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「カラ出張」を内部告発した警察官が​​情報公開審査会で「公開証言」

取材・執筆 フロントラインプレス

カラ出張を何度も命じられ、不正に現金を受け取っていたという広島県の警察官が、ついに公の場に現れる。

今月30日に開かれる広島県情報公開・個人情報審査会で、「意見陳述」を行うことになったのだ。

この元巡査部長の男性(40代)は在職中、広島県警監察官室に「上長に命じられてカラ出張を繰り替えていた」と内部告発(公益通報)していたが、県警側は長く放置し、内部調査も事件捜査も進んでいない。

カラ出張には上長も関与しているとされ、他の警察署でも同様の行為が行われていた疑いもある。

男性自身の「告発」によって、組織的行為だった可能性もある広島県警の不正は解明に向けて動き始めるのか。


懲戒免職や逮捕・起訴を覚悟の上での内部告発

男性が「意見陳述」するのは広島県情報公開・個人情報審査会で、今月30日午後、広島県庁で開かれる。広島県警のカラ出張問題は調査報道グループ「フロントラインプレス」がスローニュース上で今年8月に初めて報じたが、男性が公の場に姿を見せ、自らの言葉で事実関係などを語るのは初めてだ。

フロントラインプレスの取材によると、男性は福山市内の警察署の警備課に勤務していた2019年から2020年にかけ、少なくとも6回のカラ出張を上長に命令された。そして架空の出張関係書類を作成して提出し、出張旅費や日当などを不正に受け取った。

元巡査部長の銀行口座の通帳、カラ出張による旅費が振り込まれたという(撮影・加工:フロントラインプレス)

男性はその後、「警察官は決して不正に手を染めてはならない。自分も関わった一連の行為は犯罪であり、指示した者も含め、全容の解明が必要だ」として、在職中の2022年3月、懲戒免職、逮捕・起訴されることを覚悟の上で、一連の事実を広島県警に内部告発した。

内部告発がどう扱われたか、県警は文書の開示を拒否

ところが、内部告発に伴う調査が進んでいる様子はなく、男性による犯罪の申告(自首)による事件捜査にも進展がないことなどから、内部からの告発で県警が動かないなら外に出て告発するほかないと考え、同月末、広島県警を退職。

自らの内部告発がどう扱われていたかの事実を知ろうと、2022年10月に2度にわたって、①自らが関与したカラ出張に関する経理書類 ②自らの内部告発の受理状況に関する公文書――を広島県警に情報公開請求した。

広島県警察本部

これに対し、県警側の回答は、文書があるかないかも答えないという「存否応答拒否」。そのため、これを不服とした男性側は広島県公安委員会に審査請求(不服審査の申し立て)を行い、同公安委員会は広島県情報公開・個人情報審査会に諮問していた。

カギはカラ出張の原資、国費か県費か

男性の代理人である清水勉弁護士(東京)は「カラ出張の原資が国費だったのか、広島の県費だったのか。その点も本件の解明の重大なカギを握っている」と指摘し、男性が開示を求めている経理書類の書式や内容に着目しているという。そのうえで、清水弁護士は次のように語った。

「元巡査部長は警備部門の警察官だった。それからすると、彼の関わったカラ出張の原資は法律上も制度上も国費の捜査費のはず。しかし、ここに来て県警側は“一連の出張は県費”だと言い張っているようだ。

国費でカラ出張が行われていたことが明らかになると、警察庁や国家公安委員長などが実情調査に取り組むべき課題となる。他の都道府県警察でも同様の不正経理が行われていないかという課題も出てくるし、そうなると広島県警内部だけで済まなくなる」

清水勉弁護士(撮影:フロントラインプレス)

「警察庁が県警の不可解な弁解を見逃しているのだとすれば、警察庁が国費の不正経理を許容しているということになりかねない。県警だけでなく警察庁までもがどう言い繕うかを懸命に考えているのではないだろうか」

元巡査部長の男性も取材に対し、「当時、私が作成した出張関連の書類は間違いなく国費用の経理書類。上司らの書類も私自身が作成した」と語っている。

2000年代前半以来、表面化してこなかった「警察の不正経理」

警察の組織的な不正経理は2000年代前半、「日本警察全体の問題」(当時の小泉純一郎首相)として全国的な問題になったが、そのほとんどは都道府県費を原資とする捜査用報償費や出張旅費などであり、国費は事実上、ノータッチだった。

一方、警察は上の命令を絶対視する強固な組織だ。不正経理という犯罪行為であっても、それが“組織の命令”で行われている以上、なかなか表面化しない。

実際、警察の不正経理をめぐって、現職や元職の警察官が自ら公の場で事実を語った事例は数えるほど。北海道警察釧路方面本部長を務めた原田宏二氏(故人)が北海道議会で組織的裏金づくりを全面的に認めたケース、同じく道警の元警察官が自ら住民監査請求を起こしたケース、さらには愛媛県警の仙波敏郎氏らが記者会見で実態を明かしたケースなどごくわずかだ(いずれも2000年代前半)。

元巡査部長はこれまでのフロントラインプレスの取材で「自分の罪を償い、不当に得た公金を返還したい。そして広島県警には、誰がどう関わっていたのか、不正の全容を明らかにしてほしい。警察が自浄作用を失ったら終わり。もう誰も警察を信用しなくなる」と語っている。

現在、スローニュースで配信中の『カラ出張疑惑、元巡査部長が取材にすべてを語った』では、フロントラインプレスのメンバーが元巡査部長に直接取材し、上長の関与や警察の組織的行為だった疑惑など、すべてを語っている。


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