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津波が迫るなか、人々はどう動いたか。人流データで避難行動を可視化した日経【能登半島地震コンテンツ⑧】

スローニュース 熊田安伸

元日に発生した「令和6年能登半島地震」に関するコンテンツ。「サービス・ジャーナリズム」「公共性」「可視化」などの観点から、メディアなどの発信で注目したものを、これまで7回にわたって取り上げました。

ビジュアル表現といえば、近年、際立ったコンテンツを発信してきたのが日本経済新聞。今回の震災をめぐっては、当初は目立ったものがなかったのですが、ここにきて一気に発信してきました。

漁港の「陸地化」を可視化、600枚の写真で3Dモデルも

今回の特徴的な被害の一つに、沿岸部の隆起があります。日経は石川県内の漁港について、地震の前後で画像を比較。少なくとも13の漁港が隆起によって「陸地化」していることをビジュアルで伝えています。

日経の中の人からは、「経済紙として震災でどういうコンテンツを出すべきなのか」と思案の声も聞こえてきていましたが、なるほど漁港は経済でもありますよね。

13枚の画像が前と後に動的に変化していく演出はちょっと目で追いにくいので、見る人を選びそうだとは思いましたが、漁業の再開が極めて難しい現実がよく分かります。

特にひどかった輪島市門前町の黒島漁港については、膨大な写真を利用して3Dモデルにして見せる演出もしています。3Dにすることによって、どのように隆起したのか、具体的なイメージが持てます。

そして最近の日経ではもはや定番ともいえる、ビジュアル化をどのように行ったのかというノウハウ公開コンテンツも出していますよ。

人流データで避難を検証、どのメディアがやるかと思っていたら、これも日経でした

携帯電話の位置情報などを使って、発災時に人々がどのように避難の行動したのかを明らかにする報道、重要なことなので、必ずどこかのメディアがやるだろうとは思っていました。今回、最初に手をつけたのは日経だったようです。

津波が約20分で到達するとされる珠洲市の浸水想定域で、時系列で人々がどのように避難したかを表現しています。データが取れたケースでは、大津波警報が発出されたころには、浸水想定域を出て避難場所に向かっていたことが分かりました。

この避難時の人々の動きについての報道、本当に重要だと思っています。東日本大震災では、700人が犠牲になった宮城県名取市の閖上地区の住民を対象に大規模な聞き取り調査を行い、「正常性バイアス」の恐ろしさを描いた優れたNHKスペシャルがありました。

以前紹介した朝日新聞のコンテンツがまたリニューアル

このシリーズの第6回で、元々のコンテンツをかなぐり捨てて新たなサイトに作り替えた朝日新聞の「能登半島地震 浮かび上がる被害」ですが、またしてもリニューアルしていました。

前回ほどの全面改修ではなく、機能がたくさん追加されていました。まず、最初のコンテンツの際に見にくさの原因になっていたため、いったんは外された「震源」が、透明な〇の形で再び掲載されました。これなら見やすいですね。

さらに、いつの時点での被害かが分かるよう、日付メモリのバーを追加。何の意味があるのかと思うかもしれませんが、これによって孤立集落の増減や道路の復旧状況などが可視化できるわけですね。これはいい工夫です。

しかし一番最初のサイトはなぜああいう作りだったのかとふと見まわしてみると、去年9月の関東大震災100年の際に、よく似た作りのコンテンツがありました。「写真が伝える」というタイトルも一緒です。

おそらく、地震という事態に直面して、とにかくすぐに使えるフォーマットで制作・発信したんだろうなと合点がいきました。

誰のために何を残すのかを考えて、常にコンテンツを改修していく。大事なことですよね。

スローニュースでは、被災地で取材するジャーナリストに役立つ『災害前線報道ハンドブック』を連載しています。発災時にまず何を取材するべきか、記者の配置はどうするのか、避難所や仮設住宅での着目点は、防災計画などの検証は。こうしたテクニックを実例をもとに連載しています。