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【スクープ】過去にも露見しかけた警察の「カラ出張」 どうやって握り潰したか

取材・執筆 フロントラインプレス

【広島県警「カラ出張」③】
2019年から2020年にかけ、広島県福山市の警察署でカラ出張が繰り返されていた疑いが浮上した。上席の指示で虚偽書類を作成し、「カラ」を続けた警察官の1人(巡査部長)はその後、良心の呵責に耐えかね、広島県警本部に公益通報(内部告発)した。2022年3月のことだ。ところが、県警本部は法令に定められた受理の通知も出さず、“告発”はごく最近まで放置されたままだった。

いったい、何が起きていたのか。

関係書類や巡査部長らの証言、県警側との対応を記録した備忘録などから事態がうやむやにされかけた経緯をたどってみよう。


「奥さんにも話すなよ」 過去にもカラ出張が露見寸前に

実は、巡査部長による公益通報よりも前に一連のカラ出張が広島県警内部で露見しかかったことがあった。最初は2019年9月ごろのことだったという。

カラ出張を命じられ、書類上だけは出張したことになっている警備課のある捜査員が執務室に在席していたところ、刑事部門に所属する別の警察官が何の前触れもなく入室してきた。「カラ」の出張願を出していることを察知されたら、不正経理が露見してしまう。それを恐れた警備課の上席らは以後、カラ出張の時間帯は警察署に来るな、自宅で待機していろ、との指示を下したという。

巡査部長は警察官の心得として、尊敬する署長から「やるべきをやり、やらざるをやらない」と教えられてきた。それなのに、警察内部では、カラ出張という違法行為が繰り返されている。上意下達が絶対視される組織ではあったが、巡査部長は、さすがにおかしいのではないかと思い、直属の上司に意見した。ところが、「言っても無駄。言われるようにするしかない」などと返されただけだったという。
 
次に「カラ」が露見しかかったのは、2021年2月初旬だった。

巡査部長がのちに広島県警の監察官室に提出した文書などによると、一連のカラ出張を暴露する匿名の投書が監察官室に届いた。投書の主が誰だったのかはわからない。巡査部長はフロントラインプレスの取材に対し、「カラ出張をおかしいと思っていたのは自分だけではないということでしょう」と語る。

問題はその後の展開である。

巡査部長はカラ出張を指示していた上席に呼び出され、福山市内の商業施設で会った。2月5日のことだ。駐車場に止めた車の中。面談は約2時間に及んだ。その際、上席は次のようなことを告げたという。

「誰かが例の件を監察にチクった。投書された文書も見せられた」
「誰も言わなかったら絶対にばれない。絶対に話すな。監察への内部通報はどうにでもできる」

(イメージ)

「内部からの投書ならどうにでもできるが、外部はまずい。奥さんとかに、この話はするなよ。奥さんからの通報だけは絶対にさせるなよ。みんなが黙っとけば、うまくまとめる。心配しなくていい」

巡査部長の証言通りなら、監察官室は不正を働いているとされた当の部署に投書の内容を明かしたことになる。常識では考えられない対応という他はない。

「全員が黙っておけば、ばれない」 上席との面談の内容とは

巡査部長と上席との面談は、2月19日にも行われた。やはり、駐車場に止めた車の中である。面談は夕方5時ごろから始まり、7時近くまで続いた。

フロントラインプレスが取材で得た資料などによると、警備課全体でカラ出張が行われていたことを前提として、2人の会話は続いていく。上席は、カラ出張を意味する「エアー」という語句を用いながら状況を説明。面談の途中では、一連の不正に関わった人物として警備課に所属する捜査員5人の実名を挙げる一方、「監察官室に投書したのは別の課の職員だったということにしてある」「警備課の関係者は責任を問われない」といった趣旨のことを語った。さらに、車両の運転記録は会計課に処分させたので、出張時との食い違いが露見する恐れはない、物的な証拠は残っていないとも明かした。

そして面談の後半で上席は大意、次のように語っている。

「(県警本部の幹部からは)出張願と運転日誌の整合はできとるんじゃろ、と言われた。うちは『白』ということで終わっている。全員が黙っておけば、ばれることはない。何の問題もない」

広島県警察本部

この面談から約3か月後の5月下旬、巡査部長は別の上席にも一連の問題について、自分はどうしたらいいのか、という趣旨を問い掛けている。取材で得た資料によると、上席は「ああ、あれか」などと言うだけ。カラ出張を前提とする会話は続いたものの、上席が具体的な解決策などを示すことはなく、面談は終わった。

こうした経緯を経て、巡査部長は2022年3月、公益通報(内部告発)を行うことになる。

警察官としての良心と、「黙ってろ」という上席らの“圧力”の狭間で苦しみ続けた巡査部長。最終的には2022年3月に広島県警本部へ事実を伝え、公益通報(内部告発)した。そこに至るまでの約2年間、警察組織の内部で何が起きていたのか。現在配信中のスローニュース『「監察が投書の内容を教えてくれた」 警察“カラ出張”への箝口令はどのように』ではフロントラインプレスが入手した関係書類や公文書、証言、メールの写しなどからより詳しくその内幕を明らかにしている。
 


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