
【ついに刑事告発】港区職員による高齢者の連れ去り事件、警視庁と東京地検に「診断書を改ざん」の疑いで
年老いた親や親戚が、ある日突然消える。何か悪いことをしたわけではなく、犯罪に巻き込まれたわけでもない。連れ去ったのは、自治体の職員だった──。そんな“自治体による高齢者の連れ去り事件”が東京都港区で多発している。
フロントラインプレスはこれまでスローニュース上で、港区の連れ去り案件をいくつも報じてきたが、その1つについて当事者らが2月10日までに、港区の職員らを有印私文書変造・同行使の疑いで警視庁と東京地検に刑事告発した。担当の弁護士は「(高齢者を)社会から事実上抹殺しようと図ったことに起因する、誠に深刻かつ悪質な事案」と指摘し、許させない事件だと強調している。
フロントラインプレス/西岡千史
突然、父親が連れ去られ、入院先も不明に
刑事告発されたのは、2024年12月23日にフロントラインプレスが『【スクープ】何者かが診断書を改ざんか?裁判所も「後見は必要ない」と認めた父の入院先を港区はひた隠し、マンションも売却されそうになっていた!』と題して報じたケースだ。

当事者は港区に住んでいた90代男性と、他県に住んでいた長女の戸田洋子さん(仮名、60代)。
フロントラインプレスの取材によると、問題が最初に発覚したのは2022年5月。長女のもとに港区から郵便が届き、父の判断能力が低下しているため成年後見人の選任が必要だ、と記されていた。驚いた戸田さんがすぐに港区に電話したところ、すでに父は入院させたと言われてしまう。しかも、どこの病院かも教えられないというのだ。
困惑した戸田さんは都内や近郊の病院に電話をかけまくる。そしてダイヤル先が100件ほどになったころ、ようやく父の入院先を把握した。ところが、病院から父を連れ出す際にも港区側は強い難色を示す。ようやく父が戻ったのは、連れ去りから約4カ月も経た後だった。
だが、これで終わりではなかった。退院したあとも港区は成年後見人の申し立てを取り下げず、一度は父に成年後見人が東京家裁によって選任されてしまった。成年後見制度とは本来、認知症や知的障害などによって判断能力の衰えた人に代わって、家庭裁判所によって選任された「成年後見人」が財産などの管理をする制度だ。認知機能が低下した人の法的権利を守る制度であり、家族と連絡が取れないなどのケースでは、自治体が成年後見人の選任を申し立てることもできる。
戸田さんの父のケースは、この行政機関による申し立てだった。しかし、父に顕著な認知機能の衰えはない。戸田さんらが裁判に訴えた結果、父の認知機能は成年後見人を必要とするほど衰えておらず、港区による申し立ては不当だったとの判決も確定している。
では、成年後見人が必要という判断はどのようにして下されたのか。そこに“犯罪”の要素はなかったのか。
元気な高齢者を判断能力が失われた「後見」相当に変造の疑い
捜査当局に提出された告発状やフロントラインプレスのこれまでの取材によると、成年後見の申し立てに必要となる家庭裁判所指定様式の診断書に関し、埼玉県内の病院に勤務する医師は2022年4月、本件当事者の90代男性について、中程度の認知症患者にあたる「保佐」相当とする診断書を作成した。ところが、港区の職員らがその後、判断能力をほとんど失った人に適用される「後見」相当に変造した疑いがある。診断書を書いた医師は、診断結果を後に自分が修正した事実はないと弁護士側に証言しているという。
3つある成年後見制度の類型のうち最も重い「後見」と判断された場合、成年後見人は原則としてすべての法律行為を代理できる。金融機関からの現金引き出しや不動産の売却なども代行できるようになる。
港区側は、90代男性に成年後見人をつけた後、男性が所有するマンションを売却する計画を立てていた。さらに、この男性の住民票を千代田区霞が関にある弁護士の事務所に移したいとの上申書を東京地裁に提出していた。これは、戸田さんら家族が男性の居場所を追跡できないようにするためだったと思われる。

成年後見人の申し立ては本人や家族による申し立てが原則で、地方自治体の首長が代理で制度の利用を申し立てるのは、当事者に親族がいない、いても遠方に住んでいる、あるいは申し立てを拒否するなど事情があった場合に限られる。今回告発に踏み切った戸田さんは、2022年5月に港区から90代の父に関する申し立ての意思確認があった際、「自ら申し立てる」と繰り返し伝えた。ところが、港区は戸田さんの意向を無視して区長名で申し立てを強行。父が親族と連絡を取ることを認めず、入院している病院名も教えなかった。
前述したように、戸田さんはその後、独自に父親の入院先を突き止めて退院させることに成功したものの、家庭裁判所は変造された診断書をもとに「後見相当」で成年後見人を選任してしまう。しかし、父の状況を複数の病院で診断し直してもらったところ、認知症を専門とする医師5人が「認知症ではない」、あるいは「認知症の手前の軽度の認知障害」と診断。最終的には行政権限に基づく港区の申し立ては却下された。
男性は現在、港区から離れ、戸田さんの自宅で一緒に暮らしている。

告発を準備したのは、多くの無罪判決を出した名裁判官として知られる木谷明弁護士
戸田さんらの訴えに耳を傾け、刑事告発の準備を進めていたのは、最高裁調査官や東京高裁部総括判事などを歴任した元裁判官の木谷明弁護士だった。刑事裁判の判事を長く務めた木谷氏は在職中、検察側の証拠を厳しく吟味し、30件以上の無罪判決を出したことで知られる。しかし、告発状を完成させる直前の2024年11月下旬、急性心筋梗塞のため、86歳で他界。同じ事務所の釜田雄介弁護士が準備を整えるまで、告発は延期されていた。
ここから先は会員限定です。名裁判官として知られた木谷弁護士が、告発状の中に残した社会への強い警鐘の言葉とは