谷被告と関根被告に対する被告人質問が行われた。
渋谷被告は、技をかけて腰を振ったことを認めたが、レイザーラモンHGの芸を真似て笑いを取っただけだと主張。関根被告は、あくまでも柔道技の一環として五ノ井さんの両腕をバンザイの状態に上げて、上半身を密着させる「マウント」を取ったと釈明を重ねた。関根被告に柔道の経験はない。
そして今回の裁判で、中隊の体質を露呈したような驚きの「動画」の存在が明らかになる。
1人目の渋谷被告「技をかけたが、誰も何も反応しなかったから笑いを取ろうとした」
事件が起きたのは2021年8月3日。北海道矢臼別演習場の宿泊施設208号室で開かれた宴会の席だった。
渋谷被告と関根被告の証言によると、当時、両被告は209号室にいた。午後7時ごろ、2曹だった元上司(懲戒免職)に呼ばれて隣の208号室へ移った。そこには、X1曹(懲戒免職)と元上司、3回目の裁判で証言した男性隊員らがいた。
部屋に入った渋谷被告と関根被告はグラスを持ち、部屋奥の窓付近にいたX1曹と元上司に向けて乾杯するしぐさをしてあいさつをした。
先に証言台に立った渋谷被告は、X1曹にこう言われたという。
「ちょうど渋谷班長が来た。格闘指導官だから首ひねりできっぺ」
弁護人:渋谷被告が首ひねりという技をするにあたって、相手を五ノ井さんと指定したのは誰ですか?
渋谷被告:X1曹です。
弁護人:被告人は自分の意思で五ノ井さんに首ひねりという技をかけようとしたのでしょうか?
渋谷被告:違います。上司であるX1曹から「技をかけろ」と言われたためです。たとえ、宴会の場でも断れませんでした。
弁護人:宴会であっても断れないというのは、自衛隊内の上下関係のため、上司であるX1曹からそう言われたら断ることができないという意味ですか?
渋谷被告:そうです。
弁護人:首ひねりをする際、五ノ井さんに何か声をかけましたか?
渋谷被告:「(技を)かけるよ」と声をかけました。五ノ井さんは「はい、いいですよ」と答えました。
弁護人:首ひねりとは、両手で相手の首を押さえるような技なのでしょうか?
渋谷被告:いえ、左手で相手の後頭部を持って、右手で相手の顎付近を持ちます。
弁護人:それで相手の体のバランスを崩して倒す技という理解でよろしいでしょうか?
渋谷被告:そうです。
渋谷被告は、土足で床が汚れていたので、2段ベッドの下段に五ノ井さんを倒した。互いの頭が上段にぶつかってケガをする恐れがあったので、ゆっくり技をかけたという。
弁護人:今回の裁判で、腰を振ったこと自体は認めていますが、そのような行為をした理由は何かありますか?
渋谷被告:X1曹から「技をかけろ」と言われて、技をかけたが、誰も何も反応しなかったためです。
弁護人:誰も何も反応しなかったため、どうしましたか?
渋谷被告:笑いを取ろうと思いました。
弁護人:では、実際に被告人が腰を振った時の体勢を説明してください。
渋谷被告:五ノ井さんの左脚を自分の右手で持って、自分の右太ももの上に五ノ井さんのふくらはぎの下らへんが付いていた状態です。
弁護人:五ノ井さんの右足はどういう状態でしたか?
渋谷被告:(ベッドの外に出て)地面についてました。
弁護人:被告人の左足はどういう状態でしたか?
渋谷被告:自分の左足は地面についてました。
弁護人:そうすると被告人は、左足をベッドの外に着き、右足をベッドの上に乗せた状態でしたか?
渋谷被告:そうです。
弁護人:あなたの両足が完全にベッドの上に乗った状態になったことはありましたか?
渋谷被告:(語気を強めて)ありません!
弁護人:あなたが、五ノ井さんの体に覆いかぶさるような体制になったことはありますか?
渋谷被告:ありません。
弁護人:あなたの陰部付近と五ノ井さんの陰部付近が接触した、もしくは接触したと感じられたような場面はありましたか?
渋谷被告:ありません。
弁護人:覆いかぶさったことはないということですが、体が密着したような状態になったことはない、ということでよろしいでしょうか?
渋谷被告:はい。
弁護人:令和3年9月の取り調べで警務隊から、五ノ井さんがどういう被害申告をしていると聞いていましたか?
