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「なぜ県警は理由も示さず、乱暴な拒否をするのか」広島県警の不正経理問題で元警察官と弁護士が審査会で意見

取材・執筆 フロントラインプレス

なぜカラ出張を命令されたのか、なぜ警察組織では自浄作用が働かないのか。そして、不当に得た公金を返したいのに手続きも教えてくれないは、どうしてなのか。

広島県警・公安部門のカラ出張を在職中に公益通報(内部告発)した元巡査部長の男性が先月30日、情報公開に伴う審査会でそんな内容を意見陳述した。男性が行政機関の公的な場で発言したのは初めてだった。

カラ出張問題がスローニュースの報道で明らかになってから約4カ月。福山市内の警察署の警備課を舞台としたこの問題では、少なくとも警察官4人が不正経理に関与し、他の部署でも同様の行為が続いていた疑いも浮上している。それにもかかわらず、警察の対応は鈍く、内部調査も事件捜査も大きな進展はないようだ。


元巡査部長が求めていること

意見陳述が行われたのは、広島県情報公開・個人情報保護審査会。この日、午後2時すぎから県庁本館1階の会議室で開かれた。

元巡査部長の男性は一連の不正経理を県警監察官室に公益通報し、2022年3月末に退職したが、長期間放置され、調査も事件捜査も進展していない。

①自らが関与したカラ出張に関する文書
②公益通報がどのように扱われたかを示す文書

これらについて条例に基づいて情報公開請求した。これに対する県警側の回答は、文書が存在するかどうかすら答えない「存否応答拒否」。このため、男性は不服申立て(審査請求)を行い、これを受けた県警側は外部の意見を聞くために同審査会に諮問していた。

審査会に向かう元巡査部長(左)と清水勉弁護士(撮影:フロントラインプレス)

「理由を示さず拒否、こんな乱暴な話はない」

意見陳述したのは、男性本人と男性の代理人・清水勉弁護士(東京)。審査会後の記者会見やその後の取材で、清水弁護士は「情報公開を拒む県警側の対応には法的に大きな問題がある」と指摘した。

「存否応答拒否をもって公文書の開示を退けた県警側は、実はその理由を示していないのです。具体的な理由を示さず、条例の条文を示しただけで『この条文が根拠だ』と言っている。こんな乱暴な話はない」

例えば、広島県行政手続条例の第8条第1項は「行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する序文をする場合(求められた許認可等の一部を拒否する場合を含む。)は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない」と定めている。しかし、今回は開示請求を退けるという申請者に不利な決定であるにもかかわらず、その理由が具体的に何も示されていない。

そのうえで、清水弁護士は以下の点を指摘した。

「県警は公文書を公開しない理由として、公安部門の活動が『各種情報収集活動や警備犯罪に係る内偵等の捜査活動のほか、警衛活動や災害警備活動、他課業務の応援等及び行政警察活動』であり、『そのため』に公開できないと明示している。しかし、この程度の事柄は『警察白書』などでも公にされていることであり、国民も周知のこと。こんな抽象的な内容は公文書開示を拒む理由にならない」

広島県警察本部(撮影:スローニュース)

「しかも求めているのは出張願などの会計文書。警察官が誰と会って何を話したかなどの情報は記載がない。せいぜい出張先までの距離や時間・期間が書かれているだけだ。仮に行き先の住所が具体的に書かれていたとしても、それだけで特段秘密にしなければならない理由にはならない。捜査に協力した相手の名前などが記載されていたとしたら、その部分だけを個人情報として黒塗りにして開示すれば済む」

「そもそも開示請求の対象はカラ出張の文書。違法行為の文書だ。そこに記された情報はそもそも違法なものであり、保護すべき情報ではない。条例の例外規定を持ち出してまで開示を拒むということは、違法なもの・不正なもの、つまり自分たちの不都合は徹底して隠し通すという県警の意志の表れではないか」

国費用の書式を使ったのに「あれは県費じゃった」

意見陳述の後、元巡査部長の男性と清水弁護士は、県政記者クラブで記者会見に臨んだ。会見は2回目。11月20日の前回と同様、新聞・通信・テレビの各社が勢ぞろいし、10数人の記者が2人を囲むように座った。

男性は「意見陳述では(2019年に初めてカラ出張を命じられて以降に)あったことを全てお伝えしたつもりです」と語った後、次のように重大なポイントを語った。カラ出張に関わった警察官たちが不正に得た出張旅費や時間外手当などの原資は国費だったという点である。

「私たちが(不正に)受け取ったお金は国費だと思っていますし、(当時は国費用の書式を使って)申請もしました。ところが今になって、私自身が調べを受けるなかで、県警本部の方は『あれは県費じゃった』と。私は、本当に県費じゃったんですか、と。私は不正に得たお金を何とか返したいのに、県費と国費では返すところが全く異なる」

記者クラブでの会見(撮影:フロントラインプレス)

男性がカラ出張関連の公文書開示にこだわる理由もそこにある。経理文書を見れば、県費か国費かは判明するはずで、県の金庫に返すべきか、国の金庫に返すべきかも明瞭になる。ただ、県費か国費かの問題は、それにとどまらない重大な問題をはらんでいる。

警備・公安警察は基本的に国家予算で運営されている。カラ出張の原資が国費だったことが確定すれば、警察予算に不正執行できるシステムが全国で温存されている可能性があり、予算の適正・適法な執行を総点検しなければならくなるかもしれない。

複数の関係者によれば、公安警察は過激派組織内などに養成した「捜査協力者」を経済面も含めてサポートしていることがある。そうしたケースでは、捜査費を現金で相手に渡す。2人1組で活動を行う場合、1人は渡し役、もう1人は離れた場所でそれを確認する役割を務めるという。広島県警で発覚した一連のカラ出張がそうした活動を含むものだったかどうかは定かではないが、仮にカラ出張を命じて自宅待機させていた警察官が“捜査費授受の確認役”だった場合、出張旅費よりも遥かに巨額な捜査費の適正な執行を県警側は確認できていたのかという大きな疑問が残る。

「公安警察の不正」今後の展開は

清水弁護士らによると、意見陳述から1〜2カ月で審査会は答申を出し、県警側に伝える見込みだ。ただ、審査会が「開示せよ」という結論を出したとしても、あくまで「諮問」に対する答申であり、行政庁は100パーセント従う法的義務はない。実際、全国の事例をみると、一般の行政機関は審査会の結論にほぼ例外なく従うものの、警察だけは答申に従わず、再び非開示の裁決を下しているという。

この問題は今後、どう展開していくのか。清水弁護士は次のように語る。

「公安警察の不正であり、もう県警だけでは判断できなくなっているはず。警察庁の指示を仰ぎながら、とにかく徹底的に蓋をして、悪弊ごと組織を守る方向に動くのではないか」

警察庁の入る東京・霞が関の合同庁舎(撮影:スローニュース)

「元巡査部長に関しては、おそらく、あれだけ滞っていた返金手続きに関する方法が伝達されるはず。元巡査部長はお金を返したという動機で自らの出張に関する文書の開示を求めたのだから、返金が行われたら“訴えの動機”が解消され、審査会の心証が県警にとって有利になる……と考えるのではないか。しかし、この問題はそんなことでは終わりません」

当事者の広島県警・監察官室は地元メディアに「コメントする立場にない」といった他人事のような発言を続けている。現在配信中の現在配信中のスローニュースでは、フロントラインプレスの高田昌幸代表が、「腰が引けている」メディアの報道姿勢を問うコラムを発信している。