【スクープ】化学工場従業員の血液から検出のPFAS「健康への影響懸念」指標の最大400倍示す内部データ入手
フリーランス 諸永裕司
「永遠の化学物質」と呼ばれる有機フッ素化合物(総称PFAS)。静岡県にある化学メーカーの工場では長年、危険性を知らされないまま使われていた。そして、2000年代に密かに従業員の血液検査が行われていたことがわかった。今回、きわめて高い濃度のPFASを検出したことを示す内部資料を入手した。初めて明かされる、国内での職業曝露の実態とは。
今回、入手したデータは、アメリカの大手化学メーカー、デュポン社が米当局に提出していたものだ。
デュポンは高度成長期の1963年に日本で合弁会社を立ち上げ、「テフロン」の名前で知られるフッ素樹脂などを製造してきた。その拠点となる清水工場で2000年代、一部の従業員の血液中に含まれるPFOA(PFASの一種)の濃度を調べていた。
会社の名称は「日東フロロケミカル」から「三井・デュポンフロロケミカル」を経て、2018年に「三井・ケマーズフロロプロダクツ」となった。
清水工場では、デュポンの要請に基づいて2000年から2010年にかけ、26人の従業員に対して計51回の血液検査が密かに行われていた。
従業員の多くは、PFOAを使っていたことも、その危険性も認識してはいなかった。
ビロット弁護士が内部文書を持っていた
2年ほど前、デュポンのワシントン工場(米ウェストバージニア州)によるPFAS汚染を描いた映画『ダーク・ウォーターズ』が日本で公開された。
その直前、私は、映画の主人公のモデルとなったロバート・ビロット弁護士にインタビューした。そのとき耳にした言葉がずっと気になっていた。
「デュポンは日本の清水に工場をもっていて、その労働者の血液から高濃度のPFOAが検出されていたのです」
分解されにくく蓄積されやすいため、なかなか消えることがない。そのため「永遠の化学物質」と呼ばれるPFOAは、発がん性などが指摘されている。
東京では、汚染された水道水を飲んだ住民たちの血液検査で、半数以上から「健康が懸念される」とされる結果がでている。仕事でPFOAを扱っていた清水工場の労働者たちはいったい、どれほど体内に取り込んでいたのだろう。
いまさらではあるが、報じたい。そうメールを送ると、すぐに返信が届いた。
添付されていたのはビロット弁護士が訴訟の過程などで入手した文書だった。合計すると80ページあまり。そのなかに、デュポンから米環境保護庁(EPA)への報告書があった。
「DU PONT」の文字を楕円で囲んだ会社のロゴマークの下に、2008年12月16日の日付。デュポンの「ハスケル 健康・環境科学グローバルセンター」から「米環境省 公害防止・有害物質対策室」へ送られたものだ。
<PFOA職業サンプリング 日本・清水工場>
そう題された紙をめくると、数字が2列に並ぶ表がでてきた。