渋谷被告:1人が手を押さえ、1人が足を押さえ、1人が馬乗りになって腰を振ったという被害申告を(警務隊から)聞きました。
弁護人:今のお話は3人の方が同時にということでしたか?
渋谷被告:そうです。
弁護人:その被害申告の内容について何か変化があったということは聞いていましたか?
渋谷被告:聞いております。令和4年9月ごろから被害申告が1人ずつに技をかけられ、わいせつな行為をされたと聞いております。
「笑いはとったが、性的な意味合いはない」
弁護人:あなたは腰を振ったことについて、何か性的な意味合いはあったのでしょうか?
渋谷被告:ありません。
弁護人:先ほど笑いを取るためとおっしゃっていましたが、性的な意味合いはないということだったのでしょうか?
渋谷被告:はい。
弁護人:技をかけたあと、被告人と五ノ井さんはベッドから降りた?
渋谷被告:はい。
弁護人:被告人は五ノ井さんに対して何か言葉をかけましたか?
渋谷被告:「ごめんな」と声をかけました。
弁護人:「ごめんな」というのは、何に対して謝っているのでしょうか?
渋谷被告:X1曹からの指示を受けて、技をかけてしまったことに対してです。
弁護人:あなたが「ごめんな」と言ったことに対して、五ノ井さんは何と答えましたか?
渋谷被告:「全然大丈夫ですよ。私、渋谷班長のこと大好きなんで」と言われました。
弁護人:令和4年10月26日、検察官による取り調べの供述調書には「セックスの疑似行為」という言葉が出てきていますが、あなた自身がそう表現したのですか?
渋谷被告:違います。検察官の方から「疑似行為だろう」と何回も言われ、押し問答になり、埒が明かないと思い、「そうです」と答えてしまいました。
弁護人:あなたとしては「セックスの疑似行為」という言葉は本意ではなかったということですか?
渋谷被告:そうです。
弁護人:令和3年8月3日、矢臼別演習場について。渋谷被告と同じように五ノ井さんに技をかけた人は他にいましたか?
渋谷被告:いました。関根さんです。
弁護人:関根被告が技をかけた時、どういう体制になっていたか覚えていますか?
渋谷被告:技をかけた後は、覆いかぶさるようになっていました。
弁護人:その後はどうなったのか、見ていましたか?
渋谷被告:見ていません。
弁護人:なぜ見ていなかったのか、説明できますか?
渋谷被告:目を離したか、208号室から出て行ったかと思われます。
弁護人:木目沢被告が五ノ井さんに技をかけた場面を見ましたか?
渋谷被告:見ていません。
弁護人:木目沢被告は208号室にいたのかどうか、覚えていますか?
渋谷被告:そもそも覚えていません。
弁護人:令和4年9月に検察審査会が不起訴不当の判断を出した後、警務隊から改めて事情聴取があった?
渋谷被告:ありました。
弁護人:具体的にどのくらいの頻度でありましたか?
渋谷被告:毎日、午前午後、夜、休日も呼ばれたりしました。
弁護人:被告人に事情を聞いていたのは、東北方面特科連隊や東北方面隊ということで間違いないですか?
渋谷被告:はい。
弁護人:令和4年9月29日に陸上幕僚長が記者会見で五ノ井さんに対するセクハラの事実を認める会見をしました。事前に会見が行われることを聞いていたのでしょうか?
渋谷被告:はい、前日に聞かされました。
弁護人:その際、あなたはどのように感じましたか?
渋谷被告:事実を認めていないのになぜ謝るんだと思いました。
「土下座をしてくれ」と自衛隊から指導を受けて謝罪した
ここで2回目の裁判で明らかになった、自衛隊側が用意した五ノ井さんへの謝罪に際しての「想定問答」のことについて弁護人が尋ねた。
弁護人:令和4年10月17日、被告人は、神奈川県内の自衛隊施設で五ノ井さんに直接会って謝罪をしていますね。これはあなた自らの意思で謝罪をしたいということを申し入れたのですか?
渋谷被告:違います。自衛隊の方から、謝罪に行くようにと言われました。
弁護人:自衛隊の方から、何かしら指導があったということですか?
渋谷被告:そうです。
弁護人:謝罪に行く前に自衛隊の方から、何か書面の提示はありましたか?
渋谷被告:ありました。謝罪に行く1週間前くらいに書面をいただいたような気がします。
弁護人:令和4年10月13日付けで、「五ノ井元陸士に対する謝罪要領等について」という書面が出ていた。具体的にどんなことが書いてありましたか?
