厚生労働省の担当者は「過去に出生率の計算式を変えた事実を本当に知らなかったのかもしれない」
あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く調査したコンテンツをおすすめしています。
昨日、「今日の必読」に挙げた東京新聞の『合計特殊出生率 実態は公表値よりもっと低かった…専門家が「信じられない」統計手法とは』ですが、この記事に登場する厚生労働省や人口問題研究所の担当者の発言について、東北大学大学院の田中重人教授が具体的な資料をあげて疑問点を指摘していました。2回にわたる考察で、実はその担当者が、「過去に計算式を変更したという事実を本当に知らなかったのではないか」という疑念を呈しています。
合計特殊出生率の計算式の1971年変更について
まず、東京新聞の記事にある、合計特殊出生率が低くなる計算式であることについては、「そういう計算式であることは以前から公表されていて、この50年間一貫してるのだから、それで計算した結果が何を意味してるかについてちゃんと議論すればよかろう」としています。
そのうえで、「計算式は一度も変わっておらず」とした部分について、資料をもとに「変更されているはずだ」と指摘しています。記事が出たその日にデータをバックにこうした鋭い指摘ができるのには、専門家ならではの視点はもちろん、筆の速さにも舌を巻きます。
さらに田中教授は、なぜ厚労省や人口問題研究所の担当者がそのような回答をしたのか、オープンデータをもとに調査を深めていきます。
人口動態統計における出生率等の計算式の1967年変更
当時の『人口動態統計』報告書をソースに、人口動態統計における出生率などの数値は、1967年分から日本人人口を分母に使う計算式に変更されていて、厚労省担当者の「計算式は一度も変わっておらず」は、やはり事実に反すると結論づけています。
文中には元になったデータを誰でも見られるよう、国立国会図書館デジタルコレクションへのリンクが張られていて、親切かつ便利です。
さらに、厚労省担当者の発言について次のような指摘をして、記録を残すことを軽視する姿勢に強く警鐘を鳴らしています。
こうしたオープンデータを駆使して取材したなら、元の記事ももっと深まっていたかもしれません。当局への取材だけでなく、独自にデータも使って事実を解明する姿勢は、これからのジャーナリストも目指すあり方だと強く感じさせられる調査結果でした。
(remcat: 研究資料集 2023/7/2,5)