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【大川原化工機冤罪事件】がん判明も保釈を7回も却下された男性の遺族、国の責任を認めなかった一審を不服として控訴

化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の冤罪事件を巡り、勾留中に判明した胃がんで亡くなった元顧問の遺族が、拘置所の対応が不適切だったとして国に損害賠償を求めた訴訟で、遺族側は4月4日、請求を退けた東京地裁の判決を不服として控訴した。

控訴した理由について、遺族側は「一般医療の水準を基準にすれば、拘置所の医師の対応が適切だったとはいえないため」としている。

スローニュース 宮崎稔樹

訴えていたのは大川原化工機の元顧問で、2021年2月に亡くなった相嶋静夫さん(当時72歳)の遺族。地裁判決などによると、相嶋さんは2020年3月、経済産業大臣の許可を得ずに噴霧乾燥器を海外に不正輸出したとして、同社の社長、取締役(当時)と共に為法違反容疑で逮捕・起訴された。

相嶋静夫さん

勾留中に体調不良を訴え、保釈や外部の病院での診察を希望していたものの、容易には認められず病状が次第に悪化。2020年11月に外部病院への入院が認められた際には、がんが肝臓に転移するなどして手術ができない状態だったという。

相嶋さんは2021年2月に亡くなったが、起訴が取り消されたのは5か月後の7月で、生前に名誉回復できなかった。

拘置所入所中の相嶋静夫さんのメモ。遺族は「拘置所で胃がんであるとの告知を受けた父の気持ちを考えるとやりきれない」と話す/遺族提供

3月21日に言い渡された地裁判決では、
・東京拘置所に入所した時点での血液検査の時点(2020年7月)
・胃痛を訴え、ヘモグロビンの値が低下した時点(2020年8月)
・黒色便の自覚や貧血により輸血を実施した時点(2020年9月)
のいずれの時点においても、東京拘置所の医療行為に医学的合理性があったと結論付け、死亡時期との因果関係については判断を示していなかった。

この地裁判決に対し、遺族側は
・2020年7月の血液検査でヘモグロビンの値が貧血を示す値を示した時点で本人に告知しカルテにもその旨を記載するべきだった
・それができていれば翌8月に胃痛を訴えた時点で、上部消化管出血の疑いで適切な検査ができ、がんの早期発見と治療開始ができた

と改めて主張する方針だ。不適切な治療と死亡時期との因果関係についても引き続き争う。

7月10日のカルテでは貧血に関する内容が記載されていない/遺族提供

遺族代理人の高田剛弁護士は「7月に適切な対応が取られていれば、遅くとも8月の胃痛の時点で必要な検査がなされていたはずだ。高裁では、拘置所の医師がこうした対応を取らなかったことについて、一般の医療水準を基準とした適切な判断がなされることを期待する」と話している。

高田剛弁護士(左)。相嶋さんの長男(右)は地裁の判決後に「想定していた中で最悪の判決。裁判官にはもう少し想像力を働かせてほしかった」と語っていた

スローニュースでは、7回も保釈請求を却下された相嶋さんが勾留を一時停止された後に「無念の死」をとげていたことを、検察官や裁判官が把握さえしていなかったという新証言について詳しく報じている。

宮崎稔樹(みやざき・としき)

長崎県出身。2014年4月に毎日新聞社に入社し、福島支局で震災・原発事故報道、東京経済部でIT企業やデジタル経済などを担当した。2020年10月に国際協力機構(JICA)へ転職後は2年間、フィリピンの平和構築を主に担当したほか、メディア支援プロジェクトを新規で立ち上げた。その後、英イーストアングリア大学院で修士号(Media and International Development)を取得し、2023年10月からスローニュースに編集者として参画。一貫して「メディア×人道」の領域に関わっている。