渋谷被告:私、関根さん、木目沢さん、元上司の4人が五ノ井さんに対して直接謝罪をするということ。内容は、長きにわたり不快にさせてしまったということと、Q&A方式で想定問答が記載されていました。
弁護人:想定問答は4名とも共通でしたか?
渋谷被告:基本的には4名共通でしたが、「渋谷3曹限定」というものがありました。
弁護人:共通のQ&Aに加えてあなたに関しては他のQ&Aがあったということですね。
渋谷被告:はい。
弁護人:実際、その証言を前提に何かしら自衛隊の方から具体的な指導はあったのでしょうか?
渋谷被告:ありました。
弁護人:それは個別の指導ですか、それとも全体に対してでしたか?
渋谷被告:個別指導です。表情、声のトーン、「土下座をしてくれ」、「謝ったらいい方向に進むから」などと指導されました。
弁護人:具体的に誰からそういった言葉を受けたのでしょうか?
渋谷被告:大隊長とY准尉です。
弁護人:その指導はどのくらいの時間受けましたか?
渋谷被告:30分ぐらいだったと思います。
弁護人:被告人は五ノ井さんに対して謝罪文を渡していますね。これはあなたが書いたものをそのまま渡したのですか?
渋谷被告:違います。事前に方面特科連隊に提出して、添削されてかえってきて、それをもとに清書しました。
弁護人:謝罪文というのは、被告人が五ノ井さんに対してセクハラ行為をしたことを認めたという趣旨だったのか、そうではなかったのか、どちらですか?
渋谷被告:そうではありません。
弁護人:謝罪文および当日の謝罪については、どういう趣旨だったのでしょうか?
渋谷被告:五ノ井さんを不快にさせてしまったということです。
弁護人:令和4年10月26日の検察官の取り調べに対して、「本当のことを話して五ノ井さんに対することをしっかり反省したかった」というふうに供述していますが、これはどういう意味ですか?
渋谷被告:私の笑いを取るためにしたバカげた行動で五ノ井さんが長きにわたり不快になっていたからです。
検察官「そのような体勢で腰を振るのがなぜ面白い?」被告「……面白いから面白いんだと」
続いて、検察官による被告人質問でも技をかけた後に、腰を振った理由を改めて問われた。
検察官:何回くらい振りましたか?
渋谷被告:5、6回振りました。
検察官:腰を振ったのは、誰の指示でもなく、あなたの判断でしたか?
渋谷被告:そうです。
検察官:腰を振ろうと、いつ思いつきましたか?
渋谷被告:X1曹から「技をかけろ」と言われ、技をかけた後、誰も反応しなかった時に、思いつきました。
検察官:腰を振ったのは、笑いを取ろうと思ったということでしたね。なぜ笑いを取りたかったのですか?
渋谷被告:場がしらけていたからです。
検察官:なぜ腰を振れば、笑いが取れるんですか?
渋谷被告:自分は、自分で中隊のムードメーカーだと思っていて、自分のする行動にみんなが笑ってくれると思ったからです。
検察官:そのような体勢で腰を振ると、なぜ面白いのですか?
渋谷被告:……理由はありませんが、面白いから面白いんだと思います。
検察官:理由はないんですか?
渋谷被告:理由はありません。
検察官:セックスを真似たということではないということですか?
渋谷被告:そうです。
検察官:こういうことをしている時に声を何か出しましたか?
渋谷被告:レイザーラモンHGのように「ウェーイ」や「フー」と声を出しました。
検察官:なぜレイザーラモンHGのような声を出したのですか?
渋谷被告:その場で思いついたからです。
検察官:レイザーラモンHGというのはどういう芸をする芸人ですか?
渋谷被告:自ら腰を振って人を笑わせる芸。
検察官:それを真似したという意味ですか?
渋谷被告:そうです。
検察官:他の場面でも笑いを取るために腰を振ったということはありましたか?
渋谷被告:ありません。
検察官:この時が初めてですか?
渋谷被告:そうです。
検察官:「セックスの疑似行為」という言葉は、検察官が言った言葉ということですね。それは一度不起訴処分になった後に、福島地検いわき支部の検察官から言われたということでよろしいですか?
渋谷被告:そうです。
検察官:「押し問答になった」と言いましたが、どのようになったのですか?
