【諸永裕司のPFASウオッチ】職場での深刻な体内汚染…しかし血液検査は行われてこなかった
「永遠の化学物質」として問題になっているPFAS(有機フッ素化合物)の最新情報を、フリージャーナリストの諸永裕司さんが伝える「PFASウオッチ」第3回は、職場でPFASを体内に取り込んでしまう「職業曝露」についてです。
「元従業員の血液検査をします」と宣言したのに…
11月7日、静岡県庁本館にある議会棟の一室で、PFASの講演会に招かれた。
<PFAS“連鎖”汚染>
汚染は土壌から地下水へ、地下水から飲み水へ、飲み水から体内に取り込まれるだけでなく、汚れた土や水を通してつくられた農作物や汚れた水のなかで生きる魚介類などにも広がっていく。その底深さを伝えたかった。
会議室には県議、市議、市職員、地元紙記者など20人ほどが足を運んでくださった。
講演の中で強調したひとつは、健康への影響がもっとも大きいとされる「職業曝露」についてだった。
仕事の過程でPFASに直接触れたり、吸い込んだりして、「永遠の化学物質」を体の中に取り込んでしまった人たちだ。アメリカの学術機関「全米アカデミー」はすぐにでも調べるべき、としている。
たとえば、SlowNewsで報じたように、三井・ケマーズフロロプロダクツ(MCF /旧三井・デュポンフロロケミカル)の清水工場でPFOAを使ったフッ素樹脂の製造にたずさわっていた工場労働者たちだ。
デュポンの内部資料で、血液中からきわめて高い濃度のPFOAが検出されたのは13〜23年前。映画「ダーク・ウォーターズ」で描かれたアメリカの工場などでの実例を思い起こせば、健康への影響が出ていたとしても不思議ではない。なにしろ、「体内の時限爆弾」と呼ばれているからだ。
MCFは報道からまもなく「元従業員や下請け労働者を含めた血液検査や健康診断の実施」を打ち出した。ただ、1カ月以上すぎてなお、具体的な方法、対象、実施時期について「検討中」とし、事実上、棚上げになっている。
その後、どうなったのか。
再質問を送ってから2週間ほどして、会社から回答があった。
つまり、MCFは血液検査を実施すると表明したものの、実際に行うとしたらどのように行うのか、行ったらどのような結果となったのかについて一切明かすことはない、と宣言したのだ。
米兵は血液検査を受けるが、米軍基地で働く日本人消防士たちには検査がない実態
労働者の安全を守るための法律には、必要があれば「国は疫学検査ができる」と書かれているが、厚労省は「これまで適用された事例はない」といい、個別の事案に対応する気配はない。
健康に深刻な影響をもたらす可能性のある「職業曝露」の実態は閉ざされている。
工場労働者とともに「職業暴露」が懸念されるのが基地の消防士たちだ。燃料を積んだ飛行機や船などを抱える米軍の空軍や海軍の基地で、PFASを含んだ泡消火剤を使った消火訓練を重ねてきたからだ。
6日発売の「週刊現代」にも書いたが、基地の消防隊員には、米兵と基地に雇用された日本人がいる。
「訓練で(泡消火剤を)打つと、一面『雪国』になるんです」
嘉手納基地の消防隊員の言葉だ。泡消火剤の交換や濃度測定は素手で行ってきたという。
いったいどれほどのPFAS を体の中に取り込んでしまったのか。
隊員たちの声を受けた全駐労は、雇用主となる防衛省との団交で、血液検査の実施を求めた。
「同じ仕事をしている米兵たちは血液検査が受けられるんです」
しかも、消防業務にたずさわる米兵への血液検査はアメリカでは法律で定められたものだ。
防衛省は答えた。
「検査はサンプリングが目的で、しかも任意です」
同じように、健康への影響とは切り離して現時点の血中濃度を測ることはできるはずだ。
防衛省は認めない。
「血中濃度が分かっても、健康への影響との関連ついての知見がありませんから」
これまで環境省が繰り返してきた説明が伝えられるだけだった。
在日米軍基地で働く消防隊員は699人(2022年4月現在)。
PFASによる汚染がさまざまに報じられるようになったが、まだ「被害」は確認されていない、と国はいう。
日本で初めて「職業曝露」が明らかになった、静岡県のMCF清水工場でのケースについて、現在配信中のスローニュースでは具体的なデータを入手して明らかにしている。
諸永裕司(もろなが・ゆうじ)
1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘 沖縄の密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
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