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日本で流通している無呼吸症の医療器具、安全なのか独自に調べてみた

フリーランス記者 萩 一晶

フィリップス・ジャパン(本社・東京都港区)が日本で回収中のCPAP装置は約34万台。「睡眠時無呼吸症候群」の患者が毎日使う医療器具で、すべて米フィリップス製だ。

日本では、米国で確認されたような防音材の劣化は本当に起きていないのだろうか。劣化で生じる微細な粒子を、患者が吸い込むことで健康被害を受ける心配はないのだろうか。手がかりを求め、回収前のCPAPからどれほどの粒子が排出されているのか、独自に調べてみた。

どのように検証をしたのか

空気中にはたくさんのホコリや微粒子が浮遊しているため、CPAPから排出される粒子が器具の内部から出てきたものであることを証明するには、ホコリや微粒子を取り除いたきれいな空気環境が必要だ。

そこで関東の研究施設を訪ね、常に清浄な空気を保つ「クリーン・ベンチ」という装置を3日間、使わせてもらうことにした。

アクリル板で囲われた、浴槽ほどの大きさの装置の上部に特殊フィルターが備わっている。そこから外気を取り込むときに微粒子を取り除き、装置内部を常にクリーンな状態に保つ仕組みだ。

この中に、フィリップスが回収する予定のCPAP(回収品)を1台置き、粒子の数を測る「パーティクル・カウンター」も用意した。毎分2.83リットルの空気を取り込み、その中に含まれる0.3μm(マイクロメートル=ミクロン)以上の粒子の数を1分単位で、大きさごとに表示してくれるリオン社の計測器だ。

まずは、クリーン・ベンチ内の空気を測り、粒子の数がゼロであることを確認する。CPAPを稼働させると、器具の後ろにある丸い筒から空気が流れ出てくる。そこにパーティクル・カウンターの先端からのばしてきた細いチューブを差し入れて空気を取り込み、15分間の毎分計測を開始する。

すると、カウンターの数値はみるみる上昇し、あっという間に毎分1万個を超えた。

「小さい粒子」を検出、健康被害との関係は?

すべてCPAP内部から排出された粒子であることに疑いはない。驚いたのが、その大半を1μm以下の小さい粒子が占めていたことだ。

米フィリップスは当初、劣化により生じる粒子の大部分は8μm以上と「大きい」ために、肺組織の深くに入るとは考えにくいと主張していた。日本のフィリップスが健康被害の恐れは「ない」と判断した根拠の一つでもある。

今回、計測できた粒子が何に由来するものかはわからないが、もし防音材の劣化により生まれた粒子が含まれているとすれば、フィリップスが主張する「大きすぎる説」とは矛盾することになる。

改善品。2023年1月10日に防音材を取り換えた記録がある

CPAPを回収したフィリップスは、防音材の素材をポリウレタンからシリコーンに取り換え、「改善品」として患者に再び配っている。そこで同じ患者に届いた改善品でも、回収品と同じ計測をし、結果を比べてみた。

ここから先は有効購読者限定です。果たして改善品と比較した結果は。そして検証で明らかになった数値は何を意味するのか。

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