渋谷被告:私はずっと「疑似行為ではない」と言っており、検察官は「疑似行為だ」と。「疑似行為ではない」「疑似行為だろ」という押し問答になりました。
五ノ井さんに「言わないで」と言ったのは、自分のバカげた行為が恥ずかしいから
検察官:腰を振った後に、五ノ井さんに「ごめん」と言ったのは、技をかけたことに対してかけた言葉だと言いましたが、技をかけたことだけにですか?
渋谷被告:そうです。
検察官:腰を振ったことに対する言葉ではない?
渋谷被告:はい。
検察官:「言わないでね」という言葉も五ノ井さんに言いましたね?
渋谷被告:はい。
検察官:それはなぜ言ったのですか?
渋谷被告:え、それは中隊の先任や中隊長に知られるのが嫌だったからです。
検察官:何を知られるのが嫌だったのですか?
渋谷被告:私の人を笑わせるためにとった行動です。
検察官:それを知られたらなぜ嫌なのですか?
渋谷被告:自分のバカげた行動が恥ずかしいからです。
検察:どのような点がバカげていると思うのですか?
渋谷被告:人を笑わせるために、その場で思いついたレイザーラモンHGのような行動をとったことです。
検察官:あなたは、腰を前後に動かしている時に五ノ井さんの顔は見ましたか?
渋谷被告:見てません。
検察官:なぜですか?
渋谷被告:理由はありません。
検察官:どこを向いていましたか?
渋谷被告:正面を向いていました。
検察官:五ノ井さんに対する後ろめたい気持ちから、顔を見ることができなかったと、供述していませんでしたか?
渋谷被告:それは記憶にあります。
検察官:話していたということですか?
渋谷被告:はい。
検察官:どういうところが後ろめたかったのですか?
渋谷被告:私のレイザーラモンを真似するような腰の動きや発声についてです。
取り調べで「触れたかもしれない」としたものの「思い返せば、絶対に当たっていない」
検察官:今回、あなたは着衣越しに陰部付近の接触したことについて起訴されていますね。意図的に当てたことはないという意味なのか、そもそも当たったことはないという意味なのか、どちらですか?
渋谷被告:当たったことはありません。
検察官:なぜそう言い切れるのですか?
渋谷被告:実際に覚えているからです。
検察官:当たらないように注意をしていたのですか?
渋谷被告:それもあります。
検察官:当たらないように気を付けながら腰を動かしていたのですか?
渋谷被告:気を付けながらというか、当たらないように腰を振っていました。
検察官:あなたの右太ももの上に五ノ井さんの左ふくらはぎの下の部分が当たっているような体勢でしたね。それからあなたの右手は五ノ井さんの左脚を押さえている体勢ですか?
渋谷被告:はい、持ち上げてから右手は抜いたと思います。
検察官:あなたの左足と五ノ井さんの体の右側はどのような位置関係でしたか?
渋谷被告:離れていました。30㎝以上はあったと思います。
検察官:あなたの右足が五ノ井さんのふくらはぎの下にあって、左足も五ノ井さんに近いところにある状態で、腰を前後に振ったとき、陰部が五ノ井さんに当たったことはないと、断言できるということですか?
渋谷被告:はい、断言できます。
検察官:検察官の取り調べであなたは、「このような位置関係だったらもしすると私の男性器が服越しに五ノ井さんに触れたかもしれない」という供述調書がありますが、その点はどうですか?
渋谷被告:書いてはありましたが、思い返せば、絶対にあたっていません。
検察官:いつ思い返して、そのような確信に変わったのですか?
渋谷被告:いつという時期は、自分でもちょっと覚えていません。
検察官:検察官の取り調べの後ということですか?
渋谷被告:そうです。
別の女性隊員の体に接触した動画が存在「周りに煽られてやった」
検察官:令和3年8月以外の場面で五ノ井さんに対して、体の接触等はありましたか?
渋谷被告:格闘訓練中にはありました。
検察官:訓練以外の場面ではどうですか?
渋谷被告:ありません。
検察官:お互い服を着た状態で五ノ井さんに抱きつくということはありませんでしたか?
渋谷被告:抱きついたことはありません。
検察官:五ノ井さん以外の他の女性隊員に対しても身体的な接触はありませんでしたか?
渋谷被告:一度はありました。それは、携帯のムービーで見せられました。自分はみんなにすごく煽られていた動画です。
検察官:それは誰に対する行為でしたか?