【コラム】広島県警の不正経理問題、なぜメディアの報道は「腰が引けている」のか
フロントラインプレス代表 高田昌幸
広島県警の不正経理問題に関しては、警察と日常的に接する地元メディア、広島に拠点を置く全国メディアの腰が引けた報道ぶりが目立っている。
県警監察官室の「ノーコメント」になぜメディアは疑問すら提示しないのか
元巡査部長らは11月20日に1回目の記者会見を広島県政記者クラブ(加盟20社)で行い、ふだんは県警を担当する記者らが大勢集まった。ところが、肝心の県警側の対応に関し、地元のテレビや新聞は県警の言い分を伝えるだけ。各メディアとも「コメントする立場にない」などとする県警監察官室のコメントに何ら疑問を挟まずに報じた。例えば、NHKは次のように伝えている。
スローニュースでこれまで明らかにしてきたように、元巡査部長はカラ出張が行われていた2019〜2020年に上長らに疑義を申し立て、その都度、「家族が大事じゃろ?」などと口止めされている。監察官室には2021年2月ごろ、本件に関する匿名の情報提供も行われているが、あいまいにされたままだった。元巡査部長が監察官室に公益通報したのは、2022年3月だ。つまり、監察官室はごく最近、この出来事を知ったのではない。
それにもかかわらず、監察官室は「コメントする立場にない」というコメントを出し、メディアもその対応に追随したように映る。監察官室は「コメントする立場にない」どころではない。県警の各部署の中でも当事者中の当事者なのだ。
報じないメディア、消えてしまったニュース
意見陳述の後に開かれた11月30日の会見でも、記者の会見スペースは満席になった。この日は、元巡査部長と清水弁護士が県庁入りする際にもテレビカメラの砲列ができた。しかし、これらをニュースとして報道したテレビ局は1局だけ(確認できたもののみ)。その局も1日足らずで自社のウエブサイトからそのニュースを消した。他方、新聞は1紙も意見陳述を報道せず、共同通信も配信しなかった。
何を報じるかは報道機関側の裁量であり、ニュースの価値もその日の他の出来事との相対的な関係で決まる。ニュースにならなかったからといって、即、そのメディアが批判されるべきではない。ただ、いくつかの事実は知られてよいように思う。
一つは、11月30日の会見を伝える広島テレビのニュースがYahoo!ニュースに転載された際のコメントだ。そこには「広島テレビ以外にもたくさんのテレビ局のマイクがある。広島には広島ホーム(テレビ)やTSS(テレビ新広島)もあり他社も来ているのに、なぜ(他社ではニュースが)出ないのか? 県警やもっと上からの圧力があるのか」という趣旨の書き込みがあった(その後、記事ごとリンク切れ)。同じような反応はSNSでも散見される。
情報を掴んでいたメディアも複数いたのに……
報道機関は強い者に忖度し、外部圧力にも弱い――。全国紙やテレビのキー局といった大手マスコミには、そんな評判がつきまとう。それがあながち外れていないこともユーザーには知られてしまった。
では、広島のメディアはどうだろうか。
現地のメディア関係者から得た情報によると、実は、一連のカラ出張問題はフロントラインプレスが取材を始める前に、複数のメディアが情報を掴んでいたという。ところが、上層部などの判断でそれ以上の取材は認められず、報道もされなかった。その詳しい経緯が明らかになれば、市民は驚愕するのではないか。
広島県警のカラ出張問題は、そうした状況もはらみつつ進んでいる。
現在配信中のスローニュースでは、記者クラブで11月20日に行われた記者会見の様子をノーカット動画で詳しく伝えている。