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Netflix『THE DAYS』原発事故の重厚なドラマの中で隠れてしまった「真因」とは

東京電力・福島第一原子力発電所の事故を描いたNetflixドラマ『THE DAYS』。事実にこだわった作品とされながら、事故の経緯に関する重要な部分で、史実とは違う点が3つある。重みのあるドラマを味わいつつ、ぜひそのポイントも押さえてほしい。

前回「福島原発事故を描いたNETFLIX『THE DAYS』盛り込まれなかった最新スクープの“事故原因”とは」では、事故深刻化の引き金になった新事実が盛り込まれていないことを述べたが、その新事実をスクープした、奥山俊宏さん(上智大教授、元朝日新聞記者)に、残りの2点についても詳しく解説してもらった。


「原子炉を冷やせ!」 装置は作動していたのか…そして「本当の問題」は隠れてしまった

『THE DAYS』が現実と異なっているのは、1号機建屋の防護扉が、実際には津波襲来時に開け放たれていたのに、閉められていたかのように描かれた冒頭の場面だけではない。事故拡大の過程でも、重要な場面で、現実との乖離があるのだ。

その一つは、ドラマでも「原子炉は冷やせているのか!」と重要なポイントになった1号機原子炉の冷却装置「IC(非常用復水器)」についてである。ドラマでも現実でも、作動しているのか、していないのかがキーポイントだった。

1号機ICのタンク=2015年2月21日、新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会撮影

現実には、津波来襲4分前の午後3時32分、1、2号機中央制御室で主機操作員は、ICの弁の一つ「3A弁」を閉め、作動を停止させた。炉内の温度が急激に下がり過ぎることのないよう、温度低下をゆるやかにする目的であり、数分ほど後に開けるつもりだったはずだが5分後に電源を喪失。操作盤の明かりはすべて消え、遠隔操作で弁を開くことは不可能となり、ICを起動することはできなくなった。

東電が2015年に実施した追加聞き取り調査の結果によれば、このとき主機操作員は、「自らIC操作を行っていた」ことから、「ICは動作していない」と認識し、「3A弁閉操作後に電源が落ちて表示が見えなくなった」と発話したという。これはICを停止した状態で電源がなくなってしまった、と声に出して周囲の同僚たちに知らせようとしたことを意味する。

しかし、東電の社内調査では、これを聞いたと記憶している人は見つからなかった。東電の推定によれば、「全員が全電源喪失の原因究明に注意を奪われていたので、発話が認識されなかった可能性がある」。

1号機中央制御室=2011年3月24日午後1時ごろ(東京電力提供)

主機操作員の上司にあたる副主任は、圧力の変化を記録していたチャート紙を見て、「ICは動作していない」と把握した。

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