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衝撃の調査結果!PFASが子どもの「染色体異常」に関連する可能性を初めて指摘…信州大学が発表

環境省による「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の一環で、信州大学が興味深い研究成果を発表した。

妊娠中の母親の血液中のPFAS(有機フッ素化合物)濃度が上がると、生まれてくるこどもの染色体異常が増える傾向がある――。

染色体異常は流産を引き起こすほか、ダウン症候群の原因にもなるものだ。

エコチル調査ではさまざまな化学物質による健康への影響を調べており、PFASとの関連についての結果が明らかになるのは3例目となる。

これまでに発表されたのは「喘息」と「川崎病」についてで、いずれもPFAS曝露による影響は「ない」とされた。PFASの曝露による影響が「ある」とする結果がでたのは初めてとなる。

44人の子どもに染色体異常を確認、母親の血中濃度が影響か

信州大学の野見山哲生教授と長谷川航平助教は、これまでにPFASと「染色体異常」との関連についての研究が国内外でほとんどないことから取り組んだという。2021年秋にテーマが決まり、論文を書き上げて専門誌に投稿した後、査読で3回指摘を受けて修正した末、今年9月にようやく発表にこぎつけた。

血中濃度を測った母親は24,724人。このうち、遺伝子検査で染色体異常が確認されたこどもは44人だった。分析の結果、母親の体内でPFAS(7種類)の血中濃度が2倍になると、こどもが染色体異常になる割合が2.25倍に増えると推定できることがわかった。物質ごとの影響では、すでに製造・使用が禁止されているPFOSがもっとも大きい2.08倍、続いてPFNAが1.81倍だった。

44人の母親の血中濃度は示されていないが、参加者全員の物質ごとの血中濃度(血漿1ミリリットル中)は以下のようだった。この数値がどのような意味を持つものになるのか。現時点では比較できるデータがないが、将来、高濃度地域との比較などの参考になるかもしれないので、掲載しておこう。

生まれてきたこどもの染色体異常の割合は、研究によって1万人あたり約11人〜約63人などとばらつきがあるものの、この調査では1万人あたり約16人だった。

論文は、染色体異常を確認したのが44例と少ないことなどから、「研究結果を慎重に解釈すべき」としたうえで、「今後の研究が必要だ」と付言している。

死産、流産は含まれていない

ただし、この調査では、染色体異常の可能性がありながら分析対象から除外された例が少なくない。

第1に、医師が目視などから「染色体異常」と診断したものの、遺伝子検査を受けていない27例が外れている。

第2に、「人工妊娠中絶」した28例、妊娠12週以降22週以前に「流産」した28例、さらにそれ以降に「死産」した68例の計161例の中にも染色体異常が含まれている可能性があるが、分析対象には含まれていない。

第3に、エコチル調査は「妊娠12週以降」の妊婦を対象としているため、流産が多く起きる妊娠12週以前のデータはもともと含まれていない。

以上をまとめると、今回の調査で、遺伝子検査による診断が行われていない27例を含む188例が検討されていない。また、病院などで確認される妊娠の12〜15パーセントは流産に至り、その原因のひとつが染色体異常とされるものの、妊娠初期(12週以前)の流産はそもそも対象外となっている。

こうしたことを考え合わせると、実際の影響はより深刻なものになる可能性があるとも言えるが、現時点ではわからないという。

発表された論文

研究対象地域は「深刻な汚染」が確認されていない場所なのに…

もうひとつ重要なのは、エコチル調査の対象となった全国15地域には深刻な飲み水の汚染が確認されたところはない、ということだ。つまり、低濃度汚染地域でも染色体異常との関連が示唆されたという点は見逃せない。

はたして、沖縄や東京・多摩地区、岡山・吉備中央町など、過去に高濃度に汚染された飲料水が提供され、地域住民の血中濃度が高いとみられる地域での影響はどうなのか。残念ながら、近く実施される吉備中央町を除くと、自治体による血液検査や健康調査が行われる予定はない。

信州大学の野見山教授は「PFASが染色体異常を引き起こすかどうかについて明らかにするためには、生物学的なメカニズムに関する研究や、妊娠前からの追跡調査など、新たな枠組みでのさらなる研究が必要になる」と語る。

野見山哲生・信州大学教授

論文の発表時に添えられたQ&Aにも「原因となるPFASを特定するためには、さらに大きな集団でのより詳細な検討が必要となります」と書かれている。

だが実際には、エコチル調査のような大規模プロジェクトがほかで行われる見通しはない。だとすれば、今回、染色体異常の可能性が排除できなかった188例について再検証する価値があるのではないだろうか。

いずれにしても、2011年に始まったエコチル調査は対象が10万組と多く、こどもが胎児から40歳になるまでと長い、世界的にもきわめて貴重な疫学調査だ。それだけに、現在、執筆中とされるPFASによるほかの疾患との関連についての論文の発表が待たれる。

スローニュースでは、横田基地からPFOSを含んだ大量の汚染水が漏出したことを米軍が初めて認め、多摩川へ流出したとみられる問題を深く掘り下げています。

諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
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