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【スクープ】宮崎の警察が殺人事件の証拠を偽造か…証拠物を撮影したSDカードを被告に不利なように改ざんした疑い 弁護側は証拠隠滅罪で警察署長らを告訴へ

取材・執筆:フロントラインプレス

捜査当局が犯罪の証拠を偽造するなど絶対に許されない。しかし、そんなあってはならないことが起きているという疑惑が発覚した。

疑惑の舞台は宮崎県。2020年に起きた殺人事件の公判前整理手続(公判が始まる前に裁判所と検察官、弁護人が争点を明確にし、判断するための証拠を選び、どのように審理を進めるかを決めるもの)において、証拠写真の入ったSDカードのデータが警察によって一部削除され、隠滅された疑いが浮上したのだ。被告・弁護側は「事件は正当防衛であり、被告は無罪」と主張している。削除・隠滅された疑いのある写真は弁護側のその無罪主張を裏付け、被告に有利な内容だった可能性がある。

複数の関係者によると、被告の弁護団は「公判前整理手続中に警察によって意図的に証拠の隠滅が行われた可能性が強い」として、近く、当時の宮崎県警宮崎北警察署長らを証拠隠滅罪で東京地検に告訴する方針だ。

調査報道グループ「フロントラインプレス」によるスクープを発信する。


問題の証拠写真とは

問題の証拠写真は、SDカードを使用する捜査用のデジタルカメラで撮影されたもの。警察の捜査では、撮影後に書き換えができない記録媒体の使用が義務付けられているが、今回の事件で使用された半導体メーカー「キオクシア」製のSDカードは、実際には、データを別のキオクシア製SDカードにコピーするなどの方法によって改ざん可能だったこともフロントラインプレスなどの調査で判明した。同型のSDカードは全国の警察で広く使用されている。

「キオクシア」製のSDカード(撮影:フロントラインプレス)

警察庁は2019年3月に全国の各警察に「デジタルカメラで撮影した写真の活用について」という通達を発し、その中でデジタル写真の記録媒体について「構造上、記録した原画像ファイルの編集、加工及び消去が不可能なものを使用すること」と明示している。

ところが、実際に宮崎県の事件捜査で撮影データが改ざんされていたとすれば、通達に反して警察は改ざん可能な記録媒体を使用していることになり、日本の事件捜査や証拠の信頼性を大きく揺るがせ、刑事司法の在り方が根底から問われる事態となる。

殺人事件の経緯

殺人事件が起きたのは2020年11月22日深夜。

宮崎市のJR佐土原駅前で、自営業の男性(47)=当時=が腹部を刺されているのが見つかり、病院で死亡が確認された。宮崎県警・宮崎北署は、被害男性の知人で近くに住む久常芳治被告(49)を逮捕。その後、宮崎地検は、刃渡り25センチの包丁で知人男性の腹部を1回刺し失血死させたとして、殺人罪と銃刀法違反で久常被告を宮崎地裁に起訴した。

JR佐土原駅前の様子

事件は現在、宮崎地裁で公判前整理手続が行われている。この中で被告・弁護側は「現場では最初、被害者男性がナタで久常被告を襲ってきた。被告はとっさにズボンのポケットに入れていた包丁を取り出し、被害者男性に差し向け、それが腹部に突き刺さった。本件は正当防衛であり、被告は無罪」と主張している。

連続撮影された写真に“一部が削除された痕跡”

問題の証拠写真とは、現場に落ちていたナタの写真をめぐるもの。

被告の主張通りであれば、被害者男性は素手でナタを握って振り下ろしてきたため、ナタには被害者男性の指紋が付着しているはずと考えられた。ところが、最初に証拠提出されたナタのプリント写真は不鮮明で枚数も少なく、遺留指紋が十分に確認もできない。

そのため、弁護側は写真の画像データを提出するよう要求したが、これを受けた宮崎地検からの照会に対して、宮崎北警察署は提出を何度も拒否した。最終的には裁判所の促しによって、起訴から約1年11カ月後にようやく画像データの原本を保存したとされるSDカード本体が公判前整理手続において開示された。

その後、デジタル・フォレンジック(電子機器や記録媒体などに残された電子データを回収・分析・証明すること)の専門家らによるチームが開示されたSDカード本体のデータを解析したところ、ナタの指紋を連続的に撮影したはずの写真の一部が削除されたことをうかがわせる痕跡などが見つかり、本来の写真データを記録したSDカードとともに一部の証拠が隠蔽されている疑いが濃いことが判明したという。

宮崎北警察署

久常被告の弁護人を務める黒原智宏、西田理英両弁護士は「現在は何もお話できない。時期が来れば、正式に記者会見を開くなどして詳細を明らかにする」と話している。

証拠の改ざん・隠蔽がもしあれば、日本の捜査当局への信頼を失わせる重大な問題になる。現在配信しているスローニュースの記事では、焦点となっているSDカードの警察での使用実態や、過去にも起きていたSDカードのデータ消去の事例、そして警察内部でも改ざん可能なSDカードの危険性を指摘する声が上がっていたことを伝えている。