米軍・横須賀基地でPFAS汚染の原因となる泡消火剤の漏出が多発していたことが内部文書で判明!水質検査の結果は非公表に
在日米軍司令部は14日、泡消火剤についての声明を発表した。
<米国政府は在日米軍施設における全ての旧式水成膜泡消火薬剤(AFFF)の廃棄を完了しました。米国政府は(略)PFOS及びPFOAを含まない新式組成の水成膜泡消火薬剤に交換しました>
ホームページには、PFOS・PFOAを含んだ泡消火剤はすでに日本国内にある処分場で焼却処分したと記されているが、記録や証拠が示されているわけではない。
むしろ、意図的な廃棄が行われてきたのではないか、という疑いは消えない。
集中して起きていた米軍基地からの漏出
というのも、これまでに判明している在日米軍基地からの泡消火剤の漏出は、なぜか2020年以降に集中しているからだ。直前の2019年12月に、米国防総省は「2024年秋までの廃棄完了」を指示していた。それだけに、この4年間に泡消火剤の漏出が各地で相次いだのは偶然とは考えづらい。
廃棄完了の期限が迫る今年8月末には、東京・多摩地区にある横田基地の貯水池から約48トンの汚染水が漏出した。その原因を、米軍は「豪雨によるもの」と説明している。
米海軍・横須賀基地で発覚したのは2022年7月のことだった。
地元で基地汚染などの監視を続ける呉東正彦弁護士はまもなく、米国情報公開法(FOIA)にもとづいて米軍に調査報告書などの開示を求めた。
この秋に開示された記録をみると、報告書は米軍内で2023年3月に一次承認された後、最終承認されるまでに1年かかり、開示決定までにさらに7カ月を要していたことがわかる。結局、請求から公開までに2年3カ月かかったという。
ようやく明かされた報告書によると、汚染は一度ならず、何度も起きていた。
2022年2月、基地内の「排水処理施設のタンク内に多量の泡があふれている」のが確認されていた。3月には「泡消火剤の点検査業中に、作業員が泡消火剤を詰めた袋をタンク内で誤って破った」事案が起きていた。いずれも、排水路への流出は「証拠がない」とされる。
そして、3度目となる大規模な漏出が起きた。まさに、米国防総省から求められていた泡消火剤の交換に伴い、基地内にある泡消火剤貯蔵タンクに残った汚染水を汲み出す作業中のことだったという。
約2カ月後、米軍があらためて排水を調べると11,000ナノグラムが検出された。日本の指針値の222倍にあたる濃度の水が海へ流れていたのだ。
なにより問題なのは、報告書は、2022年8月以降の濃度上昇の原因、排水処理施設の汚泥の含有PFOS濃度、過去の泡消火剤の使用実績や廃棄の実態などについて触れておらず、肝心の漏出原因も「特定できなかった」としていることだ、と呉東弁護士は指摘する。
「記録を読むと、関係した当事者に聞き取りをしているにすぎず、科学的な調査や検証をまったくやっていないことがわかりました。それなのに『原因はわからなかった』と結論づけて、事態を収束させようとしているのです」
除去用のフィルターを外し、水質調査の結果も非公表に
問題は解決したどころか、事実上、放置されている。
米軍が排水施設に取りつけた活性炭フィルターをひそかに取り外していたことが、昨年秋にわかった。その理由について、米軍が防衛省に伝えたという説明は次のようなものだった。
「PFOS等の値は安定しているという現状を踏まえ、粒状活性炭フィルターの稼働を停止した」
そのうえ、米軍はそれまで横須賀市に報告していた水質調査結果も公表しなくなった。排水の濃度が国の指針値を超えていないかどうかについては、こう答えたという。
「粒状活性炭フィルターを稼働させるような特異な事象は確認されていない」
横須賀市長が求めた水質検査の結果はいまも、提供されていない。米軍の対応はある時期を境に後ろ向きになった、と呉東弁護士は感じている。
「それは、事案が横須賀基地から在日米軍司令部に移り、日米合同委員会で協議されるようになってからです」
今年6月、呉東弁護士は、社民党党首の福島みずほ参院議員や外務省北米局日米地位協定室の職員らとともに在日米軍司令部を訪れている。
このとき面会したアビゲイル・カタリーノ陸軍大佐は会談の冒頭、録音を禁じた。一方で、事前に渡していた要請書には目を通していないようだった。会談の途中、環境問題を扱う「コマンドエンジニア」のトップは本音をのぞかせた。
「地元自治体や市民の懸念はそのとおりだが、日米間の合意を超えて(水質検査結果を)公表すると、他の基地でも対応しなくてはいけなくなるので公表できない」
呉東弁護士は言う。
「会談から4カ月後に報告書は公開されたものの、勧告欄や施設欄が全面的に黒塗りにされ、かえって疑念を膨らませるものでしかなかった。ほしいのは、何が起きたのかを裏づける調査についての情報と汚染防止策です」
すでに、第2次となる5項目にわたる情報開示を求めているという。
* * *
PFAS汚染は国内の化学工場からも広がっています。スローニュースでは、静岡市の化学メーカーの工場でどのように汚染が拡大したかを示す膨大な内部文書を入手して報じています。
諸永裕司(もろなが・ゆうじ)
1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘 沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com)