見出し画像

大川原化工機「冤罪」事件に「最悪の判決」…遺族が訴える「人質司法」が見殺しにした父親の無念

冤罪のまま、胃がんで「無念の死」を遂げた男性。だが「適切な治療をしていれば延命は可能だった」と訴える遺族の思いは届かなかった。“人質司法”の問題がクローズアップされたこの事件、男性の長男は「想像していた中で最悪の判決だ」と語った。

スローニュース 宮崎稔樹

化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の冤罪事件を巡り、勾留中に判明した胃がんで亡くなった元顧問の遺族が、東京拘置所で適切な医療を受けられずがんの発見が遅れたなどとして国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(男澤聡子裁判長)は3月21日、原告の請求を棄却した。

訴えていたのは、大川原化工機の元顧問で、2021年2月に亡くなった相嶋静夫さん(当時72歳)の遺族だ。

亡くなった相嶋静夫さん(遺族提供)

判決や訴状などによると、相嶋さんは2020年3月、経済産業大臣の許可を得ずに噴霧乾燥器を海外に不正輸出したとして、同社の社長、取締役(当時)と共に為法違反容疑で逮捕・起訴された。

勾留中に体調不良を訴え、保釈や外部の病院での診察を希望していたものの、容易には認められず病状が次第に悪化。2020年11月に外部病院への入院が認められた際には、がんが肝臓に転移するなどして手術ができない状態だったという。相嶋さんは2021年2月に亡くなったが、起訴が取り消されたのは5か月後の7月で、生前に名誉回復できなかった。

これに対し遺族側は「2020年7月に実施した血液検査で明らかな貧血であったにもかかわらず、東京拘置所病院の医師は必要な検査・治療を行わなかった。適切な治療ができていれば早期に胃がんを発見でき、少なくとも1年の延命が可能だった」などと主張。一方、国側は「ふらつきや息切れなどの貧血症状の訴えがなかったことや、本人の既往歴で貧血との関連を示す疾患が認められなかったことをふまえ、東京拘置所の医師の判断に不合理はない」などと請求棄却を求めていた。

判決言い渡し後の記者会見で「非常に考察が浅い判決だ」と話す相嶋静夫さんの長男/東京・霞が関の司法記者クラブで2024年3月21日、宮崎稔樹撮影

大きな争点となっていたのは、
① 拘置所の医師の診断や治療行為の内容が適切だったか
② 不適切行為があった場合に、相嶋さんの死期との因果関係があるか
の2つだった。

具体的な内容としては
・東京拘置所に入所した時点での血液検査の時点(2020年7月)
・胃痛を訴え、ヘモグロビンの値が低下した時点(2020年8月)
・黒色便の自覚や貧血により輸血を実施した時点(2020年9月)
の各時点で適切な治療・診療がなされていれば、相嶋さんは少なくとも1年は延命できていたと遺族側は主張していた。

だが、判決では、上記の三つの時点のいずれにおいても、東京拘置所の医療行為について「医学的合理性が認められる」として遺族側の主張を退けた。不適切行為がなかったと判断したため、因果関係については判断を示さなかった。

判決言い渡し後、記者会見を開いた遺族側代理人の高田剛弁護士は「ヘモグロビンの値が低いにのに、それを本人に伝えなかった。再検査や精密検査をすることもなく万全と放置しているのにもかかわらず、不適切行為が無かったという裁判所の判断は説得的ではない」と批判した。

「裁判官は拘置所医療の特殊性を考えた上で保釈の判断を慎重にするべきだ」と話す高田剛弁護士(左)東京・霞が関の司法記者クラブで2024年3月21日、宮崎稔樹撮影

相嶋さんの長男(50)は「想定していた中で最悪の判決。父が受けた苦しみというものが裁判所に理解してもらえなかった。一般の人が受けられる医療と拘置所で受けられる医療は違うということについて、裁判官にはもう少し想像力を働かせてほしかった」と肩を落とした。

控訴するかどうかについては「判決内容を精査して、今後のことについてはゆっくり考えたい」としている。

人質司法の問題「このままでは治るはずの患者が亡くなる国」

さらに記者会見では、今回の裁判の争点ではないものの、長期間の身柄拘束で犯罪の自白を迫る「人質司法」や被告人の保釈を簡単には認めない裁判官の問題についても言及があった。

長男によると、相嶋さんは逮捕前まで2か月に1回は通院し、血液検査をしていたという。だが、長期にわたって勾留されたことで、その日常的な診察の機会が閉ざされた。長男は「勾留が長くなればなるほど、受診の機会が減る。その点を踏まえ、保釈や勾留の判断は慎重でなければならない」と改めて現行の司法制度の問題点を指摘した。

相嶋静夫さんの遺影と共に記者会見に臨む長男。「一般社会で病気になった人が受けられる治療と拘置所の治療は考え方と内容が随分違う。今回の判決はその特殊性を裁判所が追認してしまっている」と話す/東京・霞が関の司法記者クラブで2024年3月21日、宮崎稔樹撮影

高田剛弁護士は、司法の保釈判断の在り方について「がんは自覚症状が出る前に発見して対応しないと手遅れになる。拘置所医療の特殊性を考えると、保釈を認めないということは、一般に当然受けられるような医療が受けられない状態に長く置かれるということを意味する」と指摘。その上で「裁判所の保釈判断が現状のままだと、治るはずの患者が亡くなっていく。そういうことが起こり続ける国だと言わざるを得ない」と話した。

スローニュースでは、7回も保釈請求を却下された相嶋さんが勾留を一時停止された後に「無念の死」をとげていたことを、検察官や裁判官が把握さえしていなかったという新証言について詳しく報じている。

宮崎稔樹(みやざき・としき)

長崎県出身。2014年4月に毎日新聞社に入社し、福島支局で震災・原発事故報道、東京経済部でIT企業やデジタル経済などを担当した。2020年10月に国際協力機構(JICA)へ転職後は2年間、フィリピンの平和構築を主に担当したほか、メディア支援プロジェクトを新規で立ち上げた。その後、英イーストアングリア大学院で修士号(Media and International Development)を取得し、2023年10月からスローニュースに編集者として参画。一貫して「メディア×人道」の領域に関わっている。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!